ボタニカルライフスタイルブランド「BOTANIST」などを展開するI-neは、Snowflakeを活用してデータ基盤を刷新し、生成AIの全社活用を進めている。同社はデータ連携のシンプル化やデータカタログの整備を進めることで、「データで会話する組織」の実現を目指している。

同社はどのようにしてデータ基盤を整備し、AI活用を全社へ広げていったのか。ITストラテジー室 室長の川本佳希氏に話を聞いた。

  • I-ne ITストラテジー室 室長 川本佳希氏

    I-ne ITストラテジー室 室長 川本佳希氏

生成AI時代を前に見えてきたデータ活用の限界

I-neでは以前からデータ活用への意欲は高かった。しかし、事業の成長とともに扱うデータ量は増加し、Excelを中心とした分析環境では限界が見え始めていた。

「データ活用の意欲はありましたが、数字の整合性を取ることに時間を使っていました。生成AIの時代が目の前に来ている中で、この状態では十分にデータ活用できないと感じていました」と、川本氏は話す。

さらに、既存のデータ基盤も複数のシステムが複雑に連携する状態となり、全体像を把握しづらくなっていたという。

そこで、部分的な改善ではなく、データ基盤そのものを見直す決断を下した。

川本氏は「生成AI時代を見据えたとき、技術を増やすのではなく、むしろシンプルにすることが重要だと考えました」と振り返る。

「シンプル」を軸にSnowflakeを選定

新たなデータ基盤の構築にあたり重視したのは「シンプルさ」だった。同社ではデータ連携の仕組みをできるだけ単純化し、利用する技術も絞り込む方針とした。

検討の結果、選ばれたのがSnowflakeだった。その理由の一つが、GUIベースで利用できるSnowsightの存在だ。将来的な市民開発を見据えた場合、事業部門のユーザーにも利用しやすい環境が必要だった。

また、SQLとPythonを中心に構築できる点も評価したという。

「中小規模の組織では、覚える技術を増やしすぎないことが重要です。SQLとPythonに絞れば、多くのことに対応できます」

さらにロールベースの権限管理やデータガバナンス機能も、全社展開を見据えた際の後押しとなった。

少人数で進めたデータ基盤刷新

基盤刷新プロジェクトは少人数で進められた。開発の中心となったメンバーが必ずしも専門のデータエンジニアスペシャリストではなかったが、わずか数カ月でデータ基盤を構築した。

そのカギは、バイブコーディングとAI活用である。事業部門で培った業務知識を持つメンバーが中心となり、いくつかのAIツールを活用しながら開発を進めた。

また、既存環境をそのまま移行するのではなく、「不要なものを捨てる」ことも重視した。

乱立していたBIレポートを整理し、本当に必要なものとして30程度のみ残す方針を採用。データについてもまずSnowflakeへ集約する構成とし、複雑な前処理は極力排除した。

川本氏は「IT用語は難しいので、『データはSnowflakeにある』という状態を作りたかった」と振り返る。

さらに、同社はデータカタログを初期段階から整備した。川本氏は「データ活用で最も難しいのは定義です」と話す。

同じ指標でも部署によって意味が異なるケースがあるため、まずはデータの定義や所在を可視化し、誰でも参照できる環境を整えた。

「データで会話する組織」への変化

Snowflake導入による効果は、単なるシステム刷新にとどまらなかった。

データカタログの整備によって、利用者は自らデータの定義や所在を確認できるようになった。これにより、部門間で発生していた認識のずれも徐々に解消されていった。

「同じ売上でも人によって定義が違うことがあります。まずは定義をそろえることが重要でした」

データカタログによって定義が共有されたことで、数字の正しさを確認するためのコミュニケーションコストは大きく低下した。

その結果、社内では「このデータを早くSnowflakeに入れたい」といった会話が日常的に交わされるようになり、データが共通言語として機能するようになった。

また、新たなデータソースの追加等に要する時間も大幅に短縮した。社員のIT・AIリテラシー向上も進み、現場から寄せられる分析要望の質も変化した。

Snowflakeのロールベースアクセス制御を活用しながら、自由に活用できる領域と統制が必要な領域を切り分けた。

一方で、技術的な仕組みだけでは十分ではない。同社では2024年以降、月1回以上の勉強会を継続して開催し、Slackを通じて利用者からの要望を収集してきた。

全社員への生成AI展開

データ基盤の整備後、I-neは生成AI活用の全社展開に踏み切った。生成AIの全社展開に当たり、I-neは3つの工夫を取り入れた。

  • PoC:まず経営層やデータ分析担当者らを対象に約3カ月間のPoCを実施。利用シーンやプロンプトの検証を重ねた

  • シンプルな権限設計:「経営層」「データ分析者」「全社員」の3層に整理し、運用を簡素化した

  • シングルソース:全社員へ展開することを前提に、利用するデータソースも可能な限り一本化した

  • I-neはPoC、シンプルな権限設計、シングルソースという3つの工夫で生成AIの全社展開を進めた

    I-neはPoC、シンプルな権限設計、シングルソースという3つの工夫で生成AIの全社展開を進めた

同社ではSnowflake Intelligenceを導入し、全社員が自然言語でデータ分析を行える環境を整備している。特徴的なのは、分析教育を十分に行ってから展開するのではなく、まず使ってもらうことを優先した点だ。

「先に分析を覚えてからではなく、まず触って慣れてもらうことを重視しました」(川本氏)

同社がSnowflake Intelligenceを採用した理由の一つが、既存のデータガバナンスを維持したまま生成AIを展開できる点だった。

川本氏は、全社員へ展開する以上、利便性だけでなく適切なアクセス制御も重要だったと説明する。

「生成AIは便利ですが、誰でも何でも見られる状態にはしたくありませんでした。既存の権限体系を生かしながら展開できたことは大きかったです」

展開にあたってはPoCも実施したが、一定のコスト増加はあらかじめ経営層と共有。利用定着を優先する判断を下した。

例えば、経営層自らがAI活用を推進するようになったほか、現場では非エンジニアが自然言語を活用して業務ロジックの改善に取り組むケースも生まれている。

また、BIの役割にも変化が現れ始めた。

従来は「数字が正しいか」を確認するために利用されることが多かったが、AIによって必要なデータを自然言語で取得できるようになったことで、意思決定のための指標として活用する方向へシフトしつつあるという。

  • 現場の景色を変えた3つのキラーユースケース

    現場の景色を変えた3つのキラーユースケース

AIエージェント時代に向けた次の一手

I-neは現在、Snowflake CortexやAIエージェントの活用にも取り組んでいる。

今後は定型的な分析をさらに自動化し、人が担う業務をより高度な分析や意思決定へシフトさせたい考えだ。

そのために同社では、ダッシュボードや生成AIを組み合わせながら、より実践的なデータ活用環境の整備を進めている。

「私たちが目指しているのは、データを集めることではありません。データを使って行動変容を起こすことです」

また、川本氏は、生成AI時代にはITガバナンスとITリテラシーの重要性がさらに高まると指摘する。

「活用と統制の両立が重要です。技術だけでなく、ガバナンスやリテラシーを含めて取り組む必要があります」

データ基盤の刷新から始まったI-neの取り組み。その根底には、単なるシステム導入ではなく、データを活用して行動変容を起こすという考え方がある。