11月19日に成田空港で、ヤマトグループの貨物輸送機(フレイター)が報道公開された。これはヤマトグループがJALグループと組んで運航するもので、A321-200 P2Fと呼ばれる機体。3機を導入して、2024年4月11日から運航を開始する予定。連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

  • 報道公開の場には「クロネコ・シロネコ」も登場 撮影:井上孝司

A321P2Fとは

P2Fとは聞き慣れない略語だが、これはPassenger to Freighter、つまり旅客型の機体を貨物型に転換改修したもの。ちなみに、ライバルのボーイング737にも旅客型の貨物化転換改修モデルがあり、こちらはBCF(Boeing Converted Freighter)と称している。

  • A320-200P2F(JA81YA)の全景 撮影:井上孝司

ただ、737ベースではロワーデッキがばら積み貨物専用となり、コンテナの搭載はメインデッキに限られるのがつらいところではある。実際、報道公開時の資料を見ると、「ロワーデッキにもコンテナを搭載できる」「737-800フレイターと比べてA321-200 P2Fは貨物搭載量が約20%多い」といった内容の記述がある。

今回、報道公開された1号機は登録記号JA81YA。改修が行われたシンガポールから日本にフェリーされた時点での登録記号はF-WTAXだったが、元をたどるとカタール航空で使われていた機体(当時の登録記号はA7-AIA)。なお、2号機のJA82YAと3号機のJA83YAも同様に、元カタール航空機だ。既出の報道による情報も併せると、この3機の陣容は以下のようになるようだ。

日本における登録記号 カタール航空時代の登録記号 製造者番号(MSN : Manufacturer's Serial Number)
JA81YA A7-AIA MSN4173
JA82YA A7-AIC MSN4406
JA83YA A7-AID MSN4530
  • エンジンはIAE製V2500を使用しており、これは同じJALグループに属するジェットスター・ジャパンの機体と同じ。中古機の選定に際して、エンジンは判断材料のひとつになったと思われる 撮影:井上孝司

貨物化改造は意外と大がかり

当初から貨物型として造られた機体であれば、メインデッキの床には、腰掛取付用のレールを設置する代わりにコンテナ移送用のローラーを設置した状態で竣工するし、側面には貨物の出し入れに使う大形の扉も設置できる。

しかしP2Fは旅客型からの転換改修だから、貨物の搭載に特化した改造が行われている。その内容は、意外なほど大がかりだ。

まず、これは誰でも分かることだが、メインデッキの内装をすべて取り払っている。また、客室の窓は貨物型には無用の長物だから、左右ひとつずつを除いて埋められた。これは、既存の窓をひとつずつ取り外して、できた開口部に胴体と同じアルミ合金製のパネルをはめ込む方法で実現している。

メインデッキの床は、腰掛取付用レールの代わりにコンテナ移送用ローラーが取り付けられた。それに先立ち、フロアビームと呼ばれる構造材を交換している。これは、貨物を搭載するための補強だという。このほか、胴体の各所が補強されている様子が外からでも分かる。

  • メインデッキの貨物室全景。床に、コンテナの移動を容易にするためのローラーが組み込まれている 撮影:井上孝司

  • 反対側、コックピットとの境界部に設けられた隔壁。なお、貨物室も与圧対象だから、ここに大きな圧力差が生じるわけではない 撮影:井上孝司

貨物室の扉は、ロワーデッキは既存のものをそのまま使用する。つまり右舷側の胴体下部側面、主翼の前後に一つずつだ。一方、メインデッキは左舷側の胴体上部側面に、上ヒンジの扉が新設された。既存の機体構造を切り取って、そこに扉を含む新たな機体構造を取り付ける方法で実現している。

  • 左舷側のメインデッキ用貨物室扉は、このように上ヒンジで開く 撮影:井上孝司

また、旅客型で使われていた客室扉はすべて埋められるか固定されるかしている。ただし、運航乗務員が乗降するための扉は必要だから、左舷側のコックピット直後に、旅客型のそれより幅と高さを小さくした扉が新たに設けられた。これは、貨物室のスペースをできるだけ大きくとるための措置。こちらも、既存の外板を切り取って、そこに扉を含む新たな機体構造を取り付ける方法で設置している。

  • これは旅客型のA321LR。R1ドアが首脚の真上にあるのが分かる(L1ドアも同じ位置) 撮影:井上孝司

  • こちらはA321-200 P2Fの機首左側面。新たに設けられた扉の位置が、首脚よりも前方にあるのが分かる。その扉のすぐ右側から貨物室だ 撮影:井上孝司

なお、コックピットはおおむね旅客型と同仕様。そのコックピット直後の右舷側にラバトリーが設けられており、運航乗務員の乗降に使用する扉はその左舷側となる。国内線のみで運航時間が短いため、ギャレーの設備はない。

ディテールをいろいろ紹介

ここからは、実機のディテールをいろいろ御覧いただこう。

  • 貨物室には火災検知装置がいくつも取り付けられている。貨物機では客室乗務員が機内を巡回しているわけではないから、重要性は高い 撮影:井上孝司

  • 前部胴体の右側面。R1ドアは取り外されて板が当てられているが、主翼直前のR2ドアはそのまま残され、単に固定されている。ロワーデッキ用の貨物室扉や、その後方に取り付けられた補強材が見て取れる 撮影:井上孝司

  • 前部胴体の左舷側。右舷側と同様に補強材が当てられている。たくさん打たれたリベットが、けっこう目立つ 撮影:井上孝司

  • 左舷側、主翼直後のL3ドア。これも扉は残して固定されている。ドアと、その下に組み込まれている脱出用スライドについて「DEACTIVATED」との記述がある 撮影:井上孝司

  • 左舷側の後部胴体。運航を担当するスプリングジャパンのロゴが入れられている。埋められた窓や、胴体に追加された補強材が分かる 撮影:井上孝司

続きは、次回に

なお、運航はJAL連結子会社のスプリング・ジャパン(旧・春秋航空日本)が担当する。これは興味深いところで、同社はこれまで、ボーイング737を運航してきた。A321P2Fを運航するために、新たにA320ファミリーの資格を持った運航乗務員を確保する必要がある。そこで報道公開当日から、運航乗務員の慣熟訓練を始めている。

今回は機体の話に的を絞ったが、貨物輸送機として不可欠となる貨物の搭載に関する話、それと運航計画については、次回に取り上げる。

  • 駐機場に曳き出されたJA81YAが、運航を担当するスプリング・ジャパンの737、それとJALの787と並ぶ。関係三社の揃い踏みである 撮影:井上孝司

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第3弾『無人兵器』が刊行された。