
「我々は『人に地域に未来に〝やさしい〟』金融機関を目指しています」─髙橋氏はこう話す。現在、信用金庫の中でも有数の利益率を実現している西武信用金庫。だが2019年には無理な不動産向け融資に関連して行政処分を受けるという苦い過去もある。それを受けて理事長に就任した髙橋氏は「職員を二度と悲しませない」として、人が辞めない仕組みづくりに注力。髙橋氏の思いとは─。
デジタル化が進むほどアナログが大事
─ 前回、人口減少の時代に生まれた世代は人口増加時代の目標設定に合わないという話をされていました。
髙橋 我々の世代からすると数値目標の達成は、経済成長の取り分を取る唯一の方法で、当たり前でしたが、今の世代にとっては違和感でしかありません。
かつてのようなノルマやパワハラ的なものではなくとも、社会が遠く見え、転職を煽る風潮の中、もっと、自分の考えが活かせる居場所を探したり、会社のためではなく社会の役に立つ人を目指そうとする若者を最近多く見かけます。ですから私は経営側から押し付ける営業目標を廃止しました。
─ 営業目標ではなく、何を目指そうとしていますか。
髙橋 最優先にしているのは、今、お取引のある中小企業の売上拡大や黒字経営の安定化といったお客様側の利益を実現するお手伝いをすることです。我々の利益や成長は後回しにして、お客様の黒字率や売上増加率、投資信託運用損益といったお客様側に座標軸を置き、西武信用金庫の目標としています。
さらにその効果測定のため、店舗にも、個人にも、業績評価にお客様の黒字率や売上増加率を加えています。各人が担当しているお客様のうち、何社の売上を上げ、何社を黒字にしたか、どれだけ役立ったかが評価指標です。
また、西武信用金庫全体のお客様黒字率68・8%をディスクローズしており、いつか100%になるまで、役職員を挙げて追い続ける覚悟です。
─ 若い頃から、こうした経営を考えていましたか。
髙橋 35年前、バブル崩壊を契機に、日本経済の停滞が始まると、中小企業の倒産が増え、それとともに、それまでつぶれるはずのなかった金融機関の多くが姿を消し始めました。
その時、西武信用金庫もこのままではなくなってしまうという危機感を持ちました。そこで人口が減少して、経済が後退しても生き残るには、我々がお客様のために、人口増加に代わる「エネルギー」、「エンジン」になるという決心でした。
─ 意識が変わったわけですね。
髙橋 そうです。当時、お客様を支援する本部の担当部署へ転勤になったのですが、最初は手探りで難しかったです。それまで、金融が本当の意味でお客様と向かい合ってこなかったことを痛感しました。
中小企業と言えども、奥の深いノウハウや技術があり、にわか勉強で分かったつもりで改善計画を作ったり、融資もしましたが上手く行かず、逆に不良債権が増えてしまいました。
その中で気がついたのは、我々には分からないお客様の技術について、どの大学の先生が詳しいのか、売れなくなってしまった商品を、どの大手商社さんなら、時には厳しいことも言われますが、世界中に売ってくれるのか、あるいは、中小企業診断士の皆さんなど、中小企業を応援してくれる方々が、たくさんいるということでした。
我々はそうした応援団を中小企業に紹介する仕事をしよう、「目利き」できなかったけれど「口利き」ならできる。そこで「つなぎ役」に徹することにしました。担当の呼称も「営業」から「コーディネーター」に変え、それから25年、役職員全員でずっと取り組んできました。
1年間でビジネスマッチングを1万件手掛けたり、産学連携を累計で3000件実施してきました。コロナ後の「事業再構築補助金」では、100億円の採択を得ましたが、整合性ある申請書を作成するために中小企業診断士を始めとする専門家に西武信用金庫が手数料として1億円をお支払いました。
どんなに手間で、お金がかかっても、躊躇なくお客様の黒字化のお手伝いを継続し、いつか、みんなで力を合わせ、黒字率100%にしようと言っています。
─ 今、多くの金融機関がデジタル化を進めて店舗を減らしていますが。
髙橋 我々は店舗を減らすつもりはなく、逆に人も増やしています。デジタル化が進めば進むほどアナログが大事になると考えており、今、多くの金融機関がアプリを導入し、金利を高く設定して預金を集めていますが、アプリなどデジタル主体ではなく、最後まで人が介在することを大切にしていく覚悟です。
また、融資が簡単には増えない時代に、むやみな預金増加は必要ではないとも思っています。大事なのは、お客様を黒字にすること、そしてそれを実現する職員の育成です。
お陰様でこの仕事をやりたいと若い職員も集まってくれていますが、人口減少社会の中、人がいつまでも充足するとは限りません。そこで、人が辞めない仕組みが必須になると考え「人的資本経営」に取り組み、先手を打っています。
人が辞めない仕組みづくりに注力
─ どういったことを意識して取り組んでいますか。
髙橋 まず、シニア層が定年でも辞めない仕組みを整えたことで、昨年60歳の退職はゼロ、65歳でも85%が継続雇用です。
また、女性が辞めない仕組みも整備しました。かつて金融機関では、女性には窓口業務のような定型業務だけをやらせ、何も教えなかった。そうして多くの女性が25歳くらいで結婚して辞めていくという繰り返しでした。
当金庫では、女性が出産後も働き、定年を迎えられる様々な仕組みを整えたことで、2年続けて出産による退職者はいませんでした。
また、支店の事務を担ってくれている女性職員がきちんと仕事してくれているから支店運営が回るわけで、各支店1人ずつ、事務部門の役席に登用し、年収も倍にしました。
─ 女性役員もいますか。
髙橋 3人の女性理事がおり、うち2人のプロパーは、大学を出ていません。私は20世紀の考え方を改め、全てを反対にしたいと思っています。
これまで役員は、男性で、大卒で、営業成績がよく、3カ店で支店長をやり業績を上げ、本部の部長を3部署務めた50代後半の中から選んできましたが、20世紀の成長社会の中で成果を奪い合った過去の経験は、人口の減る21世紀には、役に立たなくなり、これからは、協力し合い、助け合うことを信頼や成果につなげるという全く違う発想が求められると思っています。
その新しい発想で活躍できる人を選んだ結果、性差も、学歴も、経歴も関係なくなり、2人の女性が理事になる道が拓けました。
─ 他に人が辞めないためにつくった仕組みは?
髙橋 地元の人の採用を進めています。以前は新規採用した7割近くの方が地方出身者でしたが、5年前、地元出身者を優先することに方向転換しました。長男で親の面倒を見なければならない、家業を継ぐから東京を離れられないといった地域との関連性や愛着を持った人が勤めるべき職場だと思うからです。
この結果、7割が地元出身になり、人が辞めない一つの理由だと思います。また、かつては禁止だった職員の家族の入社を歓迎しており、多くの職員のお子さんが入社してくれています。
─ この狙いは何ですか。
髙橋 職員が自分の子どもを入れてくれるのは、西武信用金庫が、自分の子どもが生涯勤める場所として、それほど悪くないと思ってくれているバロメーターの一つだと思うからです。
無理な仕事の果てに行政処分に至る
─ 髙橋さんは西武信用金庫が行政処分を受けた2019年に理事長に就任しましたね。
髙橋 はい。行政処分を受ける前は「成長、成長」で融資を増やし続け、地域金融機関の成功例だと言われていました。しかし、実態はサラリーマン大家の方々への不動産融資や他行取引を金利で奪取することで、成果を競い合う過剰な成果主義が根付いていました。
当時、私は事業支援部長でしたが、長く続けてきた西武信用金庫の「お客様支援体制」が、次第に隅へ隅へと追いやられ、その消えかかった灯を何とか消すまいと必死でした。
ノルマ的な環境に耐え切れず、退職者も増え、人員が不足する中、不動産融資をさらに増やすため、キャリア採用と称し、不動産業界など他業界から多数採用する一方で、地道な「お客様支援活動」で、すぐには成績の上がらない支店長は営業担当者に降格させられました。
何人かは辞めて行きましたが、私が理事長に就任したあと、再び支店長に戻しました。
また、事務やシステムのような業務は成果につながらないとして、スポットライトが当たることはなくなり、たくさんの仲間が黙って去って行くなど、経営の意向に異議を唱えられない文化、風土になっていました。
─ この時に髙橋さんを支えたものは何でしたか。
髙橋 私が取り組んでいた「お客様支援活動」は25年前に西武信用金庫が、先陣を切って勇気を持って始めた活動で、定着し、一定の成果も上がっていましたので、絶対にこちら側が本流なのだという信念でした。
私は協同組合に強い思い入れがあります。信用金庫は1951年の信用金庫法公布以来、「協同組織金融機関」と言われていますが、私はこの言い方に馴染めません。
「協同組織金融機関」だと、協同組合が銀行をやっていることになってしまいますが、協同組合と銀行という全く性格の違うものを1つ屋根の下でやっていて、そこに価値があると考えているからです。
信用金庫は協同組合と銀行と2枚の羽根を持ち、この70年間、高度成長の中で機能してきた銀行としての羽根は相当傷んでしまいましたが、もう1枚、まだ使えていない協同組合の羽根があるはずです。
西武信用金庫は25年前、その羽根を開き、お客様を黒字にし、人が辞めない会社になることができたと思っています。
ベンチャーキャピタルで次世代の育成を
─ 創業支援にも注力しているそうですね。
髙橋 ええ。これも25年前が節目になっており、21世紀を生きていく若い方々が5年後、10年後に世の中を変えてくれることに期待し、地域のお金を未来に届けたいという思いで、投資をしています。
2003年に作った西武しんきんキャピタルにより、これまでに160社に直接投資し、19社がIPO(新規株式公開)などイグジットしています。
例えば2024年に上場したT社もその1社です。投資した当時、社長さんはまだ大学2年生でした。彼は、ご自身の経験から「5年か10年先に新しい仕組みを創る」と熱く「スキマバイト」の構想を語られました。
まだ「スキマバイト」という言葉もない時代でしたが、勇気を持って投資させていただきました。それが、呼び水になったかどうか分かりませんが、その後、多くの資金を集められ、6年後、上場していただき、投資額は55倍になって帰ってきました。
─ ベンチャーキャピタル冥利に尽きますね。
髙橋 我々がファンドの立ち上げ考え始めた25年前、それまでの創業の形とは違うベンチャー企業が登場し始めました。未来を見据えた彼らの事業計画には融資という従来の手段では応援できないことから、21世紀に向かう若い世代を支援する投資ができる体制が必要でした。
さらに昨年、社会課題を解決しようとするソーシャル系スタートアップへの投資を行うソーシャルインパクトファンドを組成しました。
まだ、今は明確な出口戦略の見えない分野ですが、23年前、ファンドを組成した時も、まだ東証マザーズ誕生から数年の頃で、ベンチャー企業が上場するなど夢の話だと言われましたが、未来は実現しました。きっと彼らも新しい未来を創ると信じています。
─ 今、職員にはどういう言葉を投げかけていますか。
髙橋 「人に地域に未来に〝やさしい〟」金融機関になるというパーパスを掲げています。お客様が連携し合える出会いの創出や職員同士が協力できるやさしい関係づくり、地域への恩返し、さらには未来への投資など西武信用金庫の進むべき道を示しています。
そして、それを果たすことを幸せに感じられる「やさしい」職員になってほしいと思っています。その先に職員の皆さんの幸せがあり、そういう人に育ててあげることが、私の役割です。7年前の5月24日、行政処分の日の懺悔の思いが私の原動力になっています。 (了)