
冷凍・冷蔵倉庫が逼迫する中で
「国の社会課題の解決と地域の持続的な発展に向けて、未来をつくる高度物流拠点の形成を三者で連携して取り組んでいく」─こう話すのは川崎市長の福田紀彦氏。
2026年8月5日、鉄鋼大手のJFEスチールと、物流不動産開発大手の日本GLPは、JFEスチール東日本製鉄所(京浜地区)扇島の土地、約18ヘクタールの売買契約を結んだ。同時にJFEホールディングス、JFEスチール、日本GLP、川崎市は、この土地における高度物流拠点の形成に向けた連携協定を締結した。
この土地はJFEスチールの前身企業の1社、旧日本鋼管が1936年に稼働した、首都圏で初めての一貫製鉄所があった場所。様々なコストが高いこともあって競争力に課題を抱えており、構造改革の中で23年9月に高炉の稼働を休止した。
これ以降、JFEは川崎市とも連携して、跡地の活用について、国の課題解決につながる公共性・公益性の高い土地利用転換に取り組んできた。
その方針を示したJFEの土地活用構想「OHGISHIMA2050」では水素活用などによるカーボンニュートラル、次世代モビリティの拠点、高度物流拠点、防災拠点、AI(人工知能)活用の次世代型街づくりといったコンセプトが掲げられている。
その中で今回の日本GLPとの取り組みは、扇島の土地活用の具体的施策の第一歩となる。
今回の取り組みは、首都圏の食品物流を支える「次世代コールドチェーン基盤」の構築。そのために次世代冷凍・冷蔵物流施設11棟を段階的に整備。延床面積約37万平方メートル、保管能力55万トン規模という、国内最大規模の物流施設開発となる。総投資額は約3000億円。名称は日本GLPの大型物流施設ブランドを冠した「ALFALINK川崎扇島」。同社にとって、同ブランドの施設は6カ所目。
実は今、日本の冷凍・冷蔵倉庫は大きな課題に直面している。日本GLP社長の帖佐(ちょうさ)義之氏は「冷凍・冷蔵倉庫の急速な需要の伸びが続いている」と話す。
現在、冷凍食品の国内消費量は302.9万トンと初めて300万トンを超えている。食品ECの市場規模は3.1兆円と10年で約2.6倍、農林水産物・食品の輸出額は1.7兆円と10年で約2.3倍に成長。
これを受けて、東京・横浜・名古屋・大阪・神戸・福岡の6大都市のうち、東京・神戸・福岡の3都市で庫腹占有率が100%を超えるなど逼迫した状況。
しかも、日本の多くの冷凍・冷蔵倉庫は1960年代から80年代にかけてつくられたものが多く、更新時期を迎えている。さらに環境問題を受けてフロン冷媒から自然冷媒への転換が求められている他、労働力不足による自動化への変革が急務。災害リスクや地政学リスクを考えても、食料安全保障の重要性も高まっている。そのため「今求められているのは、大規模で高品質なコールドチェーンの基盤整備」(帖佐氏)
11棟の大型施設が1つの「エコシステム」として機能する姿を目指しており、分散している拠点や荷物を集約、入居者同士の再保管、共同配送で積載効率を高度化、設備の共同メンテナンス、共用棟、共用車両の活用を進める。
さらに将来は水素モビリティや自動運転トラックの活用、DX設備の導入を進めて、文字通り「次世代」の高度物流拠点として整備する方針。
海から土地をつくり、産業をつくる
今回の次世代物流施設整備は、JFEが進める土地利用転換における意義も大きい。
第1に扇島が初めて「公道」につながる。これまでは扇島を走る道路はJFEが整備した「私道」だったから。これによって交通利便性が高まるのみならず、これまで製鉄所の構内だった扇島が、多くの企業や働く人々が行き交う新たな産業拠点となることを意味する。「高度物流ゾーンが生み出す物流需要と交通需要が、扇島を公道に繋げる原動力になる」(JFEホールディングス専務執行役員・岩山眞士氏)
第2に、JFEは今回の土地売却で450億円の売却益を得るが、この資金は今後の扇島の設備解体や基盤整備に活用される。次の土地利用転換を促進する起点となるということ。
さらに第3に、グリーントランスフォーメーション(GX)を支える基盤が揃い始めること。現在、扇島では液化水素サプライチェーンの構築や、グリーン電力、データセンターの整備が進められているが、ここに高度物流が加わることで「企業の誘致や、GX産業の集積が大きく前進する」(岩山氏)
この扇島は最初から土地だったわけではなく、海を埋め立ててつくられた。その上に製鉄所をつくり、日本の産業基盤を支えてきた。JFEの岩山氏は「かつて私たちは海から土地を作り、その土地の上に製鉄所を作った。これからはその土地の上に次の100年を支える新たな産業基盤を作っていく」と力を込める。
扇島で土地利用転換を進めるのは約222ヘクタール。今回の物流施設の約18ヘクタールは、その第一歩であり、構想を前に進めるための起爆剤になるものだと言える。