
価格はヘリの半額から3分の1
「点から点に移動でき、道路や滑走路という社会インフラが不要になるため、まさに『移動のイノベーション』が起こる」─。大阪・関西万博でもデモ飛行を行った「空飛ぶクルマ」を開発・製造するSkyDrive(スカイドライブ)代表取締役CEOの福澤知浩氏が2018年の会社設立当時に語っていた、この構想の実現が2年後に迫る。
同社は空飛ぶクルマを2028年にも商用化する方針を打ち出した。同社幹部は「九州・大分と大阪がファーストケースになるだろう」と話す。同社の空飛ぶクルマは電動垂直離着陸機(eVTOL)と呼ばれ、ヘリコプターより騒音が少なく、電気で動くため環境に優しい。なお、製造は子会社としてスカイワークスを設立し、静岡県磐田市のスズキの工場で年100基規模の製造能力を構えている。
新たなモビリティの登場により、「クルマや電車で何時間もかかる移動に空の選択肢が入ってくる。クルマでは遠くても空飛ぶクルマなら行けるようになり、移動の形態が変わる」と福澤氏。eVTOLは垂直飛行で離着陸できるため滑走路が不要。また機体が軽いという機体の特長を生かし、まずは「短い2地点間の往復や観光地での遊覧飛行といった用途での活用」(前出の幹部)を目指していく。
eVTOLの離発着地は滑走路といった、まとまった土地を取得して新設する必要がない。既存のビル屋上に「H」と記されたヘリポートを空飛ぶクルマ用の離着陸場「バーティポート」として活用することができる。例えば、大阪市内だけで146カ所あり、空飛ぶクルマができれば「これらをビジネスでも使用できる」(前出幹部)。
スカイドライブと提携する企業の関係者は「規模感は海外勢の方があるが、国産の空飛ぶクルマを投入できる唯一の企業として期待がある」と語る。実際、デモ飛行を行った25年の大阪・関西万博では海上を数分間飛び、飛行時間は5分14秒、飛行距離は720メートル、最高高度は27㍍に達したと言われる。
さらに、この6月下旬には時速100キロの前進飛行試験に成功。機体設計と実機挙動の整合性を確認し、国土交通省が航空法に基づき、新たに開発された航空機ごとに、その設計・構造・強度・性能などが安全基準や環境基準に適合していることを公式に認める「型式証明」の取得に向けて大きく前進している。しかも、福澤氏は「価格はヘリの半額から3分の1を目指す」とも打ち明けている。
受注機数は427機
このスカイドライブに出資している企業は公表されているだけでも30社を超える。東日本旅客鉄道(JR東日本)や大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)、近鉄グループホールディングスといった鉄道会社をはじめ、伊藤忠商事、大林組、スズキ、東京海上ホールディングス、日本電気(NEC)、三菱UFJ銀行、LINEヤフーなど業種も多岐にわたる。
鉄道会社にとっては鉄道ではカバーできないエリアへの新たな移動手段として新規事業に位置付けられ、ゼネコンにとってはバーティポートの建設需要が見込めるなど、波及効果は大きい。矢野経済研究所の調査によると、世界全体の空飛ぶクルマの市場規模は、25年は600億円程度だったが、50年頃には180兆円を超える規模にまで成長すると予測されている。
その中で九州旅客鉄道(JR九州)とは25年と、他社と比べても早くから資本業務提携を締結。28年度には別府湾での遊覧飛行や別府と湯布院をつなぐ空飛ぶクルマによる「エアタクシー」の運航を目指しており、ここに西日本高速道路会社(NEXCO西日本)も加わって、高速道路の別府湾サービスエリアを活用した検討が進んでいる。
また、大阪メトロとは「新大阪・梅田」「森之宮」「天王寺・阿倍野」「ベイエリア」を重要エリアとして選定し、それぞれを結んだ「大阪ダイヤモンドルート構想」が進む。
ただ、世界を見渡すと、実現可能性が高い陣営はスカイドライブを含めて6つある。
そのうちの1陣営である米ジョビー・アビエーションはトヨタ自動車やANAホールディングスが出資しており、トヨタとは合弁会社を設立している。米アーチャー・アビエーションは日本航空と住友商事の共同出資会社の「ソラクル」が同社の機体を使う予定だ。
他には英・バーティカル・エアロスペース、米・ベータ・テクノロジーズやイブ・エア・モビリティがいる。その中でスカイドライブが唯一の日本企業となる。300回のフライトを実現し、日本で初めて国交省から空飛ぶクルマの設計・検査能力に関する認可を取得。こうしたものづくりの力を活かして受注機数は427機と国内外の企業からオーダーが入っている。
刻一刻と実用化の時期が迫る中、同社にとっての課題は「量産体制の構築」「離着陸インフラの整備」「パイロットの育成」「法律整備」「社会受容性」など山積みではある。特に地上150㍍の高さを走行する新たなモビリティの存在を社会がどれだけ受け入れることができるか、事故時の責任の所在はどこかなどソフト面の整備が不可欠。しかも、将来的には自動運転でパイロットも不要になるという世界を描く。
自動車や電車の移動では1時間以上かかる距離を僅か15分程度で移動できるようになれば、冒頭の福澤氏の言う通り、日本の交通体系は変わる。それだけでなく、渋滞緩和や地方創生、災害時の物資輸送、離島の医療支援など副次的な効果も期待されるだけに、国産の空飛ぶクルマの実現に期待が集まる。