2026年7月9日、日本科学未来館は25周年を迎えました。未来館では、常に新しい科学技術を皆様に知っていただくため、順次新しい展示がつくられています。一方で、今まで多くの展示が惜しまれつつ終了してきました。しかし、「せっかくいろいろな学術論文をもとにリサーチして制作した展示を、そのままなくしてしまうのはもったいない」「公開終了した展示をもう一度見ていただきたい!」という思いから、未来館では、過去の展示を記録として残す「デジタルアーカイブ」の取り組みを進めています。その一環として、過去の展示を実際に見学しているような感覚で体験できる「バーチャルツアー」のコンテンツが作成され、このたび公開されました。

栄えある第1弾は「加速器で探る素粒子と宇宙」(展示期間:2006年3月9日〜 2025年1月13日)です。この展示は、新たな粒子を人工的に作り出すために使われる「粒子加速器」に焦点をあて、素粒子の研究が、物質の根源だけでなく、宇宙の成り立ちにも迫れることを解説したものです。

では早速、バーチャルツアーを覗いてみましょう。

~ URLはこちら:バーチャルツアー「加速器で探る素粒子と宇宙」 https://vtour.cloud/ci9hdu/dxwk1ptc/

バーチャルツアーへLet’s Go!

画面をクリックすると、バーチャルツアーが始まります。音声あり・なしが選べますが、今回は「あり」を選択しました。

まずは入り口。そうそう、「加速器で探る素粒子と宇宙」の展示は「”ちり”も積もれば世界を変える」の横にあったんですよね。

360度見渡せるのでカーソルでぐるりと周りを見渡してみてください。後ろにある「100億人でサバイバル」の展示も見えます。ズームイン・ズームアウトもできますよ。

まず初めに目に入るのが、入り口右手の「ぼくらはみんな粒である」の映像です。画面に出ている◎印をクリックするとその場所に移動できるので、この映像の前まで進んで、どんな内容か見てみましょう。入り口で流れている音楽はこの映像からの音です。このバーチャルツアーでは、展示内で聞こえていたリアルな音がそのまま聞こえます。

次に展示内の◎印をクリックして中に入っていきましょう。ぐるりと周りを見回すと、素粒子と加速器に関する解説パネルが目に入ってきました。

ここには、素粒子とは、粒子加速器とは、加速器を使って何をするのか、についての概要が書かれています。ぱっと見たところでは小さく見える展示の解説も、カメラマークをクリックするとその部分のキャプション(解説や図)が大写しされます。読みやすくていいですね。

この展示のモニターには、粒子加速器の概要がアニメーションで映し出されています。ここで驚くことは、カーソルでバーチャル画面を左右に動かしても、止まることなくアニメーションと音が流れ続けていることです。モニターがバーチャル画面から見えなくなっても、このアニメーションの音が聞こえ続けるので、臨場感がありますね。

そのまま壁に沿って奥に進むと、壁一面にインパクトのある図が見えてきます。

粒子加速器で宇宙のはじまりが解明できるかも

「宇宙のはじまりを再現する粒子加速器」という展示です。宇宙の誕生から現在の宇宙になるまでの流れが大きな図で描かれています。これくらい大きな図でも、バーチャルツアーならズームイン・アウト機能で全体像から細部まで楽しむことができますね。

その右側のスペースには、素粒子の研究でノーベル物理学賞を受賞した小林誠氏、益川敏英氏、南部陽一郎氏の紹介と、「あなたの存在には理由がある」というタイトルの一冊の本が置いてあります。

この本には、なぜ”反物質”が存在しないで”物質”だけが存在するのか、その理由についてこれまでの研究からわかってきた成果の紹介と、それをわかりやすく説明している漫画が載っています。そしてなんとこの本、1枚ずつページをめくることができます! 以前はゆっくり読めなかったという方や、もう一度読みたい方は、これを機にぜひじっくり読んでみてください。

さらに部屋の中には、光速近くまで加速された電子と陽電子の衝突によって生じた粒子を捉えるための検出器の解説と、加速器の仕組みをイメージするための「シミュレーションゲーム」、そして茨城県つくば市にある「SuperKEKB」をはじめ、現在活躍中の世界の加速器の紹介パネルがあります。

左:Belle測定器解説、中央:加速器シミュレーターゲーム、右:SuperKEKBと世界の加速器の解説

残念ながら、このバーチャルツアーではシミュレーションゲームはできませんが、以前体験したことがある方は、ゲームの楽しさなどが思い出されるのではないでしょうか。またこの展示は、なかなか見応え読み応えのある内容なので、実際の展示ではゆっくり解説文を読む時間がなかった方もいると思います。バーチャルツアーでは、時間を気にせずに読むことができるので、いいですね。

ちなみに現行の常設展示「未読の宇宙」では、SuperKEKBで行われている「BelleⅡ実験」を疑似体験できます。ぜひこちらにも足をお運びください。


先ほどの展示「宇宙のはじまりを再現する粒子加速器」の左側にも道があります。

素粒子の種類の解説と、研究者の映像に続く道

ここでは、研究で明らかになってきた素粒子の詳細な説明の展示や、研究者による加速器実験の詳細解説と、粒子加速器を使った研究内容の説明を映像で見ることができるモニターがあります。

そして道の先には、最近よく耳にするようになった「超ひも理論」の解説があります。

超ひも理論

「素粒子を振動する極小のひもと考え、その振動の違いがさまざまな粒子や力として現れる」とする理論なのですが、「ひも?私たちって元々はひもなの?えっ?」と思う人もいるかもしれませんね。「超ひも理論」については、現在も研究が進められているので、これを機にいろいろ調べてみるのもいいかもしれません。このバーチャル展示ではこの理論に基づく「ひも」のイメージも見ることができます。

 ここまでざっくりとバーチャルツアーの紹介をしてきましたが、いかがでしたか? ちょっと駆け足だったので、実際に体験する際はゆっくり、いろいろな方向から見てみてくださいね。

バーチャルツアーの制作者は未来館スタッフ!
制作秘話を聞いてみました

このバーチャルツアーですが、とにかく映像が細部にわたってきれいで、リアリティと臨場感にあふれています。この映像がどのようにつくられているのか、バーチャルツアー制作者のデジタル・技術室 山口真里さんに、制作秘話を技術的な面を交えて聞いてみました。

バーチャルツアーの映像がとてもリアルですが、どのような技術を使っているのですか?

展示空間は、1地点ごとに周囲を6方向に分けて撮影しています。それぞれの画像でHDR合成という明るい場所から暗い場所まで豊かな階調(トーン)を表現できる手法を使っており、その6枚の画像をつなぎ合わせて360°の高精細なパノラマ画像に仕上げています。また、他館のバーチャルツアーでは見られない360°パノラマ画像への動画の埋め込み技術を採用しています。 

制作でこだわったところはどこですか?

一番こだわったのは、「実際の展示空間をできるだけ忠実に残す」ことです。展示物だけでなく、キャプションも一点一点静止画撮影を行い、当時の展示の様子ができるだけ伝わるようにしました。また、ただ展示室を360°で見渡せるだけではなく、展示映像の音声も360°方向から聞こえてくるようにして、実際に展示室を訪れたときの体験に近づけることを意識しました。

苦労したところはどこですか?

一番苦労したのは、「高画質」と「Web上での見やすさ」を両立させることです。高精細にすればするほどデータ容量が大きくなり、読み込みに時間がかかります。一方で、データ容量を抑えすぎると、せっかくの展示の細部が見えにくくなります。そのため、画質と表示速度のバランスを何度も調整し直しました。今回採用した技術の情報がとても少なかったことも苦労したところです。

制作を通して良かった点、嬉しかった点などあれば教えてください

多くの人々の想いが込められた未来館の展示を、デジタルアーカイブとして未来に残す仕事に携われたことを、とてもうれしく思います。また、展示の魅力をデジタルならではのかたちで記録し、これまでとは異なるバーチャルツアーを実現できたことに、大きな達成感を得ています。

この作品を観てくださるお客様に一言お願いします

展示期間に来場できなかった方も、もう一度展示を見たい方も、バーチャルツアーを通して展示の世界を楽しんでいただけたらうれしいです。実際の展示空間を歩くような感覚で、気になるところを自由に動きながら、展示物や解説までじっくりご覧ください。

過去も未来も楽しもう

科学は日々進歩しています。私たちは常に先端科学を展示でみなさまにお届けしていますが、その内容は更に新しい科学や、今までと違う理論に置き換わっていくこともあります。しかし、多くの科学者が挑戦してきた歴史や、私たちが展示でお伝えしたかったコンセプト、お客様がこれらの展示を見て感じた気持ちは変わりません。

昔を懐かしむもよし。科学の基本を思い出すもよし。制作者が心を込めて作成した展示アーカイブのバーチャルツアーを、ぜひ楽しんでください。

そして、現代~未来の科学の展示は、お台場の未来館でお楽しみください!



Author
執筆: Y.Egawa(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
デジタル・技術の科学コミュニケーターとして、館内のアクセシビリティや無線機器などに関する新しい技術企画に挑戦中。技術的観点から未来館とお客様をつなぐ役割を担っていきたい。

【プロフィ-ル】
子どものころから工具を使ってモノを作ったり直したりするのが好きで、進むべくして工学系に進んだ理系女子です。専門分野は無線通信ですが、最新の科学に興味津々なので、日本科学未来館で多くの知識を得、それを発信できることがとても楽しいです。

【分野・キーワード】
無線通信、工学系技術