この半導体ニュースのまとめ
・AIデータセンターの800V直流化に向け、SSTとSSCBの導入拡大が見込まれる
・SSTは変圧設備を小型・軽量化し、SSCBは故障電流を約3μ秒で遮断可能
・日本では直流750V超が高圧扱いとなり、800Vデータセンター導入の壁となる
Infineon Technologiesの日本法人であるインフィニオン テクノロジーズ ジャパンは10月29日、「SST(Solid State Transformer)」および「SSCB(Solid State Circuit Breaker)」に関する説明会を開催したので、その内容をご紹介したい。ちなみに今回は、特に新製品が発表されたという訳では無く、業界動向とこれに向けての同社の取り組みの現状に関する説明である(Photo01)。
昨年も同種の説明会が行われたが、これのUpdateといった感じだ。
再生可能エネルギーの拡大で電力需給の調整が複雑化
まず冒頭に昨今のデータセンターの電力供給の課題というか問題の展望が色々語られたが、この辺は一般的な課題でもあるので割愛する。ただちょっと興味深かったのが、日本におけるエネルギー供給源の見通しに関するスライドである(Photo02)。
現在の日本では圧倒的に火力発電が主流であるが、2040年頃にはこれと再生可能エネルギーが同等レベルになるという見通しが示されている。これの何が問題か? というと、需給バランスを取るのがさらに難しくなるという事だ。
電力網では需要と供給のバランスを取る事が必須になるので、供給が余りそうなら絞る、足りなくなりそうなら増強すると言った系統網での調整が必要になるのだが、そうした事が一番簡単なのは火力であり、再生可能エネルギーではこうした出力調整は難しい。現在でも色々と需給の関係が複雑で、かつ不安定になっているのだが、今後はさらに複雑になってゆくと考えられるという話である(Photo03)。
AIデータセンターの電力供給を支えるSSTとSSCB
ということで本題。データセンターだけでなく直流マイクログリッド、分散型電源システムなどを今後構築してゆくには、Transformer(変圧器)やブレーカーを半導体化してゆく必要がある、という話である(Photo04)。
またデータセンター内の給電も、まず当座はSidecarをラックの脇に置く形になるが、将来的には設備側にSSTが置かれる様になる、と説いている(Photo05)。
さてここからが製品の話になる。今年に入ってからInfineonは多数の企業との協業を発表しており、これはSSTおよびSSCBがメインである(Photo06)。
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Photo06:最新のものが、10月26日の発表である
小型・軽量化と双方向給電を可能にするSST
まずSST。変圧器と言えば低周波トランスをベースとしたものが多く使われてきた。効率は悪くないが、なにしろ巨大でかつ重い。しかも双方向の給電は出来ないとか、そもそもACのみの対応なので、DC電源の変圧には前後にDC/ACの変換が必要になるといった問題がある。
これに対しSSTではなにしろ寸法が小さいから軽いし、納入期間も半減できるし、構成を自由に変更し易いといったメリットがあるとしている(Photo07)。
SSTは要するにDC-DC Converterをベースとしたもので、ここに使われる高周波トランスは低周波トランスよりも遥かに小さいから、製造も容易だし大きさも抑えられるといった特徴がある(Photo08)。ただDC-DC Converterを挟む形になるので、どうしても前後に回路が必要になる。
このSSTの使われ方は、もちろんデータセンター内に使われる事もあるが、どちらかと言えばそのデータセンターの手前の方が需要が多くなると想定している様だ(Photo09)。
CoolSiCとEasyPACKでSSTの設計を簡素化
ここにおけるInfineonの強みは、同社のCoolSiCを使う事でシステムを簡素化できる(Photo10)ことであり、CoolSiCを搭載したEasyPACKを利用する事で設計が容易になるとしている(Photo11)。
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Photo11:Easy CシリーズというのはEasyPACK C Packageとして2025年10月に発表されたもの。この当時はEVや産業用アプリケーション向けという説明だったが、そのままデータセンターを含む電力網のSST向けにも利用できるという訳だ
EasyPACKは何種類か用意されているが(Photo12)、大きさは手にもてる程度(Photo13,14)であり、IGBTベースの従来製品と比較して大幅な小型化が可能であるとしている(Photo15)。
SST向けの製品は現在サンプル出荷中で、年内に量産開始という話である(Photo16)。
直流の故障電流を約3μ秒で遮断するSSCB
次がSSCBの話。要するにブレーカーであるが、現状はSidecar側に置かれているブレーカーは、次世代ではラック内部(というか、この描き方だと多分ボード上)にブレーカーが置かれる格好になる(Photo17)。
このブレーカーだが、従来のアナログ式から今後はSSCBに移り変わり始めると同社は見ている(Photo18)。
理由は遮断性能の違いである。そもそもACの場合、一定周期で電流の向きが変わる=ゼロ点が存在するから、そこで遮断すれば問題ないのだが、DCでは電圧が上がると遮断してもアークにより流れが続く可能性がある。これをどうやって最小限に抑えて迅速に遮断するかが大きな要因になる(Photo19)。
なぜ迅速に遮断する必要があるか? Photo20は例えばどこかでショートが発生した場合の例である。右のグラフはショートが発生してから流れる故障電流の大きさを時系列グラフとしたものだが、100μsecで10000A、1msecだと100000Aもの電流が流れてしまう。当然こんなものをそのまま機器に流したら危険なので、その前にブレーカーで止めたい訳だが、従来のHCBとかバイロヒューズ、機械的スイッチではどうしても反応に時間がかかる。ところがSSCBでは3μsec程度で反応できるので、100A程度の故障電流で抑えられるという訳だ。
SSCBはラックやボードに近いブランチレベルへ
SSCBは逆に言えばそれほど容量は大きくないので、導入はブランチレベルとなる。要するにボード上とかに置かれるブレーカーにこのSSCBを導入する格好になる(Photo21)。
同社は電流容量に応じて複数のソリューションをSSCB向けに提供しており(Photo22)、すでにハイパースケーラーなどでは採用がされている例もあるようだ。
日本の800Vデータセンター導入を阻む「直流750V」の壁
ということで簡単に同社のSST/SSCBに関する取り組みが説明された訳だが、実は日本では色々難航している様だ。
最大の理由は電技省令(電気設備に関する技術基準を定める省令)に関係している。NVIDIAは800Vデータセンターを本格的に導入する事を2025年からアナウンスしており、実際今年から導入も開始されている訳だが、日本においては電技省令第2条により低圧は直流750V/交流600Vと定められており、これを超える電圧は高圧扱いになっている。
ちなみにIEC 60364では直流1500V以下が低圧扱いである。なのでNVIDIAの800V規格も低圧扱いなのだが、日本にそれを持ってくると高圧扱いになる。このため日本においては施工要件や保安体制が異なる対応が必要になる。特に施行要件(防護措置とか離隔距離の要件)が、ラック内へ実装を非常に困難にしている(少なくとも現行法令では、NVIDIAの標準的な設計がそのまま導入できない公算が高い)。藤森氏によれば業界団体などにより色々取り組みがなされているそうだが、相手が法令だけに簡単には解決する訳でもなく、まだ日本で800Vデータセンターを運用できる様になるまでは時間が掛かる模様だ。
法令解釈と業界連携が普及の鍵に
一応法令の解釈次第でこれを緩和できる方策がある(太陽光発電や蓄電池などで、電技解釈(電気設備の技術基準の解釈)第46条を利用してこれを回避した実例がある)のでまったく不可能ではない模様だが、このあたりがもう少し方法論として定まるまで、日本ではそもそも800Vデータセンターが設置できないため、SSTやSSCBを利用した新機器を導入する動機が薄い、というのが目下のインフィニオン テクノロジーズ ジャパンとしての課題との話であった。



















