科博として初、「性」をテーマにした特別展が開幕
男女の体つき、恋愛、結婚、出産――。オス・メスについて考えるとき、つい私たちは人間や哺乳類を中心に考えてしまう。しかし生物の世界を見てみると、オス・メスの違いが一見ではわからないものから、メスがオスより大きい種、一生の中で性別が変わる種まで、「性」は驚くほど多様で摩訶不思議だ。
東京・上野の国立科学博物館(科博)では2026年10月31日(土)~2027年2月21日(日)、そんな奥深い性を学べる特別展「生きものたちの性」を開催する。性をテーマとする特別展は科博として初のことだ。
特別展の開幕に先立ち実施された内覧会では、監修を務めた研究者たちが登壇。総合監修を務めた科博 植物研究部の堤千絵氏は「今回の展示では、多様な性について動物から植物まで多くの生き物を紹介している。科博にはいろんな専門家がいるので、いろんな生き物を取り上げる科博らしい展示にできた。性を扱うだけに対象年齢は少し高く設定しているが、親子でも楽しめるように準備してきたつもり。性を学ぶことを通じて身近な生き物についても視野が広がる展示になったのでは」とコメントした。
同じく総合監修を務めた科博 顧問の篠田謙一氏は「私が科博の館長だった3年前に、性の話がしにくい社会的な状況があると感じ、この展示会を開こうと思った。私たちが性について学ぶのは、理科や保健体育の授業でヒトの性に関するものが中心。しかしほぼ全ての生物が持つ性という仕組みは、本当にさまざま。今回の展示は多様な生物の性を学んでから、最後に人間の性について考える構成としており、ヒトの話はほとんど出てこない。この展示会を見て、性について親子や友人と話すきっかけになれば」と話していた。
さらに、内覧会にはアンバサダーと音声ガイドを務めるラランドの2人も参加。ニシダ氏は「"性"という字だけを見ると来づらいかもしれないが、下世話な方ではなく神秘的な性について展示しているので、ぜひ展示を見てほしい。人生最初で最後のアンバサダーのつもりでがんばる」と魅力をアピール。
またサーヤ氏は「立地もいいので、デートで来てご飯食べるコースにもできるし、親子で一緒に来ても楽しめるし、マッチングアプリで初めて会った男女でも話が続くと思う。元カレと来ても気まずくならないくらいおもしろい。いろんな関係性の相手と来れる展示内容になっている」と呼びかけた。
第1章:どっちがオスでどっちがメス?多様な性のすがた
展示エリアは5つの章で構成される。まず第1章は身近な生物の姿の性差だ。例えばライオンやシカなどの動物は分かりやすい例だろう。しかし動物の中にも、オス・メスの見分けがつかない種や、一生の間に性が変わる種が存在する。
性差は植物も例外ではない。むしろ、植物の方が多様であると言えるかもしれない。雄しべと雌しべが同じ花に存在する両性花もあれば、雄しべだけの雄花または雌しべだけの雌花どちらかのみが存在する雌雄異株、同じ株に雌花と両性花が存在する雌性両全性同株、その反対の雄性両全性同株というものもある。
ホウレンソウやバナナにもオスとメスがある。バナナは雌雄異花同株で、先に雌花が咲き後から雄花が咲く。雌花は果実としてバナナになるが、雄花は果実にならずにすぐ落ちてしまう。
第2章:歌う、踊る、光る、モテるための生存戦略
続く第2章は性の形と行動について。子孫に遺伝子を受け継ぐため、自然界には一見すると不可解な姿や行動を残している種がある。
ここではミナミゾウアザラシのはく製が必見だ。この種は1個体のオスが複数のメスとハーレムを形成するため、その主になるためにオスは厳しい闘争に勝利しなければならない。そのためオスの体は大きく、体重はメスの3倍以上になる。
他には、昆虫や鳥が分かりやすい例だろうか。クジャクのように多くの鳥類ではオスの方がメスよりもきれいな色の羽や長い尾、発達した肉垂を持つ。見た目が美しいオスはより多くのメスと交配し、多くの子孫を残せる。
昆虫も同様で、チョウの仲間にはオスだけがきれいな翅を持つ種が多い。メスにアピールするための色ではあるが、捕食者に見つかる危険性も高まるため、翅の裏面は地味な色である場合も多い。
また、特別展示作品として、現代美術家マリア・フェルナンダ・カルドーゾ氏による、クジャクハエトリグモ属(ピーコックスパイダー)の求愛行動を捉えた映像作品が展示される。
その他、この章ではツノで戦うインパラやキッシンググラミー、婚姻色のアカハライモリ、プレゼントを送るカワセミ、光るゲンジボタルなど、さまざまな求愛行動を学べる。
第3章:オスとメスはいつどのように決まるのか
第3章は性決定について。オスとメスの違いがない受精卵の段階から、どのように性が決まり分化していくのがを学べる。
「遺伝子で最初から決まってるんじゃないの」と思われるかもしれないが、一筋縄ではいかない。カメやワニなど一部の爬虫類は温度で決まるし、カクレクマノミはオス集団の中で最も大きい個体のみがメスに変わる。
ボネリムシは海底にいるとメスとして育つが、遊泳生活中にメスに飲み込まれるとメスの体内でオスとして成長するというように、育つ場所によって性が決まる種もいる。
鳥類や昆虫類の中には、同じ体の中にオス由来の細胞とメス由来の細胞が混在する雌雄モザイク(ギナンドロモルフ)という状態の個体が生まれる場合がある。
トヤマエビ(ボタンエビ)は孵化後1~4年間はオスとして生殖してから、成長後に性転換してメスとして生殖を行う。
第4章:子育てはメスの仕事?オスの仕事?それとも……
オスとメスが出会って次の命が誕生して、そこで終わりではない。そう、子育てが始まる。
哺乳類は文字通り哺乳によって子を育てるため、メスと子が共に過ごす期間が長い。この時期にはエストロゲンやプロラクチン、オキシトシンといったホルモンによって母乳の生成が促されると考えられている。
脳下垂体前葉から分泌されるプロラクチン(Prolactin)は、ラテン語の「pro(~を促す)」と「lact(乳)」と「in(ホルモンなど生物由来の物質を示す)」に由来し、まさに「乳汁分泌を促す(もの)」という意味だ。
しかし広い世界を見ると、子育ての方法も幅広い。多くの種はメスが子育てを担当するが、オオサンショウウオやリーフィーシードラゴン、タマシギなどはオスが積極的に子育てに参加する。イクメンの先駆けと言えるかもしれない。 なかには子育てを外注する種も存在し、その代表が托卵で知られるカッコウ。カッコウはウグイスやオナガなど他の巣にタマゴを生み、タマゴやヒナの世話を任せる。カッコウのタマゴはいち早く孵化し、本来の種のタマゴやヒナを巣から追い出してしまう。
ゴリラやシジュウカラは、オスとメスが協力して子を育てることが知られている。ゴリラは生後1年ほどメス(母親)が中心となって子育てを行うが、その後は群れの中の他のメスやオスも子育てに参加する。
第5章:複雑怪奇、常識はずれ、オス・メスだけで語れない世界
ここまでオス・メスに分けて性差を紹介してきたが、やはり生物の世界は奥深い。無性生殖をはじめオスとメスの2種だけでは語りきれない方法で繁殖する種も知られている。
動物の中には、同じ個体の中に卵巣と精巣が発達する雌雄同体の種が存在する。卵巣と精巣が同時期に発達する同時的雌雄同体の代表的なものが、宮城県や岩手県の沿岸部などで食される海の幸ホヤ。ただし、ホヤは自家受精せず、複数の個体が放卵・放精し体外受精を行う。
動物の中には無性生殖を行う種もおり、その場合は交配が起こらないため親と同じ遺伝子を持つクローン個体が生まれる。無性生殖には芽を出すように体の一部が離れる「出芽」と、体が複数に分かれて徐々に元の体のように戻る「分裂」がある。ホヤと同じ海の仲間でも、ミズクラゲは有性生殖と無性生殖をどちらも行う。
褐藻の一種であるムチモは有性生殖でも繁殖するが、受精しなかった卵細胞からメスの配偶体が発生する単為生殖を行う場合もある。さらには、オスの精子から単為生殖する場合も確認されているという。
性は子孫を残すための仕組みであると同時に、多様な環境に適応するための戦略でもあり、複雑な生物種を生み出す進化の動力源でもある。「生殖隔離」が進化や種分化を考えるときの重要な概念の1つであることにも納得だ。
なぜイケメンなあいつだけがモテるのか、なぜかわいいあの子だけがモテるのか、そんなことばかり考えながら学生時代を駆け抜けた過去の自分自身に見せたい展示が盛りだくさんだった。
生物はオスとメス抜きには語れないが、オスとメスだけで語れる世界でもない。数億年の時の中で歴史が生み出した多様な性の世界を、上野で体感してみてはいかがだろうか。
会場:国立科学博物館(東京・上野)地球館地下1階 特別展示室
会期:2026年10月31日(土)~2027年2月21日(日)
開館時間:9時~17時(入場は16時30分まで)。
休館日:毎週月曜日、11月4日(水)、11月24日(火)、12月28日(月)~1月1日(金・祝)、1月12日(火)
※ただし、11月2日(月)、23日(月・祝)、1月11日(月・祝)、2月15日(月)は開館
入場料:一般・大学生2300円、小・中・高校生600円、未就学児は無料
※前売券や日時指定券、音声ガイド付きチケットなどの詳細は公式サイトで確認できる。
主催:国立科学博物館 / 読売新聞社 / フジテレビジョン
会場内は基本的に展示映像を除いて撮影可能だが、フラッシュ撮影、三脚、一脚、自撮り棒の使用、動画撮影は禁止











