第420回で、固定翼機やヘリコプターの機首ないしはその周辺に取り付けて、前方向きに使用するセンサーの話を取り上げた。それを書いていたら、「別の形態もあるではないか」と気付いた。それが今回のお題。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

ローターの上部に目玉

もう米陸軍では退役してしまったが、OH-58Dカイオワ・ウォーリアという観測ヘリコプターがある。武装もできるが、あくまで本来任務は観測にある。観測が任務であれば、そのためのセンサーが要る。

そこでこのヘリコプター、メイン・ローターの上部にマストを立てた。メイン・ローターは高速で回転しているが、その上に立てたセンサー・マストは回転しない。その先端部に球形の構造物を取り付けて、そこに光学センサー、赤外線センサー、レーザー目標指示機を組み込んだ。

だから、いくつも目玉が付いた球形構造物を背中に背負った風体となる。なかなか妙ちきりんな外見をしている。

  • テネシー州兵が運用していたOH-58D。ローター・ヘッドの上に、光学センサーを収容した「目玉」を載せている 写真: National Guard Bureau

なんでわざわざこんな場所に、と思いそうになるが、これは運用形態と関係がある。機体よりも高い場所にセンサーを設置すれば、機体は樹木などの影に隠れて、そこから上方にセンサーだけを突き出すことができる。観測の際に用があるのはセンサーだけだから、それ以外のものは敵に見えない方がいい。

AH-64Dアパッチ・ロングボウ攻撃ヘリ

同じようなことをしているのが、AH-64Dアパッチ・ロングボウ攻撃ヘリ。もともとAH-64の一族は、機首にTADS/PNVS (Target Acquisition Designation Sight/Pilot Night Vision Sensor)と呼ばれる光学センサー群を備えており、これが敵戦車の捜索・捕捉や夜間飛行のための赤外線映像取得に使われている。

AH-64Dでは、それとは別にメイン・ローターの上にセンサー・マストを立てて、AN/APG-78ロングボウFCR(Fire Control Radar)とRFI(Radar Frequency Interferometer)を組み込んだ。

電波を用いる探知手段だから、昼夜・天候に関係なく使用できる利点がある。こんな設置場所にした理由は、おそらくはOH-58Dと同じだ。

  • こちら、シンガポール軍のAH-64D。ローター・ヘッドの上にロングボウ・レーダーのフェアリングがあるのが分かる 写真: USAF

口でいうのは簡単だが実現は難しい

さらりと「メイン・ローターの上にセンサー・マストを立てて」と書いたが、実現はかなり面倒くさそうだ。なにしろ、高速で回転しているローター・ヘッドの上に、回転しないマストを立てなければならない。

分かりやすく考えると、メイン・ローターの回転軸を中空にして、その内側に、機体構造とつながって貫通するセンサー・マストを通すことになりそうではある。内外の関係を逆にすると、固定式のマストに邪魔されてローターが回転できなくなるので、これは成立しがたいのではないか。

どう見てもローター・ヘッドまわりの構造が複雑になってしまうので、センサー・マストを立てる代わりに胴体上面、メイン・ローターの直下にセンサー・ターレットを設置している機体もいくつかある。できるだけ高い位置に設置したいが、ローター・マストと一緒くたにするのは構造が複雑化するので避けたい、という場合の選択肢になる。

例えば、我が国のOH-1がそうだし、ユーロコプター改めエアバス・ヘリコプターズのEC665タイガー攻撃ヘリもそうだ。ただし、機首に取り付けるよりもセンサーの位置が高くなるのは良いが、前下方視界に悪影響が生じる可能性が懸念される。

そこでタイガーの実機を見ると、大きく段差を付けたタンデム複座になっているから、前部胴体の機体上面は、けっこう急な傾斜で下がっている。これなら、前下方視界の確保には都合が良さそうだ。

  • タイガー攻撃ヘリ。タンデム複座のコックピット直後、エンジン直前の胴体上部に光学センサーが付いているのが分かる 撮影:井上孝司

ただし、この位置にセンサーを取り付ける場合、最初からそのつもりで機体を設計しておかないと、エンジン空気取入口やトランスミッションと干渉する可能性がありそうだ。

例えば、Mi-24ハインドはコックピット上部にエンジン空気取入口が2個、並んで口を開けているので、ここにセンサー・ターレットを取り付けるわけにはいかない。タイガーは後方の左右に空気取入口を設けているので、そういう問題は起こらない。

  • Mi-24ハインド。この配置では、タイガーと同じ位置にセンサーを載せるのは無理 撮影:井上孝司

今後はどうなる?

ではこの先、同じような仕掛けを備えた武装ヘリコプターや観測ヘリコプターがいくつも出てくるものだろうか。実のところ、そうはならない可能性が高いと思われる。地対空ミサイルの性能が向上して、武装ヘリコプターや観測ヘリコプターが迂闊に敵に近寄れなくなってきたからだ。

もちろん、見つからないように忍び寄り、観測するためのセンサー・マストであるわけだが、何かを突き出さないと仕事ができないことに変わりはない。センサー・マストが見つかれば、そこにヘリがいると分かってしまう。

むしろ、AH-64Eアパッチ・ガーディアンがすでに始めているように、武装ヘリコプターと無人機を組ませる、いわゆるMUM-T(Manned and Unmanned Teaming)が今後の方向かもしれない。先行する無人機に偵察をさせて、敵を見つけたら後方から武装ヘリコプターが長射程のミサイルで交戦する。すると、欲しいのはセンサー・マストよりも通信アンテナということになる。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第4弾『軍用レーダー(わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。