日本IBMは8月25日、都内で説明会を開催し、企業の全社的なAI活用を支援する「IBM Enterprise Advantage」の国内展開を本格化すると明らかにした。業務の分析・再設計からAIエージェントの構築、運用、投資対効果の管理までを一貫して支援する。

AI格差の拡大、個別業務の効率化だけでは乗り越えられない

冒頭、日本IBM 執行役員 CAIO(Chief AI Officer)兼副CTOの早川勝氏は、経営基盤のためのAIに着手すべき理由として「AI格差の拡大」が背景にあると指摘。これは、個人・企業間における生産性や収入、雇用、競争力の格差が加速し、国家間でも経済・安全保障の格差が拡大しており、一度開いた格差は自己強化的に広がりやすいといったものだという。

  • 日本IBM 執行役員 CAIO(Chief AI Officer)兼副CTOの早川勝氏

    日本IBM 執行役員 CAIO(Chief AI Officer)兼副CTOの早川勝氏

早川氏は「AIにアクセスして活用できる人・組織・地域・国と、そうではないものとの間に生まれる格差のことであり、情報格差(デジタルデバイド)のAI版である。AI格差を乗り越えるためには個別業務の効率化だけでなく、AIと協働するために業務を作り変え、企業全体で運営する能力が競争力を左右する。当社は自社における実践を通じて、AIオペレーティングモデルを確立しており、そのベストプラクティスの活用を継続できるIBM Enterprise Advantageを提供している」と説明した。

IBM社内で4000超のAIエージェント、人と協働し45億ドル規模の効果

続けて、日本IBM 常務執行役員 成長戦略統括事業部長の川上結子氏が経営基盤のためのAIと、これを具体化するマネージドサービスとしてIBM Enterprise Advantageについて解説した。

  • 日本IBM 執行役員 CAIO(Chief AI Officer)兼副CTOの早川勝氏

    日本IBM 執行役員 CAIO(Chief AI Officer)兼副CTOの早川勝氏

同氏は昨今においては、新規に提供されるアプリケーション10億に対して、新規に提供されるエージェントが20億、人間とAIエージェントの比率は1:120となっており、AIエージェントの規模が急速に拡大するとともに、人との協働は当たり前になりつつあるという。

  • IBMにおける人とAIの協働

    IBMにおける人とAIの協働

現在、クライアントゼロとしてIBM社内では4000超のAIエージェントが人事、IT、財務など450以上のプロジェクトで人と協働しており、コンサルタント、アーキテクト、エンジニアなど職種別に対応するデジタルワーカーが存在し、人は方針決定や責任、倫理判断、例外対応を担っている。

  • IBM社内の実績

    IBM社内の実績

川上氏は「AIエージェントを従業員のように扱い、採用、スキル認定、配備、退役という一連のプロセスで管理し、人事のような仕組みがAIに対して適用されている。490の業務フローに分解し、AIの活用を前提に再設計したプロセスは70件に上り、2025年には45億ドル規模の生産性向上効果を生み出した。単にAIを導入するのではなく、業務そのものを再設計し、全社に展開することで成果に結びつく」と話す。

AI全社展開を阻む4つの課題、業務と基盤の両面から解決

ただ、AIを全社展開していくにあたり「業務の再設計」「自社知識の付与」「人とAIの協働」「統制とROI(Return On Investment:投資利益率)の管理」の4つの課題があると指摘。こうした課題を解決するために、業務レベルと基盤レベルのアプローチが必要だという。

業務レベルでは、業務をAIとの協働を前提に分析・再設計して設計図を残すほか、用語・規定・データをAIが利用できる形に整備、人とAIの分担手順を明確化し、利用料とコストを把握することが求められる。

基盤レベルでは業務レベルで取り組んだものを組織を横断して共通化し、資産として管理・継続する。また、AIエージェントの役割・権限・配備・監視・停止までをライフサイクルで管理するとともに、AIの投資・利用・リスクを可視化して共通ポリシーで継続的に管理する必要があるとのことだ。

  • 4つの課題に対する業務・基盤レベルの取り組み

    4つの課題に対する業務・基盤レベルの取り組み

これらを実現するものがアセット活用型コンサルティングサービスのIBM Enterprise Advantageというわけだ。IBM Enterprise Advantageを用いた同社のアプローチは「業務マクロ分析」「業務再設計」「構築」「運用」の4つの工程となる。

  • 業務分析から運用までの4つの工程

    業務分析から運用までの4つの工程

川上氏は「4つの工程を回すために必要なものをひとまとめにしたものがIBM Enterprise Advantage。IBMの方法論やAIツール、専門家による支援を組み合わせ、顧客企業におけるAIプラットフォームの構築・運用を支援するアセット活用型のコンサルティングサービスである。オールインワンのAIプラットフォームであるとともに、マネージドサービスであり、契約期間中は常に最新の状態に更新される」と説く。

  • IBM Enterprise Advantageの全体構成

    IBM Enterprise Advantageの全体構成

業務分析からAIエージェント運用まで、変革を支える機能群

IBM Enterprise Advantageでは、4つの工程に即した機能を提供している。業務マクロ分析では「CBM.AI」で全社の業務を俯瞰し、投資対効果の大きい領域を特定。業務俯瞰図上で生成AIの潜在性をヒートマップ化し、価値創出の可能性をユースケースとともに提示する。

業務の再設計は、近日中に提供予定の「Process Studio」が担う。属人化に左右されない品質を確保してAIを前提に業務を再構築することに加え、同社の方法論にもとづきAIエージェントが業務を再設計し、その内容を設計書として整備し、投資対効果までを算定する。

  • Process Studioの概要

    Process Studioの概要

企業知識の整備を行う「Context Studio」は汎用のAIを自社の業務が分かるAIに転換し、社内に散在する企業知識を整備して、業務変革の検討段階から変革後の運用まで、一貫してAIが参照できるコンテキストとして提供する。

構築・運用は「Agent Studio」により、エージェント型アプリの設計から監視までライフサイクルを管理すると同時に、異なるプラットフォーム上のAIエージェントを、単一の基盤で連携・監視する。

近日中に提供予定の「Product Workbench」はProcess Studioの設計図、Context Studioの企業知識を起点にAIエージェントが開発工程全体を進めていく。GitHubやJiraなどの開発ツールで動作し、ツール間を行き来することなく作業できるようにする。

AI利用量とコストを可視化する「Advantage Insights」は、AI投資の採算性や、複数のAIプラットフォームにまたがるトークン消費量、コスト、ROIを単一のダッシュボードに表示し、投資の継続・拡大・停止の判断を支援する。

  • Advantage Insightsの概要

    Advantage Insightsの概要

人とAIが協働する場としては「AI Workspace」を用意。専用のチームとワークスペースを設け、実務者、開発者、AIが共同で現場の課題に対応するほか、社内文書・データを一元化し、利用者ごとの文脈に応じたエージェントを提供。誰でもエージェントを作成し、ライブラリに保存して再利用できるようにする。

クラウドとオンプレミスに対応、FDUがAI変革を伴走支援

IBM Enterprise Advantageは、クラウドまたはオンプレミスなど、顧客が選択した環境に構築し、料金はパワーユーザー数とトークン容量に応じたサブスクリプションとなる。サポートは固定額でのプラットフォーム運用サービスとなり、基盤部分を除き、利用するコンポーネントを選択できる。

  • IBM Enterprise Advantageの提供形態

    IBM Enterprise Advantageの提供形態

導入時には、「FDU(Forward Deployed Unit)」と呼ぶ戦略・業務・技術の専門家による少数精鋭チームを編成する。分析、設計、構築、テストを専門AIエージェントが担い、FDUのメンバーは判断や例外対応、顧客との対話に専念することで、変革を伴走型で支援する。2026年内にFDUによるIBM Enterprise Advantageの導入支援を10件開始することを目指す。

  • FDUと専門AIエージェント

    FDUと専門AIエージェント

川上氏は、企業に必要な運営モデルを「AIオペレーティングモデル」と定義する。業務レベルと基盤レベルのうち、後者に該当する仕組みであり、それをシステムとして実現するリファレンスアーキテクチャが統合AI基盤だという。

そのうえで同氏は「AIオペレーティングモデルと統合AI基盤を合わせて、『経営基盤のためのAI』と位置付けている。AIの成果は、仕事そのものを作り変えることから生まれる。IBM Enterprise Advantageを通じて企業がAI格差を乗り越え、日本全体を底上げしていくことを目指す」と述べ、プレゼンテーションを結んだ。