【 370兆円の官民投資の虚像 】ABC経済研究所 代表エコノミスト・熊野英生

高市政権は、今後2040年度までに官民併せて累計370兆円超の投資拡大を計画している。戦略17分野への投資促進をより具体化したものとして示された。この話を聞き、即座に思い出したのは「公共事業430兆円」というバブル期の方針だ。まさに既視感である。 

 1990年に海部内閣が描いた「公共事業430兆円」の計画は、米国から貿易赤字を減らすために1991~2000年の10年間に公共事業を増やせという方針の下で策定された。しかし、いま思えば、バブル期のあだ花でしかなかった。1990年代中盤から、公共事業と言えば、景気対策などで金額が水増しされ、「無駄な公共事業」と枕詞が付いた。 

 公共事業430兆円の教訓は、あまりに官主導で金額を膨らませようとしたために無駄な投資に傾いた点にある。近年は、設備投資も公共投資も高コスト化している。金額目標を追うとコスト査定が甘くなる。官の補助に依存すると、その甘えが投資の収益性を低下させる。 

 この収益性に関しては、そもそも17分野の選定に怪しいものがある。例えば、核融合(フュージョンエネルギー)は実装まで遠い技術である。政府が介在することで成功が前提となった計画が組まれる可能性がある。こうした新分野は、実用化に海外の方が先行し、結局、日本はそれに倣って技術導入することが少なくない。下手をすると国内での独自研究は捨て金になる。 

 実は、目玉になっているAI半導体も米国と中国が圧倒的な競争力を持っていて、後発の日本が追い付くことは至難の業である。 

 筆者は、むしろ既存の米国AIを日本企業がどう活用して、生産性上昇につなげるかに特化した方が実りが多いと考える。後追いの研究よりも、実装のノウハウに商機があるとみる。AIを中小企業が使いこなすことを政府が支援して、幾多の事例からAI活用の勝ち筋を探るというやり方に妙味がある。 

 何よりも投資とは、本質的に先験的には成果がわからない。経済学者ケインズは、アニマルスピリットという企業家の主観的な挑戦が、投資の原動力だと説いた。17分野の投資は、高市首相の主観に基づく選定が多分に働いているが、それが事後的に生産能力に結びつくかはわからない。 

 筆者は、なるべく政治主導の意思決定を抑制し、民間企業から多くの参画を募り、海外の事例から学んだり、民間企業では招聘することが肝要だとみている。逆に、ビジネスから遠い官出身の人材をマネージメントに置くのは危険だ。 

 370兆円の投資で最も関心があるのは、プロジェクトのリスク・マネージメントにある。官民ファンド「クールジャパン機構」が▲540億円の累積赤字を計上して、統廃合の検討に入ったのと同様に、厳しく監視した方がよいと考える。