今吉琢也・コマツ社長(兼)CEOに聞く! 需要変動の大きい建機業界で、ものづくりをどう進めていきますか?

トランプ関税はコストアップ

 

 ─ 社長就任から約1年5カ月が経ちました。その間、米トランプ政権による関税政策も打ち出されました。これまでの経営環境をどう総括しますか。 

 今吉 昨年、北米については関税の発動によって需要が冷えるのではないかと心配したのですが、実際には需要の冷え込みは起こりませんでした。北米の景気は非常に堅調でしたね。ただ、自分が社長就任前に策定を担当した中期経営計画を実行する時期に、この関税の発動が重なってしまい、事業環境が混沌とした1年でもありました。 

 当社の売上高の9割超は海外です。当社の建設機械・車両部門(一般建機と鉱山機械)の地域別売上高では、カナダを含む北米が全体の28%を占め、最も高い割合となっています。鉱山機械に限ると、北米は2番目に高い地域で、1番高い地域は中南米になります。 

 ─ やはり鉱山開発が進んでいる地域になるのですね。 

 今吉 ええ。中南米の売上高のうち鉱山関係が8割弱ほどです。実は北米も4割ぐらいが鉱山関係ですから、それだけ鉱山関係の需要は底堅く推移していると言えます。 

 ─ そうすると、需要はある中でも関税の影響がダイレクトに効いているわけですね。 

 今吉 はい。当社の製品で言えば、原材料価格の高騰以上に、関税そのものが純粋なコストアップになります。米国政府に関税をお支払いし、その分をお客様に転嫁するかどうかが課題になっていました。しかし、業界によって違うと思うのですが、我々の業界の場合は、あまり転嫁はできなかった。 

 何と言っても米国で圧倒的なシェアを持っているキャタピラーが、ほとんど関税に伴う価格転嫁をしなかったからです。その中で我々だけが価格転嫁をするという判断は難しかったと。その意味では、コストだけが上がったということになります。 

 ─ 激動の中を、いかに逞しく生き抜いていくかが問われていると言えますね。 

 今吉 はい。そもそも建機業界は需要の変動のかなり大きい業界でもあります。需給関係が変わり、需要の上がり下がりは当たり前のように起こり得ます。ですから、まずはその変動に一喜一憂しないようにしていく。ただそうは言っても建機産業は長期的には成長しますので、それに向けて中長期的な取り組みをしっかりやりながら、足元もしっかり固めるということです。 

 その点、今回の関税については従来とは異なる外部環境の変化ではありますが、慌てず、騒がず、中長期的な成長に向けて、やるべき事をやっていこうという姿勢で動いているところです。関税そのものは避けられないのですが、自助努力できる部分は、しっかりやっていきます。 

 ─ 自助努力とは? 

 今吉 関税の影響を少しでも下げるためのいろいろな取り組みです。ただ、我々の生産・調達の構造から言うと、関税に関しては基本的には避けられない大きなコストアップになっていることは事実で、全てを米国で生産するわけにもいきません。 

 

グローバル生産体制

 

 ─ 生産から調達の見直しは今後も続くということですか。 

 今吉 それは関税以前からやっています。常にベストな生産調達体制を目指してきました。当社の場合、建機などの本体生産は「クロスソース(同じ建設機械モデルを世界の複数工場で並行生産し、需要変動や供給リスクに応じて柔軟に供給元を切り替えるグローバル生産体制)」に磨きをかけ続けています。 

 代表的な20トンの中型油圧ショベルで言うと、世界9工場で生産しています。この世界9工場では全く同じ品質の製品を作り、需要変動に応じて生産量や商流を変えることができるようにしています。そういうフレキシブル(柔軟)な生産調達体制の構築が何より重要だと思っているんです。 

 先ほど申し上げたように、建機業界は需要の変動が非常に大きいので、各地の需要のピークに合わせて生産能力を高めてしまうと過大な投資になります。また、急激な生産調整もできません。需要の変動にフレキシブルな体制を構築していくことが大事であり、第一だと。 

 過去のリーマン・ショックなどで、世界規模で非常に大きな変動が起こったこともありました。そのときは当社も影響を受けましたが、その都度、変動に耐えられるような強い体制をつくってきました。そして、この体制を今後もさらに少しずつレベルアップさせて拡大していこうということになります。 

累計導入台数1000台を達成した世界初の超大型自動運転ダンプトラック

 ─ 今吉さん自身、海外勤務が長かったですね。 

 今吉 そうですね。米国が6年、中国には3年間の駐在を2回経験しています。 

 ─ その米国と中国の間では、政治の面で米中対立と言われながらも、実際は米中の経済交流は活発です。まさに産業界が国と国をつなぐ役割を担うと思うのですが、米国と中国で仕事をしてきた今吉さんは、コマツの役割をどう感じますか。 

 今吉 おっしゃる通り、コマツも中国ビジネスの歴史は概ね70年になります。生産工場も1995年からスタートしています。既に30年以上の歴史があるわけです。もちろん、その間、中国でもいろいろな需要の変動もありました。それでも現在は中国国内にある2工場を中心にオペレーションしています。 

 ─ 1960年代に中国に進出して以来、中国でビジネスを行っているということは、それだけ現地に溶け込んできたということになりますか。 

 今吉 技術供与や日本からの輸出という取り組みも含めた中国ビジネスという意味では、約70年になりますからね。そして生産工場が完成してから30年以上の歴史を持ち、今では我々の場合、オペレーションは現地化しています。中国国内にも30を超える代理店を持った販売体制を構築して長く続けています。 

 さらには昨今では中国工場を輸出基地としても使っています。建機に使用される鋼材も安く仕入れることができますので、中国の生産コストというメリットを活用することができます。中国の工場も歴史があって力もありますので、中国で生産した製品をクロスソースの形で他の拠点にも輸出しています。

 

建機もSDV化する

 

 ─ それだけ中国は生産面でも販売面でも一定のポジションを持っているということですね。先ほど北米の経済が堅調だという話がありましたが、北米にも、そういった経済のダイナミズムがあるということですか。 

 今吉 もちろんです。例えば北米のGDP(国内総生産)もどんどん伸びていますし、人口も増えています。まだまだ大きく成長し続ける市場だと思います。世界的にみても、市場規模としては非常に大きい市場になりますからね。 

 ─ あらゆる産業でAIの存在が大きくなっています。建機とAIとの関係はどのようになっていくと見ていますか。 

 今吉 AIの技術自体は我々のような建機の世界でも全ての領域に入ってきます。例えば、開発や生産からバックオフィス、それから販売サービスといった領域にまで当然のように入ってきていますし、我々も様々な領域における取り組みで、AIの導入をどんどん進めています。 

 具体的に言うと、米・電気自動車(EV)のテスラの車両を思い浮かべていただければいいと思います。テスラのEVは「SDV(ソフトウエア定義車両)」と言われています。車両というハードではなくソフトウエアの価値を更新していくことで車両自体の価値が上がる車両を指します。この自動車業界におけるテスラのような発想が建機にも必要になってきているのです。 

 そして実際に建機業界もSDV化の流れになってきていますので、当社もSDV型の建機の開発に取り組んでいます。去年、米・シリコンバレー発の自動運転や先進運転支援システム向けにシミュレーションや開発プラットフォームを提供するアプライド・インテュイションと次世代の鉱山機械の開発で協業を開始しました。建機でもAIを組み込んだソフトウエアが機能をアップさせてくような機械にどんどん進化していくと思っていますので、そういう開発も積極的に行っていきます。 

 ─ このことは将来人にとって代わる無人化の方向に向かうということにもなるのですか。 

 今吉 そういう方向に向かうことになると思いますね。実は無人化の技術自体は既に当社は商品化しています。2008年から鉱山向け「無人ダンプトラック運行システム」を搭載した超大型ダンプトラックを販売しているんです。 

 ただ、それで技術の進化が止まるわけではなく、無人化の技術自体は、今後もどんどん高度化していくと思います。しかも無人化だけではなく、遠隔化といった要素も従来から取り組んでいますが、今後さらに加わってくるでしょう。 

 鉱山開発や建設現場などでは人手不足が深刻な問題になっており、それに対応した機械やサービスが大事になってきます。ですから、この領域での競争も激しくなってきますね。

 

メインの部品は日本で生産

 

 ─ そういう中で日本の位置づけをお伺いします。日本のGDPのシェアは低迷を続けており、かつて約18%あったシェアも今では約3.6%です。コマツにとっての日本の位置づけを聞かせてください。 

 今吉 日本での建設機械市場自体は、もうほぼフラットで伸びも期待できない状況であると思います。なぜなら、基本的には公共投資や建設投資に連動しているマーケットであるからです。ですから、残念ながら伸びないと思っています。 

 ただし、ものづくりの面では、まだまだ日本の比率は高いです。生産の約4割は日本で生産していますので、まだまだ日本からの輸出は続けていきます。また、先ほどのグローバルなクロスソースでも、例えばタイの拠点で組み立てをしていますが、メインのコンポーネント(部品)は日本から輸出しています。エンジンや油圧機器といった製品の性能を決める主要な部品は、まだまだ日本でつくっているのです。 

 ─ 日本の底力はそこにあるということですか。 

 今吉 そうですね。ただ当社はこれまで多くの企業を買収してきましたが、それらの会社も様々な開発生産拠点を持っています。それらをグローバルに統合し、有効に活かしながら相互に強めていくと。そうしてグローバルなオペレーションを展開していくことになります。 

 現在の中計では「安全で生産性の高いクリーンな現場を実現するソリューションパートナー」という、ありたい姿を掲げています。それはモノだけでなくコトも含みます。ハードとソフトをうまく組み合わせて、いかにお客様に価値を提供するか。その価値とは、具体的にはお客様にとって安全で生産性の高い現場です。それをお客様が実現するためのソリューションパートナーになることが当社の思い描く姿になります。

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