企業でAIを実際の業務に組み込むには、AIの出力精度だけでなく、既存システムが担ってきた処理や、担当者の判断をどう扱うかが問題になる。NTTデータグループでは、ServiceNowのGlobalチームと連携し、社内問い合わせ対応、システム開発、基幹業務でAI活用を進めているという。

10月27〜28日に開催された「ServiceNow World Forum Tokyo」では、同社ITマネジメント室 Employee Success & アーキテクチャー統括部 統括部長 髙田哲生氏とビジネストランスフォーメーション統括部 アプリケーションスペシャリスト 濃沼康路氏が登壇。「AI Worker × AI Developer、その最前線へ。 ~ServiceNow Globalと挑んだ業務AI・開発AIの最前線~」と題し、特に請求業務へのAI導入で直面した課題と、そこから得た知見を紹介した。

AI Workerで社内ITヘルプデスクの自動化を推進

NTTデータグループがServiceNowと進めるAI活用には、問い合わせ対応の自動化を目指す「AI Worker」、開発を支援する「AI Developer」、基幹業務にAIを組み込む「AI-Driven Workflow」の3つの軸がある。最初に髙田氏が紹介したのは、AI Workerによる社内ITヘルプデスクの改革だ。ヘルプデスクには年間約5万~6万件の問い合わせがあり、一次受付を約50人が担当してきたという。

  • 3領域

    NTTデータグループは「AI Worker」「AI Developer」「AI-Driven Workflow」の3領域でAI活用を進めている

「システムが120以上あるので、問い合わせを人が判断し、振り分けるのが難しい。メンバーの育成も大変で、コスト以前に対応そのものが大きな負担でした」(髙田氏)

  • 髙田哲生氏

    NTTデータグループ ITマネジメント室 Employee Success & アーキテクチャー統括部 統括部長 髙田哲生氏

そこで、ServiceNowの「Now Assist Skill Kit」(以下、NASK)で問い合わせへの回答を自動生成する仕組みと、問い合わせ対応全体の自動化を目指す「Zero Touch Service Desk」を併用。講演時点でAIを適用した問い合わせは2,000件以上に上り、NASKによる自動回答の正答率は約80%だという。現状、Zero Touch Service Deskは人が回答内容を確認するパイロット運用の段階にあり、今後、自動化の範囲を広げる方針だ。

開発支援AIの検証、不具合分析で約80%の工数削減を試算

続いて紹介されたAI Developerは、ServiceNowの開発支援エージェント「Build Agent」などを利用して開発・運用工程を変える取り組みだ。NTTデータが進める業務・IT変革の全社プロジェクト「Project GAIA」では、製造や単体テストといった自動化しやすい作業をAIに任せ、人は要件定義やシステムテスト、受け入れテストなどに集中することを目指している。

ただし、大規模な基幹系システムには多くの開発チームが関わり、既存の構成も複雑だ。加えて、大規模システムは維持・運用の比率が大きく、新規開発に比べて製造や単体テストの割合は小さい。そこで、ServiceNowの生成AI機能「Now Assist」とBuild Agentを工程に応じて使い分けているという。

これに対し、ServiceNowの標準機能を比較的多く使う従業員サービスやITサービス向けのシステムでは、Build Agentを使った開発・運用工程の工数削減をPoCで検証している。

「意外だったのは不具合分析です。Build Agentというと開発工程に適用したくなるのですが、不具合があった後の分析や影響調査で、80%ぐらいの効果が出るという結果になっています」(髙田氏)

この80%はPoCにおける工数削減効果の試算値であり、本番業務で確定した削減実績ではない。結合テストやテスト結果の整理では削減効果が小さく、作業工程によって差が出ている。AIの適用先を見極める必要性を示す結果だ。

  • PoCで試算した工程別の工数削減効果

    Build AgentのPoCで試算した工程別の工数削減効果。不具合分析は約80%だった一方、工程によって差が見られた

請求業務では、AIによる入力と事前審査を一体化

講演後半では、濃沼氏がAI-Driven Workflowとして、基幹業務へのAI導入を詳しく説明した。Project GAIAで構築した業務基盤では、従来は別々に扱っていた意思決定と会計・事務処理を一つのワークフローでつないでいる。また、同社は一度入力した情報を後続の業務でも利用する「Single Input & Multi-Use」の考え方で、業務プロセスを統合してきた。

この既存の業務フローにAIを組み込む第一弾として選んだのが、随時請求業務だ。随時請求は件数が多いものの、選定理由はそれだけではない。標準的な取引パターンが比較的多く、契約書や納品書、検収書などの文書を参照して進めるため、入力支援に加え、審査にもAIを適用できる可能性が高いと判断したという。

例えば「回収予定日」を入力するには、契約書から支払条件を確認し、納品日を基に日数を計算した上で、金融機関の休業日に当たる場合は翌営業日に補正する必要がある。

まず、関連文書からAIが必要な情報を抽出して申請内容を入力し、続けてAIが事前審査を行う流れだ。開発中の仕組みにおけるカバー率は、入力項目で最大70%、審査観点で最大84%だという。すべてをAIだけで完結できるわけではないため、人が不足項目を補い、修正を加える必要がある。

  • AIによる入力と事前審査を申請段階で連動

    AIによる入力と事前審査を申請段階で連動。入力項目は最大70%、審査観点は最大84%をカバーする

つまり、AIによる入力と事前審査を一体化し、従来は後工程で行っていた確認を申請段階に前倒しすることで、差し戻しと申請・審査双方の負担を減らす狙いだ。いわゆる、「シフトレフト」である。

第1の課題:業務知識をAIが使える形に構造化

請求業務への導入で直面した第一の課題は、担当者の業務知識をAIが使えるルールに変える「ナレッジエンジニアリング」だった。

「マニュアルをそのままAIに渡しても、解釈できるわけではありません。人は『この契約形態なら、このルールを参照し、ここを確認すればいい』という前提条件を頭の中に描きながら読んでいます。AIにも、その前提条件を明らかにしてあげる必要があります」(濃沼氏)

  • 濃沼康路氏

    NTTデータグループ ITマネジメント室 ビジネストランスフォーメーション統括部 アプリケーションスペシャリスト 濃沼康路氏

そこで、「判定対象・適用条件」「参照情報・判定ロジック」「判定結果」「判定理由」の4つの観点でルールを構造化し、問題がある場合は確認・修正すべき内容まで示せるようにした。

さらに、過去の担当者による審査結果とAIの判定を比較し、不一致の原因を調べた。その過程で、複数の契約形態が混在する場合の扱いなど、暗黙知になりやすい例外条件や確認範囲が明らかになったという。

「大事なのはAIの回答を直すことだけではなく、このパターンは人に任せ、ここからはAIに任せるという境界を明確にすることです。業務知識を構造化するだけでなく、実際のデータで検証する必要があると学びました」(濃沼氏)

第2の課題:AI経路で既存の業務ロジックをどう再現するか

第二の課題は、稼働中の基幹システムを止めずにAIを組み込むことだ。濃沼氏らは業務継続性、AIの出力を検証・制御できること、組織や業務ごとに段階的に導入できることを重視した。そのため、従来の入力経路を残したまま、AIを利用する場合だけ通る別の経路を新たに用意する構成を採用した。

  • 既存の入力経路を維持しながら、AI処理用の経路を新設

    既存の入力経路を維持しながら、AI処理用の経路を新設

この方式では、AI側でも既存の業務ルールを再現しなければならない。ところが実装を進めると、当初の見積もりを大幅に超える対応が必要になった。

「当初は全体の業務ロジックの3分の1ぐらいを移設すればよいと考えていました。しかし、実際には少なくとも3分の2以上のロジックで、移植や調整が必要になりました」(濃沼氏)

理由は、人が画面から入力するときと、AIがデータを書き込むときでは、実行される処理が異なることにある。従来の画面操作では、画面側の入力制御と、データ保存時の処理を組み合わせて業務ルールを実現している。しかし、AIの入力経路では、人が画面を操作するときの画面イベントを介さずに値を設定するため、一部の処理が実行されない場合がある。その結果、期待したデータが得られないことが判明したのだという。

濃沼氏は、既存ロジックがどの操作を前提に動くかを把握し、代表的な業務パターンでAI経路から同じ結果を再現できるか、早い段階で検証することが重要だと強調。既存経路との共通化は保守性を高める一方、改修や回帰テストの負担が増え、AI経路側で再現すれば既存業務への影響を抑えられるが、ロジックの移植・調整が必要になるため、業務の重要性と必要工数を踏まえた判断が求められると語った。

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今後同社は、随時請求業務で得た知見を他の業務や利用組織にも展開していくという。また、文書からの情報抽出だけでは難しい判断について、社内外のデータや業務上の文脈を組み合わせ、AIが対応できる範囲を広げることも目指す。

こうした拡大や高度化と並んで、濃沼氏が重視するのがAI導入後の運用だ。

「AIは導入して終わりではありません。品質や精度、処理コスト、トークンの消費量が妥当なのか。そして、価値を出し続けられているのかをモニタリングし、継続的に改善していくことが大事だと思っています」(濃沼氏)