企業で生成AIを「使っている」86.4%、「組織的な取組はない」27.0%
「生成AIを使っているか」という問いには、すでに答えが出つつあります。総務省が2026年7月に公表した令和8年版情報通信白書によると、何らかの業務で生成AIを利用していると回答した日本企業の割合は86.4%に達しました。2024年度調査の55.2%から大きく伸び、米国(90.9%)やドイツ(91.6%)との差もほぼ埋まっています。
同じ調査で「全社横断的に事業変革やイノベーションに取り組んでいる」と回答した日本企業は21.5%だった一方、生成AIによる業務変革について「組織的な取り組みはない」と答えた日本企業は27%にのぼりました。米国の1.4%、ドイツの4.9%、中国の2.6%と比べると、後者の数字は際立って高いといえます。
これらの回答から、日本企業の中では、生成AIを使う人が増えたものの、組織的な利用は進んでおらず、仕事の進め方そのものはまだ大きく変えられていないことがわかります。
AIエージェント、すなわち自律的に判断し、ツールを操作して一連のタスクを自律的に遂行する生成AIについても、構図は同じです。調査やPoC(Proof of Concept:概念実証)や実証実験は各社で進んでいます。しかし、業務に有機的に組み込まれ、日々の業務を変革した例は、まだ多くありません。
企業でのAI活用を推進する4要素とは?
この1~2年で、生成AIの能力は大きく向上しました。生成AIを日々使っている方は、それを体感していると思います。また日々新しいAIのモデルが出て、ベンチマークのスコアも日々上昇しています。
それでもPoCから本番環境まで広く展開できないのは、生成AI自体の賢さではなく、企業の中でAIを活用する仕組みが原因です。企業で生成AIやAIエージェントが最大限の能力を発揮し、企業のAI活用の競争力を作るには、最大の差別化要素である、企業が保有するデータやその知識と、AIを組み合わせることが肝になります。
そして企業でのAI活用を推進するには、4つの要素を押さえる必要があります。Context(文脈)、Choice(選択肢)、Control(コントロール)、Cost(コスト)の4つです。
連載では、この「4つのC」を軸に、日本企業がAIエージェントを本格展開するために何を準備すべきかを、今後4回にわたって掘り下げていきます。
AIエージェントに必要なのは、賢さではなく「Context(文脈)」
多くのAIエージェントは、世間一般で使われる日本語も業界専門用語も理解します。しかし、あくまでも、世間一般で認知されている情報や知識に基づきます。
とある企業で「売り上げ」がどの数字を指すのか、「アクティブユーザ」を何日間の利用で定義しているのか、また同じ企業でも部門をまたいだときにその定義がどう変わるのかまではわかりません。新入社員が数カ月かけて覚えることを、AIは情報として与えられなければ知らないままです。
Contextがない状態のAIエージェントは、もっともらしく、しかし自社の現実とズレた答えを返します。しかも自信を持って返してくるため、誤りに気づきにくいという問題があります。「PoCでは動くのに本番で使えない」という状況が生まれる最大の理由は、ここにあります。
必要なのは、社内に散らばった定義・関係性・信頼できる情報源を、AIが参照できる形に整えることです。第2回では、この業務知識の構造化、オントロジーやセマンティクスなどの考え方を扱います。
「Choice(選択肢)」の自由度を高め、ロックインを避ける
生成AIモデルは数カ月単位で進化しています。今日の最適解は、3カ月後には最適解と言えなくなっているでしょう。
特定のモデルやベンダーの独自形式にデータと業務知識を預けてしまうと、乗り換えのコストが跳ね上がります。より安く、より高性能な生成AIモデルが登場しても、動けなくなります。
選択肢を保つ鍵は、モデルそのものよりも、その下にある「データと文脈を誰が握っているか」です。データがオープンなフォーマットで保持され、複数のモデルから同じデータに安全にアクセスできる構造になっていれば、上のレイヤーは差し替え可能な部品になります。
データのフォーマットや置き場についても、同様のことが言えます。データを共有しやすいフォーマットやプロトコルの普及が進んでおり、生成AIの下のデータレイヤーも差し替え可能な部品と考えると良いでしょう。
これは技術的な保険にとどまりません。国内でも「AI-Ready」なプラットフォームへの関心が高まっています。
増え続ける「AIの資産」に、ガバナンスを効かせる「Control(コントロール)」
企業内で使われる生成AIモデル、AIエージェント、ツール、外部システムとの接続は、企業での導入が進めば進むほど確実に増えていきます。誰がどのAIエージェントに何をさせてよいのか、そのAIエージェントはどのデータにアクセスができて、どのような回答を返して良いのか--。データに対して積み上げてきた統制を、AIそのものにも効かせる必要があります。
全社的な取り組みとして、AIエージェントガバナンスに取り組まなければ、いわゆるシャドーAIによる情報漏洩につながりかねません。
ガバナンスはしばしば、企業が新しいことを導入する際に、迅速性を損なう要因と見なされることがあります。しかし実際は、「何をしてよいか」が決まっていない組織ほど、本番展開時の議論でリスクを低減することができず、本番展開が遅れてしまうのです。
「Cost(コスト)」を「見える化」して、賢く使う
AIエージェントは従量課金であることが多く、これまでのオフィスツールなどとはコスト構造が異なります。例えば、1つのAIエージェントが受けた依頼に対して何十回もAIモデルを呼び、ツールを操作し、対話を繰り返し、失敗すればリトライします。利用者が増えれば、支出は線形ではなく、跳ねる形で増えていきます。
気がつかない間にリトライが繰り返され、一晩で想定の何倍もの費用が発生するという事態も、よく目にします。一方で、コストが読めないという理由で利用を絞れば、AIエージェントから得られる価値そのものが目減りします。
必要なのは、コストを理由に使わせないことではなく、コストを「見える化」することです。誰が、どのチームが、どの用途にいくら使ったかを可視化し、予算上限を設け、重い処理と軽い処理で適切なAIモデルを使い分けます。このためには、AIエージェントがどのように処理し、どのような結果が得られたのかをモニタリングして、その効果も同時に評価する必要があります。
Contextを整えるには「データがどこにあり誰が触れてよいか」というControlの整理が必要です。それができて初めて、複数のモデルを安全に使い分けるChoiceが成立します。そしてChoiceがあれば、用途に応じてモデルを選び分け、Costを抑えられます。Contextが整っていれば、AIは無駄なループや間違いをせずに済み、またCostを抑えられます。
4つのCは、並列に並んだチェックリストではありません。AIエージェントを本番で動かすための、ひとつながりの土台です。どれか1つだけを整えても本番には届きません。逆に言えば、4つを同時に設計できた組織から、PoCの先へ進んでいくことになります。
次回は、4つのCの「Context」を取り上げます。なぜ企業のAI活用において業務知識の構造化が必要なのか、具体的に掘り下げていきます。
