前回は、機体に取り付けるさまざまな灯火の話をした。今回は灯火つながりということで、滑走路など、飛行場の側に設ける灯火にフォーカスしてみよう。実のところ、空港の夜景を演出する恰好のアイテムだが、もちろん演出のために付いているわけではない。

機体に取り付ける灯火は主として、「機体の存在や向きを外部から把握する」「機内の乗員が前方の視界を得る」といった目的で取り付けてある。それに対し、地上側の灯火(飛行場灯火)の目的は「滑走路や誘導路の位置を示す」「適切な進入コースを把握できるようにする」「安全な場所か、注意が必要な場所かを示す」に大別できる。以下、それぞれの目的について見ていこう。

進入する経路を示すための灯火

今は、計器着陸方式(ILS : Instrument Landing System)が普及してきているので、昼夜・天候を問わず(といっても限度はあるが)、誘導電波に乗って着陸進入を行えるようになっている。しかし、ILSがない場合もあるし、あっても補助手段として滑走路の位置や進入角を目視できる手段は必要である。

そこで、離着陸を補助するための「飛行場灯火」と呼ばれるものがあるのだが、着陸進入に関わるものから順番に取り上げていくことにしよう。

まず、飛行場の位置が夜間でもわかるようにする目的で設ける、飛行場灯台(aerodrome beacon)がある。白と緑の線が交互に回転する灯台で、これを見通しのよい場所に設置する。

着陸進入に関わる灯火として、最もなじみ深そうなのは進入灯(approach light)ではないかと思われる。滑走路の終端から進入区域内に向けて並べた灯火で、100mまたは300m間隔で並べてある。

  • 大阪国際空港(伊丹空港)の進入灯。前方に滑走路の中心線が見える

羽田空港のように海に面したところでは、滑走路の終端が海に面しているので、進入灯は海上に構造物を設けて設置してある。また、広島空港の西側や成田空港のB滑走路北側のように、滑走路の先で地形が落ち込んでいる場合は、支柱を立てて、進入灯を設けるための鉄骨を組んである。成田空港B滑走路北側の場合、それが東関東自動車道をまたいでいるので目立つが、地面からの高さという点では広島空港のほうが上だ。

次に、進入角指示灯。民航機の場合、着陸進入する際の進入角は3度程度。その進入角が適正かどうかを確認するための灯火がこれで、VASIS(Visual Approach Slope Indicator System)とPAPI(Precision Approach Path Indicator)の2種類がある。先に登場したのはVASISで、ナローボディ機向けの2-BAR VASISとワイドボディ機向けの3-BAR VASISと、2種類がある。

3-BAR VASISでは手前側と遠方側に2列ずつの灯火があり、進入方向から見て、下方に赤,上方に白の光を出す構造になっている。ナローボディ機の場合、手前の1列が白、遠方の2列が赤なら進入角は適正。ワイドボディ機の場合、手前の2列が白、遠方の1列が赤なら進入角は適正となる。

PAPIは横一列・4ユニットの灯火を滑走路の左手に配置するもの。それぞれの灯火ユニットは、0.03~0.07度の幅で赤を、その上下に白を表示している。いちばん内側(滑走路に近い側)の灯火ユニットは公称進入角よりも0.5度高い向きに赤灯を出している。そして、その角度は外側に向けて順番に0.33度ずつ低くなっていく。外側の2個が白、内側の2個が赤なら進入角は適正となる。

  • 大阪国際空港(伊丹空港)のPAPI。陽炎でメラメラになっていて見づらいが

最後に、接地帯灯(touch-down zone light)。白線を並べて接地帯の識別標識を路面に描いてあるが、夜間は見えない。そこで使うのがこの灯火で、滑走路の末端から900mまでの範囲で、路面に白の灯火を埋め込んである。

滑走路などの位置を示すための灯火

話の順番があべこべなような気もするが、次は滑走路などの位置を示すための灯火について。

まず、滑走路灯(runway light)。滑走路の両側に60m、または100m間隔で接地してある白色の灯火で、この間に機体を降ろせば滑走路の上ということになる。ただし、滑走路の幅だけでなく中心も分からないと困るので、滑走路中心線灯(runway center line light)が中心線上に設けてある。間隔は15mまたは30m。これも白色だ。

ただし、どこまで滑走路があるかがわからないと危ない。そこで、離着陸する航空機に対して「使用できる滑走路がどのくらい残っているか」を示すために、滑走路距離灯(remaining distance markerlight)がある。滑走路の先方末端から1,000ft(304.8m)の地点に「1」、2,000ft(609.6m)の地点に「2」といった具合に、1,000ft間隔で設置する。

このほか、滑走路中心線灯は滑走路の端から300mの範囲は赤、端から300~900mの範囲は赤白交互の灯火になる(長さ1,800m未満の滑走路では、これらの数字はそれぞれ半分になる)。

また、滑走路の端には滑走路末端灯(runway threshold light)がある。着陸進入の場合、手前の末端は緑,奥の末端は赤の灯火を設ける。着陸後の滑走中に止まりきれず、赤の末端灯が迫ってきたらまずい。

もしも、オーバーランが起きてしまった場合でも、オーバーラン帯という余裕がとってあるのだが、それを示すのがオーバーラン帯灯(overrun light)。オーバーラン・エリアの両側と末端に設置した赤の灯火である。

ここまでは滑走路の話だが、滑走路と駐機場の間を行き来する際に通る誘導路、それと駐機場にも誘導路灯(taxiway light)がある。いずれも縁がわかるようにする目的で設置してあり、色は青。また、誘導路は滑走路と同様に中心線灯もあり、誘導路中心線灯(taxiway center line light)と称する。

  • 大阪国際空港(伊丹空港)の誘導路。左右の縁に近い部分に、青い誘導路灯が並んでいるのがおわかりいただけるだろうか?

  • 左側にある小さな青い灯火が誘導路灯。なぜか鮮明に撮れなかったのだが御容赦を。ロサンゼルス空港にて

障害物を示すための灯火

最後に、航空障害灯(obstruction light)。これは、航空機の航行に際して障害となる建築物などを視認できるようにする目的で設置する灯火で、要するに高い建物の頂部につけてある。地表または水面から60m以上の高さの建築物などが対象で、赤の点滅だ。工場の煙突や高層ビル、電波塔などでおなじみである。