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COMPASSで観測された原始星の1つ、「HOPS 373」の電波画像。左端はホルムアルデヒド(H2CO)の分布を、右の3枚は異なるメタノール(CH3OH)遷移の分布を示している。2枚目で強く検出されたメタノールメーザー候補が、3・4枚目のメタノール分子の熱的な輝線放射の分布に青色の等高線で重ねられている。赤十字は、最も強いメーザー放射の位置。緑色の等高線は、中心星によって加熱された塵から放射される1mm波連続波の分布を示す (Jeong et al. の図1をもとに作成) (出所:アルマ望遠鏡日本語Webサイト)
アルマ望遠鏡を用いた大規模なサーベイ観測により、形成途中にある太陽のような小質量星の周囲において、きわめて珍しいメタノール分子の検出に成功したことや、これまで若い大質量星の周囲でしか確認されていなかったレーザーのマイクロ波版である「メーザー放射」が広く存在することを発見したと、米国国立電波天文台が10月7日(米国東部時間)に発表した。
この成果は、デンマーク・コペンハーゲン大学のイェス・ヨルゲンセン氏を責任者とした、日本を含む欧州、北米、東アジアの多数の研究者が参加する国際共同の大規模観測プロジェクト「COMPASS」によるもの。詳細は、7本の論文として欧州各国の主要機関が共同刊行する、天文学・天体物理学分野の総合論文誌「Astronomy & Astrophysics」に掲載された。
今回の研究成果
COMPASSでは、太陽のような小質量星へと成長する11個の近傍原始星を対象に、その化学組成の系統的な調査が実施されている。アルマ望遠鏡は、非常に微弱な分子の「指紋」(固有の電波スペクトル)を捉え、それぞれの分子が原始星の周囲にどのように分布しているのかを、太陽系と同程度のスケールで詳細に描き出せる。
COMPASSによる100時間超の観測によって得られたデータは、小質量星形成の初期段階における最も詳細な分子組成の記録の1つとなった。今回の初期成果は、若い星の周囲の化学環境が従来考えられていた以上に多様かつ活発であり、原始星の周囲にある将来の惑星の材料となり得る物質には、すでに豊富な分子が含まれていることが示されている。
初期成果において中心的なテーマとなったのが、最も単純なアルコール分子であるメタノールだ。宇宙空間において、同分子はより複雑な有機分子を作り出す重要な鍵を握ると考えられている。低温の星間空間では塵(ダスト)表面に凝結した氷中で効率よく形成され、やがて若い星が周囲を温め始めると、メタノールは気体として放出される。そのため、メタノールは星形成領域の化学変化のトレーサー(追跡指標)であると同時に、より複雑な有機分子の成長の出発点にもなる。
特に注目すべき成果の1つは、通常のメタノールに含まれる水素原子がすべて重水素に置き換わった「完全重水素化メタノール」(CD3OD)の検出だ。宇宙にある重水素は通常の水素よりはるかに少ないため、CD3ODを検出することは非常に困難とされるが、地球から約1000光年の距離にあるペルセウス座分子雲の原始星「IRAS 4A2」の周囲で初めてこの分子が発見された。この成果は、星や惑星が形成される以前の段階から、氷に覆われた塵粒子表面の化学反応によって希少で複雑な分子が効率よく生成されることを示す強力な証拠となる。
もう1つの重要な発見は、小質量原始星の周囲においてメタノールメーザー放射が、従来考えられていたよりもはるかに一般的に見られる点だ。メーザーは、レーザーのマイクロ波版ともいえる現象で、特定の条件下で分子が電波を増幅することで生じる天然の「電波ビーコン」のような役割を果たす。
これまでメタノールメーザーは主に大質量星形成領域で観察されていたが、今回、小質量原始星の半数以上でメタノールメーザーが検出された。これは、十分な感度で観測すれば、メタノールメーザーを生み出す環境が、星形成初期の比較的一般的な特徴である可能性を示している。
アルマ望遠鏡の高い感度と広い周波数帯域は、希少な同位体分子やメーザー放射を含む微弱な分子輝線の特定を可能にした。また、個々の天体や特定の分子だけを対象とした従来の研究とは異なり、COMPASSは複数の原始星に対する統一的なサーベイプロジェクトである。このような系統的なアプローチにより、形成中の星ごとの化学組成の違いやその進化、さらには化学的に豊かな物質がどのように惑星形成円盤へ運ばれるのかを詳細に比較研究することが可能になるとした。
今回のような研究によって、星間雲から原始星、惑星形成円盤、そして最終的な惑星系まで、化学進化のつながりを理解できるようになるという。COMPASSの初期成果により、若い星が将来惑星や彗星、小天体へ取り込まれる可能性のある有機分子を含む潤沢な「化学物質の素材」に囲まれていることが示された。研究チームは今後も11個の原始星すべてのデータ解析を進め、形成中の星々に見られる化学的多様性が誕生環境に由来するものなのか、それとも星や惑星の形成過程で生み出されるのかを明らかにしていく予定としている。