日本企業も選ぶ、欧州の新しい宇宙輸送

イーザーとスペクトラムには、日本の企業も期待を寄せている。宮城県仙台市に本社を置くElevationSpace(エレベーションスペース)は、2025年3月、「あおば」の打ち上げ契約を発表した

「あおば」は、宇宙で実験や技術実証を行い、その成果物を載せたカプセルを地球へ帰還させる宇宙機だ。宇宙で得られた試料などを持ち帰れば、地上の設備で詳しく調べられる。宇宙での実験と地上での分析を結ぶには、打ち上げから回収までを、ひとつの流れとして成り立たせる必要がある。「あおば」は、その事業を実現するための第一歩となる。

同社によると、「あおば」の打ち上げは2027年以降を予定している。また、イーザーを選んだ理由として、目標とする軌道へ直接投入できることや、打ち上げ時期を柔軟に選べることを挙げている。開発現場を視察し、自動化された生産体制を評価したことも、契約を後押しした。小型ロケットが掲げる「必要な時期に、必要な軌道へ」という利点は、日本企業にとっても大きな意味を持っている。

さらに2026年9月1日には、同じく日本の宇宙ベンチャーのアストロスケールも、宇宙ごみ除去衛星「ADRAS-J2」をスペクトラムで打ち上げる契約を発表した。打ち上げは2027年度を予定する。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の商業デブリ除去実証の第2段階を担い、軌道上に残る日本のロケット上段に近づき、捕まえ、軌道から離脱させる計画だ。

  • スペクトラム・ロケット2号機の打ち上げ (C)Isar Aerospace

    スペクトラム・ロケット2号機の打ち上げ (C)Isar Aerospace

欧州で育つ、新たなロケットたち

欧州は長らく、南米のフランス領ギアナを拠点に、アリアンやヴェガといったロケットを運用してきた。スペクトラムの成功によって、その歴史に新しい担い手と、欧州域内の新たな出発地が加わった。

このことは、欧州の宇宙輸送の自立性という観点でも重要な意味をもつ。新しいロケットが既存のロケットと役割を分担し、大きさや得意分野の異なる機種がそろえば、衛星の用途に応じて輸送手段を選ぶことができる。

同時に、欧州が自ら使える打ち上げ手段を複数もつことは、宇宙輸送の自立性と安定性を高めることにもつながる。通信や災害監視、安全保障といった社会の基盤となる衛星の打ち上げを外国の手段に依存すれば、国際情勢や相手国の都合によって計画が左右されかねない。また、複数のロケットがあれば、ある機種が運用を停止しても、別の手段で補いやすくなる。

その重要性を欧州があらためて認識する契機となったのが、2020年代前半の打ち上げ手段の不足だった。

2022年、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、フランス領ギアナから打ち上げていたソユーズが使えなくなった。同年12月にはヴェガCが打ち上げに失敗して運用を停止し、2023年7月にはアリアン5が退役した。その一方、後継のアリアン6はまだ初飛行を迎えておらず、欧州は一時、自ら使える宇宙輸送手段が著しく限られる状況に陥った。

その後、アリアン6は2024年7月に初飛行し、ヴェガCも同年12月に運用へ復帰したが、宇宙への道を複数確保しておくことの重要性が、あらためて浮き彫りになった。

その新たな選択肢を生み出そうとしているのが、イーザーをはじめとする民間企業だ。欧州各地では、複数の企業が、それぞれ異なる技術や事業構想を掲げてロケット開発を進めている。

ドイツのロケット・ファクトリー・アウクスブルク(RFA)は、「RFA ONE」ロケットを開発している。打ち上げ能力は、高度500kmの太陽同期軌道へ1,300kg。初飛行は、英国シェトランド諸島のアンスト島にあるサクサヴォード宇宙港から行う。アンドーヤやギアナも候補地となっている。2024年8月には第1段の燃焼試験中に機体を失う事故を経験したが、新たな機体を製造し、2026年3月には第1段と第2段を射場へ運び込んだ。同年3月の時点では2026年夏の初飛行を予定していたが、現時点で新たな打ち上げ時期は公表されていない。

スペインのPLDスペース(PLD Space)は「ミウラ5」(MIURA 5)ロケットを開発している。高度500kmの太陽同期軌道へ最大540kgを運ぶ能力がある。2023年には小型の技術実証ロケット「ミウラ1」(MIURA 1)を打ち上げ、エンジンや機体構造、打ち上げ運用の経験を積んだ。現在はフランス領ギアナのギアナ宇宙センターに発射施設を整備し、ミウラ5の初飛行に向けた準備を進めている。また、将来的には、輸送能力を高めた改良型や、より大型のロケット「ミウラ・ネクスト」へ発展させる構想も掲げている。第1段の回収・再使用の技術開発にも取り組んでいる。

フランスのマイアスペース(MaiaSpace)は、「マイア」(Maia)ロケットを開発している。全長約50m、直径3.5mの2段式で、液体酸素と液体バイオメタンを使う。使い捨て型では太陽同期軌道へ最大1,500kg、再使用型では最大500kgを運べる。第1段を洋上の船へ着陸させて回収する方式をめざしている。

ESAも、こうした民間企業の開発と事業化を後押ししている。その一つが「欧州ローンチャー・チャレンジ」だ。2026年8月には、イーザー、RFA、PLDスペースの3社と契約を締結した。

各社は開発や事業上の節目を達成しながら資金を受け取り、打ち上げサービスの整備や能力向上を進める。民間企業がロケットの開発や事業を担い、公的機関がそれを支援するとともに、打ち上げサービスの顧客にもなる。こうして競争する企業を育て、欧州の宇宙への道を増やすことも、この取り組みの狙いである。

イーザー・エアロスペースは、欧州の民間企業が自ら開発したロケットで、欧州の射場から衛星を軌道へ送り届けるという大きな一歩を踏み出した。その成功を追うように、欧州各地では新しいロケットが育ちつつある。スペクトラムが開いた新たな航路に、こうしたロケットが続けば、欧州から宇宙へ通じる道は、より多様で、より確かなものになっていくだろう。

  • アンドーヤの夜空に舞い上がったスペクトラム2号機 (C)Isar Aerospace

    アンドーヤの夜空に舞い上がったスペクトラム2号機 (C)Isar Aerospace

参考文献