北海道では人口減少や人手不足が深刻化する一方、農業や観光、再生可能エネルギー、次世代半導体など、新たな成長につながる可能性も広がっている。こうした北海道の課題を解決し、地域の強みを生かすうえで、ITやAIはどのような役割を果たせるのか。

HBAは10月9日、札幌市内のホテルで「道新BIZ HBAソリューションフォーラム2026」を開催した。

同フォーラムでは、「北海道のこれからを共創する、メディアとITの力」と題した対談セッションが行われ、HBA 代表取締役執行役員社長の白幡一雄氏と、北海道新聞社 専務取締役 営業統括本部長 デジタル戦略担当の三浦辰治氏が登壇。北海道が直面する課題やAI・DXの可能性、メディアとIT企業の連携による新たな価値創出について意見を交わした。

  • 「北海道のこれからを共創する、メディアとITの力」と題した対談セッションの様子。右がHBA 代表取締役執行役員社長の白幡一雄氏、左が北海道新聞社 専務取締役 営業統括本部長 デジタル戦略担当の三浦辰治氏

    「北海道のこれからを共創する、メディアとITの力」と題した対談セッションの様子。右がHBA 代表取締役執行役員社長の白幡一雄氏、左が北海道新聞社 専務取締役 営業統括本部長 デジタル戦略担当の三浦辰治氏

対談の冒頭、白幡氏は今回のフォーラムについて、「最先端技術をただ展示室に並べるのではなく、北海道の企業や自治体、団体にとって今必要なソリューションを実際に届けることを重視しています」と開催の意義を説明した。

HBAは1964年創業のIT企業で、システムインテグレーション、ソフトウェア開発、アウトソーシング、クラウドサービスを事業の柱としている。近年は地域課題の解決にも力を入れており、自治体や大学との連携を進めている。

人口減少が進む北海道、AI・DXは地域課題解決の切り札になるのか

対談の最初のテーマは「北海道の現在地とIT・AIの可能性」だ。

三浦氏は、北海道の現状を示すデータとして、1995年から2025年までの30年間で人口が12.5%減少し、働き手も27.3%減少したことを紹介。一方、食料自給率は227%と高く、観光や再生可能エネルギーにも大きな潜在力があると指摘した。さらに、千歳市周辺ではRapidus(ラピダス)による次世代半導体産業への大規模投資も進んでいる。

  • 【写真上下】三浦氏が示した北海道の現状

こうした北海道の現状について、白幡氏は「人口減少や人手不足、広大な面積による物流の非効率化など、北海道は構造的な問題を抱えています。ただ、一方で大きな転換点にあるのではないかと思っています」と語った。

  • HBA 代表取締役執行役員社長の白幡一雄氏

    HBA 代表取締役執行役員社長の白幡一雄氏

そのうえで、農業や水産業、観光、食といった北海道の強みにAIやDXを組み合わせる重要性を強調した。

「人手不足や労働生産性の課題は、単にITを使って効率化するという話ではありません。限られた人材を、より付加価値の高い仕事に振り向けるという意味で、地域の持続性に直結するテーマだと考えています」(白幡氏)

例えば農業では、スマート農業やロボティクス、データ活用によって作業を省力化でき、観光や食の分野でも、業務効率化だけでなく、サービス品質の向上や新たな価値創出につながる可能性があるという。

白幡氏は「北海道は課題先進地域といわれますが、見方を変えれば、課題解決のモデルを全国に先駆けてつくれる地域でもあります」と指摘。ラピダスの進出などによる産業構造の変化を、一部地域だけでなく北海道全体の発展につなげることが重要だと訴えた。

これに対し三浦氏も、「単に効率化して人手不足に対応するだけではなく、そこで生み出された人材を、さらに価値のある生産現場に振り向けていくということですね」と応じた。

  • 北海道新聞社 専務取締役 営業統括本部長 デジタル戦略担当 三浦辰治氏

    北海道新聞社 専務取締役 営業統括本部長 デジタル戦略担当 三浦辰治氏

IT企業がメディアに期待するのは「現場の一次情報」

続いて議論は、地域課題の解決に向けてIT企業とメディアがどのように連携できるかというテーマに移った。

北海道新聞社は、道内9カ所の支社と38カ所の支局を持ち、各地域の情報を収集している。白幡氏は、こうした地域に根差した情報収集力こそ、IT企業にとって大きな価値があると指摘した。

「北海道新聞さんは全道に拠点があり、多くの記者の方が各地にいらっしゃいます。ネットからは得られない一次情報をしっかり持っている。地域の皆さんが本当に困っていること、悩んでいることを理解するうえで、そうした情報は非常に重要だと思っています」(白幡氏)

IT企業が地域課題を解決するためには、技術を提供するだけでなく、現場の実情を正確に把握する必要があり、メディアが持つ情報収集力とIT企業の技術力を組み合わせることで、より実効性の高い取り組みが可能になるというのが白幡氏の考えだ。

一方、三浦氏は、新聞社自身も従来の役割から変化する必要があると語った。

「北海道新聞は、これまでは地域で聞いた課題や悩みを、新聞紙面やコンテンツとして発信することが中心でした。しかし、それを何かに活用して、実際の解決に導くところまで役割を果たせたら良いと考えています」(三浦氏)

また、生成AIの普及に伴い、情報の正確性や信頼性が一段と重要になっていることにも言及。三浦氏は、AIによって事実ではない情報も容易に生成される時代だからこそ、正しい情報を提供するメディアの存在意義があると指摘した。

白幡氏も「情報を気軽に取得できる時代だからこそ、何を根拠にしているのか、本当に現場の情報に基づいているのかという正確性が欠かせません」と同意した。

北海道新聞の38年分のアーカイブをAIで活用、新たなサービスを共同開発

メディアとIT企業の共創を象徴する事例として紹介されたのが、北海道新聞社とHBAが共同で取り組んだ生成AIサービス「Mir-AI(ミライ) BIZ」だ。

  • 生成AIサービス「Mir-AI(ミライ)」

    生成AIサービス「Mir-AI(ミライ)」

北海道新聞社は、1988年から蓄積してきた新聞記事のアーカイブデータを保有している。この情報資産にHBAのAI技術を組み合わせ、自治体向けの「Mir-AI GOV」と企業向けの「Mir-AI BIZ」を開発した。

同サービスは、北海道新聞社が蓄積してきた記事データをAIに取り込み、その情報をもとに回答を生成する業務支援システムだ。回答の根拠となる情報の出どころを明らかにできるため、生成AIの課題であるハルシネーションのリスクを抑えられるという。

三浦氏は「北海道新聞社が長年蓄積してきたアーカイブを活用し、HBAさんに開発を担っていただきました。非常にいい取り組みができたと思っています」と紹介した。

これに対して白幡氏は、「北海道新聞さんが持つ信頼できる情報と、私たちが持つAI技術を組み合わせることで、新しい価値を生み出せたことが大きかったと思います」と振り返った。

さらに、開発プロセス自体にも生成AIを活用したという。

「この開発では、我々もAI駆動開発という形でAIを活用し、非常に短期間で実装することができました。AI活用の可能性を示す意味でも大きな取り組みだったと思います」(白幡氏)

三浦氏も「社内で企画して相談してから、実際に出来上がるまでの期間がものすごく早かった。現代のスピード感とはこういうものなのかと、非常に刺激を受けました」と、その開発スピードを評価した。

両氏が強調したのは、企業や自治体には、まだ十分に活用されていない情報資産が数多く存在するという点だ。

白幡氏は「眠っているリソースをAIやデジタルの力で整理し、必要な人が、必要なときに、必要な場面で使えるようにすることには、大きな可能性があると考えています」と語った。

HBAでは、データ以外の地域資源の活用にも取り組んでいる。例えば、植物のジャイアントミスカンサスをバイオマス資源として活用するペレット燃焼実験や、ドローンを利用したクマの発見などだ。

  • 展示会場に展示されていたジャイアントミスカンサスをバイオマス資源としたペレット。この事業は、HBAと鹿追町が連携協定を締結し、ペレットの生産に取り組んでいる

    展示会場に展示されていたジャイアントミスカンサスをバイオマス資源としたペレット。この事業は、HBAと鹿追町が連携協定を締結し、ペレットの生産に取り組んでいる

こうした取り組みも、地域に存在する資源や技術を新たな価値につなげる試みとして紹介された。

自治体や大学との連携を拡大、地域課題に寄り添う「伴走型DX」

最後のテーマは「共創がつくる北海道の未来」だ。

三浦氏は、地域が抱える複雑な課題について、「一つの企業や単独の自治体では解決できないことがたくさんあります。さまざまな主体が結び付き、そこにAIやDXが加わることで、さらに大きな価値を生み出すことが求められています」と語った。

これに対し白幡氏は、企業、自治体、大学、地域住民がそれぞれの役割を持ち寄ることの重要性を強調し、HBAが進める具体的な連携事例を紹介した。

例えばHBAでは、三笠市とゼロカーボンを目指した地域エネルギーの活用に加え、観光DXやスマート農業などの分野で連携を進めている。

鹿追町とは、ワーケーションを通じて築いてきた関係を生かし、町内のDX支援に取り組んでいる。また、小樽市とは生成AIを活用した自治体DXの推進に向けた連携を進めている。白幡氏は、こうした事例に共通する考え方について次のように説明した。

「地域ならではの課題にきちんと向き合い、地域の皆さんと一緒に課題を整理して、実証し、実装していく。そういう伴走型の役割を、我々は担っていきたいと考えています」(白幡氏)

HBAは大学との連携も拡大している。北海道大学とはソーシャルアントレプレナーの育成を目指す包括連携協定を締結。北海道情報大学とは、学生や社会人が地域課題に触れ、解決策を考えるワークショップなどを実施している。

さらに、室蘭工業大学や酪農学園大学などとも連携し、大学が持つ技術や知見とHBAのIT技術を組み合わせた地域課題解決を進めていく方針だ。

目指すのは「人口が減っても豊かに暮らせる北海道」

対談の締めくくりに、三浦氏は白幡氏に対して、5年後、10年後の北海道の将来像について質問した。白幡氏は、人口減少が続く中でも、地域の人々が安心して暮らし続けられる社会を実現したいと語った。

「人口が減り、限られた人材しかいない時代であっても、ITやAIを活用することで高い生産性を発揮し、地域の皆さんの幸せにつながる社会をつくっていくことが大切だと考えています」(白幡氏)

HBAは「ITとHumanityの融合により、お客様と社会の幸せに貢献します。」を経営理念に掲げている。白幡氏は、この理念を実現するうえでも、ITは単なる効率化の手段ではなく、人々の暮らしを豊かにするための技術であるべきだと強調した。

さらに、場所にとらわれず働ける環境を整え、新しい挑戦が生まれる地域をつくることにも期待を寄せた。

「農業や観光といった北海道の強みに加えて、半導体や宇宙産業なども育て、地域全体が元気になっていけばいいと思っています」(白幡氏)

一方、三浦氏は、北海道新聞社が持つ地域の企業や人をつなぐ力を、今後さらに生かしていきたいと述べた。

「我々には『つなぐ力』があります。企業と企業をつなぐような役割も果たしていけたらと、今日の対談を通じて改めて感じました」(三浦氏)

北海道の課題を解決するには、AIやDXなどの技術だけでは十分ではない。地域の実情を知るメディア、技術を持つIT企業、そして自治体や大学、地域住民が連携し、それぞれの強みを生かすことが求められる。

今回の対談は、北海道の未来を切り開く鍵が、技術そのものだけでなく、異なる主体が協力して新しい価値を生み出す「共創」にあることを示すものとなった。