前回は、ANAの次世代国内線フラッグシップ機「787-10」の取材の模様をお届けしたが、今回はセンサーの話に戻って。前々回までは基本的に、機体に各種のセンサー機器を固定設置する前提で書いてきた。ところが軍用機の場合、センサー機器が独立したポッドの形になっていて、それを必要に応じて機体に搭載する場面がある。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

兵器を誘導する「ターゲティング・ポッド」

例えば、ターゲティング・ポッドという製品がある。機能の部分を日本語に訳すと「目標指示ポッド」。電子光学センサー、赤外線センサー、測距用のレーザー、目標指示用のレーザーといった機器を、旋回・俯仰が可能なターレットに組み込んだ製品。

普通、筒型のポッドの先端部にセンサー・ターレットを取り付けて、前下方の視界を確保する。その後方の筐体内部には、電源や冷却、データ処理などの機材を収める。

  • B-1B爆撃機が胴体下面に取り付けている、AN/AAQ-33スナイパーというターゲティング・ポッド。右端に光学センサーの窓があるのが分かる 撮影:井上孝司

基本的な使い方は、電子光学センサーや赤外線センサーで目標の映像を得て、その中から「これを爆撃する」と指示する。その目標に対して測距レーザーで距離や方位を測ったり、レーザー誘導兵器を誘導したりするためのレーザー・ビームを照射したりする(兵器はそのレーザーの反射波、別名スパークルをたどる形で誘導される)。

また、近年ではGPS(Global Positioning System)を使用する誘導兵器が増えているが、これは目標の緯度・経度を入力しないと発射できない。そこで、目標の緯度・経度を調べる機能を備えたターゲティング・ポッドが出てきた。自機の緯度・経度と、自機から目標を見たときの方位・距離が分かれば、目標の緯度・経度を計算できる。

ターゲティング・ポッドは前下方向きに使う

こういう使い方をするものだから、前下方に視界が開けた場所に設置する必要がある。古くはF-111Fアードバーク、最近だとF-35みたいに、胴体や機首の下面に内蔵する機体もあり、この方が空気抵抗を抑えられるし、ガッチリ固定できる。その代わり、必要なときでも不要なときでも常に機材を持ち歩くことになる。

  • F-35の機首下面に突き出ている多面体が、AN/AAQ-40 EOTS(Electro-Optical Targeting System)のセンサー窓。AN/AAQ-33と一部のパーツが共通であるらしい 撮影:井上孝司

その点、独立したポッドの形にしておけば、「必要なときだけ搭載して出撃する」とか「もともと搭載していなかった機体に後付けで搭載する」といったことができる。

ターゲティング・ポッド以外では、F-16の一部でAN/ASQ-213 HTS(HARM Targeting System)というポッドを取り付けている事例がある。これはAGM-88HARM (High-speed Anti Radiation Missile) 対レーダー・ミサイルのために、攻撃対象となる敵レーダーの位置を突き止めるためのもの。

  • これがHTS。HARMはウクライナにも供与されているが、HTSは供与していないから、目標の位置標定ではハンデを負っていると思われる 撮影:井上孝司

ポッド搭載の難しさ

外部にポッドを追加搭載すると、当然ながら機体の外形が変わる。だから空力的な影響が生じる。また、高速で飛行している機体の外部にポッドみたいな「ひっつきもの」が加われば、空力的に荷重がかかるので、ポッドを取り付けている部分の機体構造にも追加の荷重がかかる。

兵装搭載パイロンにターゲティング・ポッドを取り付ける方法なら、もともと「吊るしもの」が加わる前提の場所に搭載するわけだから、荷重条件の面では問題は少ない。それに、ターゲティング・ポッドはたいていのミサイルや爆弾より軽い。

しかし外形が異なるから、空力的な影響については検証し直しである。それに、兵装搭載パイロンを使うと、その分だけ兵装を搭載する場所が減ってしまう。

だから、センサー・ポッドを機体下面に取り付ける際には、専用のパイロンを用意することも少なくない。例えば、F-15Eは左右の空気取入口下面にセンサー専用パイロンを備えているし、F-16も空気取入口の左右にセンサー専用パイロンを備える事例がある。前下方に視界が開けていて、かつ、搭載兵装と干渉しない場所というと、この辺になるようだ。

単に取り付ければ終わりとはいかないのが、センサー・ポッドの難しいところ。動作に必要な電力を供給するための電源だけでなく、センサーが捉えたデータを送り出すための配線も必要になる。ポッドだから着脱可能にする必要があり、当然ながら配線用のコネクタも設けなければならない。

そしてなんといっても、ポッドがぐらついたり振動を起こしたりしないことが不可欠だ。そんなことになったら、光学センサーの映像は使い物にならないし、レーザーによる測距や目標指示の精度にも響く。だから、地上で静止している状態だけでなく、飛行中、機体の機動や空力に起因する荷重がかかった状態でも、ガッチリ固定した状態を維持する必要がある。

こんな具合に考えていくと、センサー・ポッドの取り付け位置選定や実際の取り付けは、けっこう難しい仕事と思える。特に、すでに存在する機体に対して後から追加搭載することになった場合には。

例えばF-16は、ブロック15からステーション5L/5Rとして空気取入口の左右に兵装搭載場所の用意を加えた。それが後日の改良型になって実際に使われるようになった。

先にB-1B爆撃機が搭載するスナイパーの写真を載せたが、位置は主翼前方の胴体右側面下方。ここはもともと、兵装搭載パイロンが用意されていた場所だ。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第4弾『軍用レーダー(わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。