上方を見るセンサー、下方を見るセンサー、などと話が続いたが、この両方に関わりを持つ分野がある。それが各種の航法機材。ということで今回は、センサーの中でも航法に関わるものに関する話をまとめてみる。

なお、航法の手段については、→第104回。で取り上げているので、そちらも参照していただければと思う。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

上向きの航法用センサー

航空の世界には、海事の世界と共通する話がいろいろある。航法の際に天測を使用するところも、その一つ。つまり、六分儀を使って星の位置を測り、それをあらかじめ作成してあるチャートと照合することで現在位置を出す。

艦船の場合

これが艦船なら、上甲板や船橋/艦橋の側面に張り出したウィングといった露天甲板に出れば頭上の星を見ることができるが、飛行機ではどうするか。そこで、専任の航法士を乗せていた昔の大型機には、胴体上面に天測用のドームを張り出させていた機体があった。航法士は六分儀を持ってドームに入り、頭上に見える星の角度を測る。

  • B-29爆撃機の機首を上から見下ろす。左上の方に、透明なドームが突出しているのが見えるが、これが天測用のドーム 撮影:井上孝司

その操作を機械化したのが、第104回でも取り上げたアストロトラッカーだが、天体の位置を測るという基本的な考え方は共通だ。だから、これもやはり胴体上面に設置する必要がある。

GNSSの受信用アンテナ

このほか、GPS(Global Positioning System)に代表されるGNSS(Global Navigation Satellite System)の受信用アンテナも、胴体の上面に設けるのが一般的。なにしろ衛星が地表に向けて送信する電波を受けるのだから、電波は上から降ってくる。それを受けようとすれば、上方が開けていなければならない。

面白いのがU-2偵察機の初期型。なにしろ1950年代の開発だから、この機体も航法手段の一つとして天測を使用していた。ただし一人乗りで航法士を乗せてはおらず、パイロットが操縦しながら航法もやっていた。すると、どうやって天測を行うのかという問題が出てくる。

そこでU-2の初期型は機首に天測用の光学系を組み込み、そこからプリズムを介して光路を計器板上部まで引っ張ってきた。パイロットはそのスクリーン(直径6インチの円形)を見ながら天測を行い、機位を出すわけだ。そのため、機首の上面に天測用の小窓が付いていた。

面白いのは、この光学系は途中で枝分かれしていて、下方向きの光学系も設けてあったこと。これはドリフトサイトといい、機体が横風で流される度合を見る、いわゆるドリフト(偏流)を調べるのに使う。

ドリフトサイトには副次的な用途(?)もあり、下方から自機に向けて上昇してくる戦闘機を見ることもできた。当初、U-2はソ連上空を領空侵犯して写真を撮っていたから、当然ながら迎撃戦闘機が上がってくる。それを見下ろしながら飛ぶのは、あまり気分のいいものではなさそうだ。

真下向きの航法用センサー

第二次世界大戦中に、爆撃機が敵戦闘機による迎撃を避ける目的で夜間に飛ぶようになった。すると航法が問題になる。慣性航法装置 (INS : Inertial Navigation System)もGNSSもない御時世だ。

そこで考え出された方法の一つが、眼下の地形を見る方法。といっても、いまの合成開口レーダー(SAR : Synthetic Aperture Radar)みたいな高解像度の画は期待できない。地面と海面・湖面の区別がつく、という程度のものだが、それでも当時としては画期的だった。

  • 同じB-29を下から見上げると、胴体下面に白っぽい色のレドームが付いているのが分かる。これがAN/APQ-13レーダー 撮影:井上孝司

それが、イギリスで開発されたH2SやH2X、アメリカにおけるH2Xの派生モデルであるAN/APQ-13、そしてAN/APQ-7イーグルといったレーダーの一群。H2SはSバンド(波長10cm)の電波を使用したが、H2XはXバンド(波長1.5~3cm)の電波に変わり、分解能がいくらか向上した。

この種のレーダーは眼下の地形を見るわけだから、当然ながらアンテナを下向きに設置する。そこで胴体下面にアンテナ・フェアリングが突出することになった。

前方向きの航法用センサー

前方というか、正確には前下方だが、ドップラー・レーダーが該当する。レーダーから地面に向けて電波を放ち、その反射波を受信する。そこで問題になるのは、受信した反射波と送信波の間に生じる周波数の変化(ドップラー・シフト)。

機体が前進しながら地表に向けて電波を放てば、その反射波はドップラー・シフトを生じる。そのドップラー・シフトの変化量を知ることは、機体と地面の間の速度差を知ることにつながる。対気速度計は向かい風や追い風の影響を受けるが、ドップラー・レーダーなら対地速度を直接的に把握できる。

そして、地べたに向けて電波を放つ必要があるから、アンテナは必然的に前下方向きに設置することになる。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第4弾『軍用レーダー(わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。