
日本の株式市場への海外投資家の期待
「相対的に日本株には強気でいいと思っている。基調に流れているのはモデレート(適度)なインフレが続く地合い。川上の企業から川下の企業への価格転嫁が進み、消費者もある程度物価上昇を受け入れているという世の中になっている」と話すのは、みずほ証券社長の浜本吉郎氏。
特に2019年のコロナ禍以降、適度なインフレが定着しそうな状況が続いてきた。そのインフレに対応するためには資産形成、資産運用が必要だという意識が広まり、24年には政府による新NISA(少額投資非課税制度)もスタート。「一部の富裕層ではなく、国民全体で資産形成が進んでいる」(浜本氏)
そして、25年の「トランプ関税」や中東情勢の悪化で懸念された企業業績も足元では堅調。
「外部要因の大きな危機がない限り、ベーシックシナリオとしては日経平均も堅調に推移する。日本の個人の資金だけでなく、海外機関投資家も優先的に日本株を考えている」と浜本氏。
足元で日経平均は調整局面が続いているが、企業収益の上方修正などを受けて、27年度、28年度に理論上は6万9000円までは上がるという見方。さらに期待が高まると7万5000円も視野に入るという。
ただ、「一番気をつけて見ておかなければいけないのは米国」と浜本氏。「インフレがかなり厳しい。低所得者は以前から苦しいが、中所得者、さらには高所得者層にもインフレの影響がボディブローのように出ている。自動車や住宅の売れ行きも厳しい」と懸念を示す。
雇用統計の数字は悪くなかったが、今後インフレが賃金上昇以上に進んで需要が落ちてくると、米国経済が失速する恐れもある。FRB(米連邦準備制度理事会)が予防的利上げを含めてどういうカジ取りをするか、それによって株価がどう動くか。米国株の動向は日本株にも影響が出るため注視する必要がある。
その日本の株式市場は2026年に入ってからAI(人工知能)関連株や半導体関連株が人気を集めて日経平均の上昇も続いてきたが、足元で調整局面にある。ただ、「日本の強みは裾野の広さ」と浜本氏。
AIや半導体を支える素材の他、自動車や重工業、リテール・コンシューマー、通信、金融など、産業の分散が効いていることが強み。また欧米に比べて日本株にはまだ割安感があると浜本氏は指摘する。
みずほは毎年3月と9月に投資家向けのカンファレンスを開催しているが、この9月は欧米などから400名超の投資家が参加。今回は特に米国の投資家が増えたことが特徴。米国株のヘッジ先として、マーケットの規模と裾野が広い日本をよく見ておこうという狙いがある。
前年比で20%増と、このカンファレンス史上最多のミーティングのスロット数となったが、投資家からの要望が多すぎて、スロット数を上回ったため、1対1のミーティングではなく、グループミーティングにするなどして対応。浜本氏は「日本の株式市場への期待は高い」と手応えを感じている。
「スペースX」上場で得たもの
今年、世界で最も注目されたIPO(新規株式上場)だったと言っても過言ではないのが、26年6月のスペースXの上場。結果、調達額は857億ドル(約14兆円)という史上最大のIPOとなった。
みずほ証券の米国法人は、スペースXのIPOで、日本の証券会社として唯一、主幹事団に参加した。この要因を浜本氏は「〝つなぐ〟を大事にしてきたこと」と分析する。スペースXの日本での資金調達額は約3500億円。日本ではみずほ証券が約8割を販売し、残りを楽天証券とSBI証券で販売。
みずほフィナンシャルグループ全体では今の中期経営計画の中で「マスリテール」「ウェルスマネジメント(WM)&アセットマネジメント(AM)」「企業成長支援」「グローバルCIB」の4つを注力領域としている。
みずほ証券としては、この領域同士を「つなぐ」ことで、顧客に貢献できるのでは?ということを考えた。
「米国を中心に投資銀行を強くしてきたが、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーと同じことをしていては、我々の特徴は生かせない。彼らにできないことをやるから、主幹事団に入れて欲しいという提案をした」(浜本氏)
米国では日々、スペースXに対してM&A(企業の合併・買収)の提案や、リサーチ情報の提供、資金調達の支援などをしてきた。その関係性を生かして、スペースXのIPOを、日本の投資家に「つなぐ」というのが今回の取り組み。
今回の大型IPOを日本の約2500兆円の個人金融資産と「つなぐ」ことで、日本の家計が豊かになる一助になる、という他社にはできない提案がスペースX側に響いた。
また、みずほ証券にしかできない取り組みということで、スペースX株を買いたいという投資家は、新たにみずほ証券との取引を始め今回、新たな富裕層の口座は約1000口座増加。さらにはマスリテールの顧客の口座も増やすことができた。
「WM、マスリテールともに新たな日本のお客様を開拓し、そのお客様を世界の成長機会につなげる、いい機会になった。これが『つなぐ』の意義だと思う」(浜本氏)
今回、今まで接点がなかった新たな富裕層の口座を1000口座増やすことができたのは大きな成果だったが、浜本氏は「それで満足するな」と社内に発破をかけている。
もっと口座数を増やせたのではないか?ということ、そしてこれは「入口」でしかないということが浜本氏の意識にある。例えば、みずほ証券のある営業担当者は、スペースX株を買えなかった顧客に対して、別の商品の提案をして成果を出した。
「今回のIPOをきっかけに様々な提案をして、新たなお客様に提案して買っていただけたことが価値が高い。スペースX株を扱ったことでみずほ証券に目が向いたお客様に、中身のある提案をしていかないと宝の持ち腐れになる。今回のIPOは入口でしかない」
楽天証券との連携で役割分担を明確化
今、みずほ証券では各顧客層に適した商品やサービスの提供をしていこうという活動を進めている。その背景にあるのは「我々の営業担当者が2000人に対して、野村證券さんは地方銀行との連携を含めて6000人いる。この差を埋めるために1人当たりの生産性を上げても限界がある。我々はフォーカスすべきところにフォーカスしていかなければいけない」という浜本氏の危機感。
現役世代を中心とする「マス層」に関しては提携関係にある楽天証券、PayPay証券の顧客接点を活用。みずほ証券は「黒子」として今回のスペースX株など商品提供を含めた後方支援に回る。
例えば、みずほ証券が300億円の社債を5日間かけて売るのに対し、楽天証券は200億円の社債を4分半で売り切る。このネット証券としての力を最大限生かそうという戦略。
親の遺産を相続したり、退職金を得たりするなどして、マス層よりも資産を持つ「ミドル層」に対しては、主に「コンタクトセンター」で対応。そして「アフルエント層」とミドル層には、26年10月以降、部署の新設を含めた新たなコンサルティング体制で対応。
さらにその上の「超富裕層」は、みずほ証券がライバルとして意識している野村證券も注力しており、大きな収益を上げている。ここに対抗するために、解決すべき課題は2つ。
1つは、投資銀行、市場の知識だけでなく相続や不動産など、富裕層のニーズが強い領域の知見を兼ね備えている人材を増やすこと。
もう1つは、銀行と証券の連携を活用する客層が多いのがみずほ証券の強みだが、この顧客に対してポートフォリオ全体を見ながら、適切なコンサルティング、商品提供をするために、営業担当者の「質」を均一化する必要があること。
そのために、25年に野村證券出身で、同社のチャネル改革を手掛けてきた湯原裕二氏をリテール・事業法人部門長に起用し、改革を進めている。富裕層とそのオーナー企業などを担当する営業担当者の全体に占める割合を、現在の2割程度から、数年後には5割程度に高める方針。
「一言で言うと『法個一体』でオーナー経営者に対する資産運用提案と、オーナー経営者が保有する企業への資産運用提案をしていく。今まではバラバラだったものを一体で提供する」
経営者が抱える資産運用に対する悩みだけでなく、不動産や税金、M&Aや事業承継といった課題にも応えられる「総合的投資銀行バンカー」が求められている。そこで投資銀行の経験者をプライベートバンク担当に起用、他社から人材をスカウトするなど、人材登用にも工夫を凝らす。「様々なプロフェッショナル人材を集めてこないと勝負できない」と浜本氏。
こうした取り組みで1人当たりの生産性を向上させるとともに、課題であるWM、リテールの力、収益を向上させることを目指す。「投資銀行部門と市場部門は野村さんとほぼ拮抗しているので、リテールの収益が向上すると、野村さんの収益構造に近づいていく」
前述の通り、みずほ証券は楽天証券と提携しており、マス層の接点を担ってもらっているが、もう1つ、楽天証券がフィンテック投資を進めていることで、みずほ証券にとっては最先端の機能を取り入れるための研究機関のような位置づけにもある。
さらに、野村證券が強みを持つ「職域」(企業の従業員向けに行う営業・サービス提供)も、みずほ証券、みずほ銀行、そして楽天証券の連携で切り崩していきたい考え。
2026年度現在でみずほ証券の預かり資産は63.0兆円、楽天証券は58.7兆円の計121.7兆円となり、大和証券の116兆円を上回る(野村は26年6月現在で183・6兆円)。2030年度には両社の合算で212.2兆円と試算しており、野村の背中を追う。
買収した投資銀行との相乗効果発揮に向けて
みずほFG・みずほ証券は、自分たちに足りない「ピース」を埋めるための戦略も実行してきた。23年には米投資銀行グリーンヒルを買収、25年にはインドの大手投資銀行・アベンダスの買収を打ち出した。
その方針は「急激にみずほ流を押し付けず、ゆっくり時間をかけてカルチャーを醸成して一緒になっていく」(浜本氏)というもの。そして買収した企業と共同で象徴的なM&Aや融資案件を行うことで、さらなる一体感を醸成したい考え。
今後も足りないピースを埋めるためのM&Aという選択肢は排除しないが、これまで買収した企業と一体となって国境やセクターを超えたディールを手掛けていくことがメイン作業。
みずほ証券は、この「つなぐ戦略」で投資銀行として「アジアナンバーワン」、「グローバルトップ10」を目指していく。
「グローバルなケイパビリティ(能力)を持つだけでなく、日本の拠点などと『つなぐ』ことで、米系大手にはできないことをやる」
これまでは、日本企業が海外に進出する、あるいは投資をするという時の支援を得意としてきたが、今後は海外投資家からの日本企業や日本のプロジェクトへの投資を「つなぐ」ことにも注力していく。
特に今、高市政権が「戦略17分野」に2030年までに官民合わせて370兆円の投資をするという方針を示している。この方針を、みずほ証券の担当者だけでなく、買収したグリーンヒルの担当者にも全て読ませて、理解を促している。
海外からの資金を日本につなぐことで、日本の産業競争力の復興、経済安全保障の強化にも貢献していく考え。
「我々の『つなぐ』戦略の中では、日本から海外へのアウトバウンドだけでなく、海外から日本へのインバウンドもしっかり意識して、双方を強くしていく。これによって『みずほらしさ』、みずほの勝ち筋が出てくると思っている」
「金利ある世界」の中で人々の投資意欲は高い。証券会社間の競争も激しさを増す中で、銀・証の連携、米国での強さに加え、持てる武器を「つなぐ」戦略で成長を図るみずほ証券である。