コマツ社長・今吉琢也の「慌てず、騒がず、中長期視点でやるべき事をやる!」

環境変化に一喜一憂せずに

 

「そもそも建機業界は需要の変動のかなり大きい業界でもあります。需給関係が変わり、需要の上がり下がりは当たり前のように起こり得ます。ですから、まずはその変動に一喜一憂しないようにしていく」 

 建機業界にあって、国内首位、グローバル市場では米キャタピラー社に次いで世界2位というポジションのコマツ社長(兼)CEO(最高経営責任者)の今吉琢也氏(1963年=昭和38年11月生まれ)はこう言って、身を引き締めながらも、「ただ、そうは言っても建機産業は中長期的には成長しますので、それに向けて中長期的な取り組みをしっかりやりながら、足元もしっかり固めるということです」という考えを示す。 

 今吉氏が社長に就任したのは2025年4月1日で1年余が経つ。この間、重要市場の米国では、第2次トランプ政権が発足。〝米国ファースト〟を掲げる同政権は高関税策を導入し、自国優先主義を具体的な政策として実行。そのトランプ関税は日本の建機業界を直撃した。 

 コマツの場合、全売上高(2026年3月期は約4兆1327億円)のうち、海外市場での売上が9割超を占める。日本で製造した基幹部品を、現地で組み立て販売する同社だが、米国市場向けの部品の輸出には当然、トランプ関税がかけられることになった。コマツは米国にも生産拠点を持ち、同業の建機企業をM&A(合併・買収)してきたが、トランプ関税がコストアップ要因として業績面に跳ね返ってきている。 

 建設機械・車両部門(一般建機と鉱山機械)の地域別売上高では、カナダを含む北米が全体の28%を占め、コマツにとっても重要な市場となっている。 

 鉱山機械に限ると、北米は2番目に需要の高い地域で、1番高い地域は中南米になる。鉱山は、建機産業にとって最大の顧客と言っていいほどの重要な取引先。ブラジル、メキシコなど中南米の売上高のうち鉱山関係が8割弱で、北米も4割位が鉱山関係だ。それだけ鉱山関係の需要は底堅く推移していると言える。

 

トランプ関税は建機業界に大きな影響を与えている(写真は、米国での稼働シーン。コマツにとっても米市場は大切な市場だ)

 こうした現状の中で、トランプ関税はどう影響したのか? 

「関税の発動によって需要が冷えるのではないかと心配したのですが、実際には需要の冷え込みは起こりませんでした。北米の景気は非常に堅調でしたね」 

 今、世界的にインフレ基調が強まり、原材料価格も高騰している。原材料価格アップによる影響はどうか? 

「原材料価格の高騰以上に、関税そのものが純粋なコストアップになります。米国政府に関税をお支払いし、その分をお客様に転嫁するかどうかが課題になってきました」という認識を今吉氏は示し、「しかし、業界によって違うと思うのですが、我々の業界の場合は、(コスト増を製品価格に)あまり転嫁はできなかったですね」と2025年度を振り返る。

 

ライバルとの競争もあって価格転嫁は難しく

 

 コマツの主要市場の一つである米国では、米キャタピラー社が圧倒的なシェアを持っており、こうした現地ライバルと価格競争面でもシノギを削る。 

 米キャタピラー社は米国内に生産拠点を構えているが、アジアなどの海外の生産拠点から輸入する建機も米本土で販売。その面ではトランプ関税の影響を受けるわけだが、同社はこの1年余、コスト増を製品価格に転嫁する動きには出ていない。 

 キャタピラー社はコマツに先んじて、2022年から2023年にかけて大幅値上げを実行(値上げ幅は10%以上といわれた)。キャタピラー社はこの値上げでシェアを落としたとされ、2025年春から値下げを始め、シェア回復に懸命な状況。米国市場での建機・鉱山機械の販売競争は激しく、関税分を簡単に価格に転嫁できないという業界の事情もある。 

 トランプ関税の、この1年余を見ると、その内容は変化している。国や品目によって税率が変わったり、新しい関税が追加されたりと、一貫性が感じられず、司法からは一部の関税は違法と認定されることもあった。 

「結果的に今も鉄鋼アルミにかかる関税は非常に大きくのしかかっており、年間1000億円以上の影響を受けます。ですから、今年も昨年以上に関税分が(負担として)効いてくる分もあって、さらに負担が増えているという状況です」 

 関税負担によるコスト増は2025年度より2026年度のほうがさらに大きく影響しそうな状況。 

 こうした厳しい環境の中で、どう活路を切り開いていくかという課題である。

 

慌てず、騒がずに中長期的な成長に向けて

 

 今吉氏は前述の通り、2025年4月に社長を前任の小川啓之氏(1961年3月生まれ、現会長)から受け継ぎ、CEOも兼任。その今吉氏に経営トップとして、どのような言葉を社内の投げかけ、????咤激励しているのかを問うと─。 

「まず、3年間の中長期経営計画(2025年度から2027年度まで)をアナウンスした最初の1年でしたので、それを着実に実行していこうというのが基本的なメッセージですね」 

 今吉氏は、経理・経営企画畑を歩んできた人らしく、中長期経営計画の着実な実行が大事と語り、次のように述べる。 

「建機業界は需要の変動のかなり大きい業界でもあります。需給関係が変わり、需要の上がり下がりは当たり前のように起こり得ます。ですから、まずはその変動に一喜一憂しないようにしていく。ただ、そうは言っても建機産業は長期的には成長しますので、それに向けて中長期的な取り組みをしっかりやっていくと。同時に、足元もしっかり固めるということです」 

 さらに、トランプ関税についても、「今回の関税については従来とは異なる外部環境の変化ではありますが、慌てず、騒がず、中長期的な成長に向けて、やるべきことをやっていこうという姿勢で動いています。関税そのものは避けられないのですが、自助努力できる部分は、しっかりやっていきます」と語る。 

 慌てず、騒がず、中長期的な成長に向けて、やるべき事をやっていくという基本スタンス。

 

『志』を持って『挑戦』していく

 

 同社の中長期経営計画は、世界的な政治・経済の変化、技術の進化への対応を反映し、激変する環境の中を生き抜くキーワードとして、〝Driving value with ambition〟(ドライビング・バリュ・ウィズ・アンビション)を掲げる。日本語訳では、『価値創造への挑戦』としている。 

「アンビションを日本語では、挑戦と言っていますけど、志を持ってということなんですね」 

 明治初期、札幌農学校(現北海道大学)に教師として、米国から赴任していたクラーク博士が仕事を終えて帰国する際に、見送りに来た学生たちに送った〝Boys,be ambitious!〟(少年よ大志を抱け!)という言葉がある。札幌農学校からは、内村鑑三、新渡戸稲造など、内外で活躍した人材が輩出された。 

「ええ、そのボーイズ・ビー・アンビシャスのアンビションなんです。これは、われわれの会社の創立100周年(2021年)を機に、アンビションを取り上げたんです」 

 100周年以前のコマツでは、坂根正弘社長時代(2001年から2007年まで)に、『コマツウェイ』を制定している(2006年)。『コマツウェイ』では、自分たちの存在意義について、『ものづくりと技術の革新で新たな価値を創り、人、社会、地球が共に栄える未来を切り拓く』としている。 

〝ものづくりと技術の革新〟の精神は、創業以来100年余、同社が大切に磨き上げてきた経営の中核となるもの。 

 坂根氏が社長に就任した時期(2001年度)は創業以来初の営業赤字で苦境に立たされていた。経営陣は構造改革を断行し、2003年3月期、赤字から営業黒字への転換に成功した。そうした苦境を経験した後、今一度、自分たちの存在意義と社会的使命を認識しようと、『コマツウェイ』は制定された。 

 今、ウクライナ戦争や中東地域での戦争・紛争に終わりが見えず、先行き不透明感が続く。そうした中で、海外の取引先や顧客からも、「もっと分かるような形で、コマツの存在意義や価値観を訴えるようなものが欲しい」という声が上がっていた。 

 先述のように、今吉氏は中長期経営計画の中で〝Driving value with ambition〟を掲げ、4つの価値観(『挑戦する』、『やり抜く』、『共に創る』、『誠実に取り組む』)を言語化している。 

「5年前の創立100周年の時、社内でディスカッションをして、わたしたちが新たに決めたというよりは、それまでコマツが大事にしてきたものの考え方を言語化したということです。そこで、存在意義と価値観を言葉として決めました」 

 今吉氏は、「全体としては、そのドライビングバリュー価値をアンビションのスピリットを持って価値創造しようということを訴えています」と言い、次のように続ける。 

「具体的には、こういう時代ですので、いろいろな変革にどんどんチャレンジしてほしいと。チャレンジというと、無理なものに挑むように受け止められるかもしれませんが、われわれとしては、もっともっと高い志を持って変革することが大事だと。それに基づいた、いろいろな開発や、重点活動はすべてそのマインドでやってほしいということを言っています」

 

「企業価値は資本市場の合計金額だけではない」

 

 要は、価値観が多様化し、まさに混沌としている状況をどう生き抜くかということであり、経営の基本軸をどこに置くかということである。 

「やはり、われわれが常に強調しているのは、坂根の頃から言っていますけど、コマツの場合、企業価値というのは一体何だということ。企業価値というのは、資本市場の合計金額ではないよと。全てのステークホルダーからいただく信頼度の相場だということをずっと言い続けています。わたしもそれを本当に信じているし、大事なことだと思っています」 

 では、中長期視点で戦略を構築しながら、当座の課題にどう対応していくか─。

 

当座の課題にはどう対応するか

 

 コマツの株式時価総額は5兆8881億円強(6月26日時点)。市場の評価を見るPER(株価収益率)は17.93倍。このPERは、株価の割安・割高を判断する指標とされるが、一般的には15倍が一つの目安となっている。その意味では、現時点で市場はコマツ株を評価しているということ。 

 また、PBR(株価純資産倍率)は1.62倍という水準。PBRとは株価が1株当たり純資産の何倍であるかを示す数値。PBR1倍は、株価と企業の解散価値が同じ水準にあることを示す。つまりPBR1倍割れは、会社を解散したほうがいいという状況を示す。 

 そして、その企業の収益力を示すROE(自己資本利益率)は11.26%。ひと頃、ROEは8%以上が高収益企業の一つの指標であったが、最近では10%以上とされることが多い。コマツの場合、一定の収益力を示していると言える。 

 業績の具体的数値を見ると、2026年3月期の売上高は4兆1327億円強(前期は4兆1043億円強)で、0.7%の増収。営業利益は5673億円強(同6571億円強)で13・7%減と、増収減益決算となった。2027年3月期決算は、売上高約4兆1900億円、営業利益約5300億円という見通しで、若干の増収を見込みながらも、利益面では減益が見込まれる。 

 今後もトランプ関税が続き、ウクライナ戦争や不安定な中東情勢なども絡む中で、コストアップ分の価格転嫁がどれくらい実現するかが一つのカギとなる。 

 経営環境が流動的で厳しいのは、コマツもライバル企業も同じ。その中でコマツの持つ強さとは何なのか─。 

「キャタピラーさんとの比較という意味では難しいのですが、ほぼ同じようなオペレーションでグローバル展開をしているし、代理店網を通じて販売をしているという意味でも一緒です。鉱山関係のビジネスで言うと、(売上規模の)大きさはほぼ一緒ぐらいですね。一般建機のほうで言うと、まだまだキャタピラーさんのほうが過去からシェアも高いですね」

 

自分たちの強みをどう発揮するか

 

 テクノロジー開発の競争も激しさを増すが、その技術面ではどうか? 

 同社は、最先端テクノロジーを駆使した建機を開発してきた歴史を持つ。例えば、2001年から日本向け機種に標準搭載した『Komtrax(コムトラックス)』がそれだ。GPS(衛星測位システム)を活用し、建設機械の情報を遠隔で確認するシステム。機械の稼働状況や警告情報を収集し、顧客の稼働管理、メンテナンス(保守管理)をサポートする。 

 2008年には、超大型のダンプトラックの『無人運行システム』を開発・販売し、世界の先陣を切ってきた。 

「無人ダンプは業界に先駆けてやってきました。もちろんキャタピラーさんも追い付いてきて、今、互角にやっています。国内でスタートさせた『スマートコンストラクション』という一般建機の新しいソリューションビジネスも、われわれが業界に先駆けてやろうとしています」 

 激しい競争の世界、「他社さんも製品開発から生産販売まで、どんどん追い付いてきていますので、先進的なものを大事にしていきたい」と今吉氏は語る。

 

AI化の流れの中で建機の『SDV化』を推進

 

 昨今は生成AI(人工知能)が全産業に取り入れられるようになった。人々の生き方・働き方に大きな変化をもたらそうとしている。このAIにはどう対応していくのか。 

「AIの技術自体は我々のような建機の世界でも全ての領域に入ってきます。例えば、開発や生産からバックオフィス、それから販売サービスといった領域にまで当然のように入ってきていますし、我々も様々な領域における取り組みで、AIの導入をどんどん進めています」 

 今吉氏はAI取り込みの進捗をこう説明しながら、これからの建機事業の方向性について次のように語る。 

「具体的に言うと、米・電気自動車(EV)のテスラの車両を思い浮かべていただければいいと思います。テスラのEVは『SDV(ソフトウエア定義車両)』と言われています。車両というハードではなくソフトウエアの価値を更新していくことで車両自体の価値が上がる車両を指します。この自動車業界におけるテスラのような発想が建機にも必要になってきているのです。そして実際に建機業界もSDV化の流れになってきていますので、当社もSDV型の建機の開発に取り組んでいます」 

 SDVの開発については、同社は米シリコンバレーの企業と提携して取り組んでいる。建機全体がSDV化の傾向にあるとして、同社も積極的にSDV化の研究開発を進める考えだ。

 

ソリューションパートナーとして

 

 今吉氏は19963年(昭和38年)11月生まれの62歳。鹿児島県立鶴丸高校から東京大学法学部に進学し、1987年(昭和62年)、小松製作所(コマツ)に入社。「日本の産業として、メーカーの仕事は重要だと思って」というのが入社の動機。 

 工場勤務を希望して、最初に配属されたのが、同社発祥の地で石川県小松市にある粟津工場で経理課に配属となった。 

 OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で経理を学び、自らも本を読むなどして熱心に仕事に取り組んだ。当時は、国内売上が海外より大きく、売上高自体も1兆円に届いていない時代で、「国際化が始まった頃でした」と今吉氏は当時を述懐する。 

 同社は1960年代に米国に現地事務所を開設し、1970年にはコマツアメリカを設立。1985年には現地生産を開始した。その後、90年代半ばにはドイツの建機会社を買収するなど、経営のグローバル化を進めてきた。 

 粟津工場勤務4年の後、本社配属となり、7年間にわたり本社業務に従事。この間、管理部門において予算管理や損益管理を担当した。その後、米国勤務となるが、渡米前にCPA(公認会計士、certified public accountant)の資格を取得。 

 米国勤務の6年間の仕事は主に資金調達をどう進めるかであった。その後、6年の中国勤務も経験。同社は1960年代から中国市場に進出し、事業は約70年に及ぶ。国際情勢が複雑さを増す中、グローバル経営の真価が問われるのはこれからだ。 

 クロスソーシング(相互供給)の進化─。国内外に計69の生産拠点を持ち、取引先は150カ国以上となる今、このクロスソーシングは非常に重要な役割を担うことになる。クロスソーシング体制とは、国内外の69の生産拠点を統括し、開発から生産、販売、アフターサービスまでのサプライチェーン全体を一元管理するもの。コマツの経営の特徴はこのクロスソーシングにあると言っていい。 

 例えば、米国市場で見ると、米国で販売する建機の半分は米国で生産するが、残りの半分は日本やタイなどから供給を受けている。経営を取り巻く環境が不安定な中、最適の相互供給を果たすべく、「柔軟に対応していきたい」とする今吉氏。 

「現在の中計では安全で生産性の高いクリーンな現場を実現するソリューションパートナー」という、ありたい姿を掲げています」 

 モノだけでなくコトも含めて、つまり、ハードとソフトをうまく組み合わせて、「いかにお客様に価値を提供するかが大事」という今吉氏の経営観である。

ヤマトホールディングス会長・長尾裕の「社会課題解決につながるサステナビリティ事業の開拓を!」