このものづくりニュースのまとめ
・Ansys Simulation World 2026 JapanでSynopsys統合後の製品・技術戦略を説明
・AIエージェントがEMC解析や規格適合性の確認を自律的に進める活用例を紹介
・AIが設計案を提示し、物理ベースのシミュレーションが検証する開発環境を構築
アンシス・ジャパンは10月9日、最新のシミュレーション技術や、ものづくりのデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組むユーザーを対象とした年次イベント「Ansys Simulation World 2026 Japan」を開催した。
Synopsys(シノプシス)との統合後、国内では2回目の開催となる。今回のイベントには1000人を超える参加登録があり、AIを中心とした設計トレンドを学ぶ「Learn」、ユーザーやパートナーとの交流を図る「Connect」、最新技術を体験する「Experience」の3つを柱に、基調講演、ユーザー企業による事例講演、ソリューション展示などが行われた。
基調講演では「Re-engineering Engineering」をテーマに、Ansys Part of Synopsysが培ってきたマルチフィジックスシミュレーションと、SynopsysのEDA、半導体IP、AI技術を組み合わせ、シリコンからシステムまでを一体的に設計・検証する構想が示された。
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Synopsysが強いシリコン設計とAnsysが強いシミュレーション/解析が組み合わされることで、シリコンからシステムまで一気通貫の設計・検証が可能になるというのが現在のSynopsysの強みだという (提供:Synopsys。以下すべてのスライド同様)
シミュレーションは「現実の再現」から「可能性の探索」へ
基調講演に登壇したSynopsys SVP, S&A Customer ExcellenceのAnthony Dawson氏は、「The Next Frontier of Innovation - Engineering Faster with Confidence」と題し、Synopsysとの統合後に進めてきた製品・技術開発の進捗を説明した。
Dawson氏によると、Ansys Part of Synopsys、つまりAnsysブランドのシミュレーション技術は、50年以上にわたって物理現象のモデル化を推進し、設計の妥当性を確認する役割を担ってきたとする。しかし、AIやソフトウェアによって製品の機能や価値が変化する現在においては、完成した設計を検証するだけではなく、より多くの設計候補から新たな可能性を探索する役割などが求められているようになっているとする。
自動車やロボット、ドローン、産業機器、農業機器など、さまざまな製品がAIを搭載したインテリジェントシステムへと変化している。それらの製品は半導体、ソフトウェア、電子・電気系統、機械構造などで構成されることとなるが、その真価を発揮するためには、複数のコンポーネントを個別に設計するのではなく、シリコンからシステムまでを一体的に扱うことが求められる。
特に2026年の世界のAI支出は2兆5900億ドルに達し、2030年までに約100GWのデータセンター容量が新たに必要になるとの予測を踏まえると、AIの普及によって演算需要が増えるほど、消費電力、発熱、気流、電磁ノイズ、機械構造など、解析すべき物理現象も増加することになる。
こうした変化に対応するため、Ansys Part of Synopsysは、従来の「現実をモデル化する」シミュレーションから、AIとシミュレーションを組み合わせて「可能性をモデル化する」開発環境への移行を進めている。
半導体設計とマルチフィジックス解析を融合
SynopsysとAnsysの統合後に具体化した取り組みの1つが、半導体設計と物理解析を融合する「Multiphysics Fusion Technology」である。
同技術は、タイミングや消費電力、配置配線といった半導体設計上の情報に、温度、電源品質、電磁界、構造応力、反り、フォトニクスなどの物理的な影響を組み合わせるものとなる。
半導体のプロセス微細化やマルチダイ化が進む中、個々のチップが設計要件を満たしていても、先端パッケージング技術を活用して1パッケージに実装した際の熱や応力、電源供給、電磁ノイズによって、システム全体として必要な性能を得られない可能性がある。
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半導体設計1つ取り上げても、従来の回路設計だけでは成立せず、チップレットを活用して1パッケージに複数ダイを統合したときの電磁ノイズや熱、インターポーザーにかかる応力など物理現象も解析する必要が生じている。そのため、同社は半導体設計技術とシミュレーションをシームレスに使えるようにすることで、こうした問題の解決を図ろうとするアプローチを採用している
Multiphysics Fusion Technologyによって設計工程の早期から物理現象を考慮することで、設計の後半で問題が発覚して手戻りが生じるリスクを減らし、設計と検証のサイクル短縮を図る。
また、複数のSynopsys製品とAnsys製品を組み合わせた共同製品も紹介された。
例えば光電融合分野では、Synopsys OptoCompilerとAnsys Lumerical FDTDを接続し、フォトニクスデバイスからパッケージ、光学システムまでを対象とする設計・解析環境を提供する。
また、材料分野では、原子レベルの材料シミュレーションを行うSynopsys QuantumATKと、材料情報管理を担うAnsys Granta MIを組み合わせ、バッテリパックなどの材料選定と設計最適化を支援する。
機能安全分野では、Synopsys VC Functional Safety ManagerとAnsys Medini Analyzeを組み合わせ、半導体レベルから車両を含むシステムレベルまで、安全性を一貫して検証できる環境の構築を進める。
「AIが提案し、物理が検証する」開発環境
Dawson氏に続いて登壇したSynopsys SVP, S&A Product ManagementのSteve Pytel氏は、「Defining the Next Era of Engineering」と題し、シミュレーションとAIを組み合わせた次世代の設計環境を説明した。
Pytel氏が強調したのが、「AI PROPOSES. PHYSICS VALIDATES.」という考え方である。
生成AIは、人間が与えた要件や制約条件を基に、多数の設計候補や解析方法を提示できる。一方、AIが生成した結果が、現実の物理現象に対して妥当であるとは限らない。
そのため、AIが設計候補や解析戦略を提示し、Ansys製品の物理ベースのエンジンやソルバーによって、その性能や信頼性を検証する。AIによる探索能力と物理シミュレーションの信頼性を組み合わせることで、設計速度と品質の両立を図る考えだ。
Synopsysは今後も、構造、流体、電磁界、熱、光学などの物理現象を解析する中核技術への投資を継続する。2026年12月には、Ansys製品群の次期バージョンとなる「Ansys 2027 R1」を提供する予定としている。
AIエージェントがEMC解析と規格確認を実行
Pytel氏は、AIエージェントを電磁両立性(EMC)の解析へ活用するデモも紹介した。
デモでは、AIエージェントがサーバボードの設計データを読み込み、形状や部品配置を確認。電磁干渉の問題が発生する可能性がある場所を抽出。その後、エンジニアの指示を受けてニアフィールドとファーフィールドの電磁界シミュレーションを実行。さらに、業界標準の仕様が記載されたPDFを読み込み、シミュレーション結果と規格値を重ね合わせることで、設計が基準を満たしているかを確認することまで可能であることを示した。
従来は専門のエンジニアが数日をかけて行っていた一連の確認作業を、AIエージェントの支援によって数時間へ短縮できる可能性があるという。
AIエージェントがすべてを最終判断するのではなく、解析に必要な作業を実行し、問題となる場所や結果を提示することで、エンジニアが設計上の判断へ集中できるようにする取り組みだとする。
Autopilot Platformで顧客のAIエージェントも接続
こうしたAIエージェントを動作させる基盤となるのが「Synopsys Autopilot Platform」である。
Autopilot Platformは、AIエージェントの推論や計画、複数ツールの操作、ワークフローの実行を管理する。Synopsysが提供するAgentEngineerだけでなく、顧客が開発したAIエージェントを接続できるオープンな構成を採る。
半導体設計では、実装、検証、アナログ・ミクスドシグナル設計、製造などを対象とするAgentEngineerを展開する。シミュレーション・解析分野でも、構造解析、流体解析、電磁界解析、メッシュ生成などを担当するエージェントの開発を進める。
個別の作業を担うタスクエージェントに加え、複数の工程とツールをまたいで作業を進める長時間動作型のエージェントも想定する。
顧客側のAI基盤やIT環境との連携にも対応し、企業が保有する設計ルールやワークフローをAIエージェントへ組み込める環境を目指す。
物理試作14カ月からAI解析10分へ
このほか、同氏は物理試作と仮想試作、そしてAI高速化シミュレーションの違いを示す例も紹介した。
物理試作では20人を超えるエンジニアが14カ月をかけて1つの設計を検討していたのに対し、仮想試作では3~4人のエンジニアが1週間で20件の設計を評価できるようになるとする。さらに、AI高速化シミュレーションを活用すると、1人のエンジニアが10分間で2000件の設計候補を評価できる可能性を示した。
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20人のエンジニアが14カ月をかけて物理的な試作を作っていた作業は、仮想空間による試作にすることで3~4人のエンジニアが1週間で20件のデザインを生み出すことができるようになった。AIによる高速シミュレーションを活用すると、そこからさらに1人で10分ほどで2000件のデザインを生み出すことができるようになったとする
これは顧客事例に基づく説明用の例であり、実際の効果は対象や計算負荷によって異なるが、AIとサロゲートモデルを組み合わせることで、従来の高精度シミュレーションよりも多くの設計候補を短時間で探索できるようになるという。
その後、絞り込んだ有力な候補を物理ベースのシミュレーションで詳しく検証することで、解析精度を維持しながら開発サイクルを短縮することができるとする。
ボトル充填機をデジタルツインで最適化
顧客事例として紹介されたのが、飲料用ボトルの製造・充填設備などを手掛けるドイツのKRONESの取り組みである。
ボトルへ飲料を充填する工程では、液体があふれると飲料が無駄に消費されるだけでなく、設備を停止して清掃する必要が生じる。包装工程でも、ボトルが均一に並ばなければ、人手による修正が必要となり、生産性の低下とコストの増加につながる。
KRONESは、高精度な流体シミュレーション、AI、クラウドコンピューティング、デジタルツインなどを組み合わせ、充填時の液体の流れや気泡、包装ライン上のボトルの挙動解析を実施。従来は3~4時間を要していたスロッシング解析を分単位へ短縮し、実際の設備から得たデータをデジタルツインへ反映することで、設備を稼働させながら継続的な最適化を可能にしたとする。また、NVIDIA Omniverseのライブラリやアクセラレーテッドコンピューティングも活用することで、生産効率の向上、設備停止時間の短縮、水使用量の削減などにもつなげることができる取り組みだとしている。
GPT-Synopsysでエンジニアリング特化AIを開発
SynopsysはOpenAIとの協業を通じ、エンジニアリング分野に特化したフロンティアモデル「GPT-Synopsys」の開発も進める。
GPT-Synopsysは、まず半導体設計分野から適用を始め、将来に向けて対象領域を拡大していく計画。一般的な大規模言語モデルの知識に、Synopsysが持つ半導体設計やシミュレーション・解析の専門知識を組み合わせ、設計上の課題に対する推論や、ツール操作、ワークフローの構築を支援することを目指したものとなる。
Synopsysは、AIエージェント、製品内でエンジニアを支援・教育するAI機能、物理シミュレーションで検証したサロゲートモデル、GPT-Synopsysを組み合わせ、設計要件の定義から生成設計、解析、検証までをつなぐ構想を描いている。
フィジカルAIとヒューマノイドも対象に
なお、Pytel氏は、今後の成長分野の例としてフィジカルAIとヒューマノイドロボットを挙げている。
米中が開発競争を繰り広げるヒューマノイドロボットの市場は2035年に380億ドル規模へ成長すると予測されており、自動車工場や倉庫をはじめとするものづくりの現場で、機械への部品の投入・取り出しや、複数設備を横断した作業などに活用されることが期待されている。
しかし、いきなり現場に投入したところで、最適な動作を人間のように即座に状況を把握し行動に移せるとは限らず、どういった作業を行うべきか学習させる必要がある。そこで仮想空間において作業内容や周辺環境を再現し、デジタルツインを活用したロボットに学習させることで、現場で必要となる追加調整を減らすといったことを可能とする。
また、Ansysの構造解析や流体解析、電磁界解析などを活用することで、ロボットの軽量化、アクチュエータの設計、バッテリの小型化、熱対策、配線の信頼性なども検討できるようになるともする。
AIエージェントがデジタル空間における設計作業を支援する一方、ヒューマノイドをはじめとするフィジカルAIは、現実の空間で作業を担う存在となる。
Synopsysは、EDA、半導体IP、Ansysブランドのシミュレーション・解析技術、Autopilot Platform、AgentEngineerを組み合わせることで、シリコンからシステム、さらに実環境で動作するフィジカルAIまでを一体的に設計・検証できる開発環境を構築していくことで、エンジニアが真に必要なエンジニアリングに注力できる世界を作っていきたいとしている。









