
半導体製造装置メーカーから様々なリクエストを受けて
─ 米国・イスラエルによるイラン攻撃を受けて、石油が高騰している他、石油製品であるナフサの流通に目詰まりが起きています。中興化成工業への影響はどうですか。
庄野 主原料に関しては、あまり影響は出ていません。ただ、製造の際に使う副原料、加工の時に使う補助材料、燃料といった部分に若干の影響が出ているという状況です。
─ 原材料高騰を受けて、製品価格への転嫁はやらざるを得ない状況ですか。
庄野 やらざるを得ません。ただ、他社のような石油メインの材料のように不足しているということはありません。そして、半導体製造装置の材料としての用途が当社の製品は最も多いんです。
半導体は今、「スーパーサイクル」(中長期的に急騰が継続する時期)とまで言っていいかはわかりませんが、上昇基調にありますから、当社に対しても、製造装置メーカーさんから様々なリクエストが来ています。それに対しては、半導体市況がよくない時期に原料のストックを蓄積していたこともあり、ある程度ご安心いただけています。
─ 確かに半導体の動きは活発ですね。
庄野 台湾のTSMCは1人勝ちと言われていますが、韓国のサムスンにしても、日本のキオクシアホールディングスにしても、自社の強みをかなり磨いてきていますから、必ずしもTSMC一極集中ではありません。
我々は、そうした企業に直接製品を出すのではなく、製造装置の基幹部品をつくっています。特に半導体製造の前工程の中に洗浄装置があります。今、ウエハーがどんどんデリケートになっていますから、何度も洗浄する必要があり、様々な薬液を使っていきます。
その薬液は強いものも使われますから、その強さによって装置自体がダメージを受けてはいけませんが、それに耐えられる装置の部材は、我々が手掛けているフッ素樹脂しかありません。
─ フッ素樹脂は、その強さに特徴があると。
庄野 そうです。あらゆるアタックに強いのがフッ素樹脂です。洗浄装置メーカーさんは、装置をつくり、デザインもされますが、フッ素樹脂を加工するノウハウはお持ちではありません。ですから、我々は図面をいただき、それに合わせて部材をつくるという連携が必要です。
中小の製造業が存続するための「核」に
─ 中興化成にはライバルはいるんですか。
庄野 います。競っているのは日本でいうと当社を入れて3、4社というところでしょうか。
─ その中で中興化成の持つ強みは?
庄野 私どもは「デパート」のように様々なフッ素樹脂製品をつくっています。これはサイクルのある半導体に振られにくい、安定的な事業構造につながっています。
大事にしているのはチャレンジを忘れてはいけないということです。科学は未知へのチャレンジ、技術は不可能へのチャレンジです。そのスピリットが大事です。我々はチャレンジをする日本の人たちと一緒にやっていきたいと考えていますし、戦後、日本企業がチャレンジしてきた根を絶やさないようにしなければいけません。
そうした思いからやっていかなければいけないと思っているのが、事業承継の問題です。昭和20年代から、場合によっては40年代にかけて創業した、日本の産業を下支えしてきた中小規模の企業が多くありますが、そこのオーナーさんが70代、80代に差し掛かっています。そうした企業のうち、従業員が20人から200人くらいの会社と我々が一緒になって、存続するだけでなく成長するための「核」になりたいというのが私の目標でありチャレンジなんです。
─ 実際に、そうした事例は出てきているんですか。
庄野 1社、テストケースとして兵庫県姫路市にある鉄工所をグループ化しました。皆さんから「なぜ?」と言われましたが、金属という素材の加工を手掛けていますから、親和性があります。そして技術的にも非常に優秀で、従業員が20~30人程度です。しかも、お客様が我々と同じ半導体製造装置メーカーなんです。
─ 顧客層が重なっているわけですね。
庄野 そうです。我々と一緒にやることによって、少なくとも存続はしますし、さらなる成長を目指すこともできます。
─ 日本企業の潜在力発揮につながる取り組みですね。
庄野 ええ。もちろん、我々の人的資源にも限りがありますから、前線を伸ばし過ぎないようにしなければいけません。そして「PMI」(買収後の統合作業)についても、担当者と一緒に先方と同じ目線でやるようにしています。
─ その会社のオーナーとはどんな対話をしてきましたか。
庄野 規模は小ぶりながら、評価の高い会社でしたから、他に2、3社が手を挙げていたようですが、直接色々とお話をする中で、我々を選んでくれました。引き続き、そのオーナーに社長を続けてもらうことなど我々の思いを共有させてもらい、我々の会社も全部見てもらいました。今後の人材獲得も、我々と一緒になった方がやりやすいだろうと思います。
振り返れば、私の父は福岡県で小さな造り醤油屋を経営していました。それを昭和40年頃、同じくらいの規模のメーカーが統合し、今も存続しています。父が当時言っていたのは、「醤油の上工程はほぼ一緒なので統合メリットの下で、味付けは各醤油屋がやればいい」ということでした。原料を集中購買するなど、コスト削減ができ、事業を継続できたわけです。
全ての企業が一緒になればいいというわけではありませんが、1つの道だと思います。もちろん、美しいことばかりではなく、PMIでは苦労することもあると思います。先日、その鉄工所の従業員の方々に話をしたのですが、「みんなで同じゴールを設定してやっていこう」と伝えました。2030年のあるべき姿を描いて、そこからバックキャストして物事を考えようと。
─ 全産業的に人手不足が課題ですが、中興化成の現状は?
庄野 お陰様で離職率が3%程度と低く、定着率が非常に高いんです。
長崎県松浦市が製造の拠点なのですが、地元では高校を卒業して中興化成に入ると、社員は親に自慢できるといいます。これは非常に大きいですね。
また、環境づくりも意識しています。現在、新工場を建設中ですが、それに合わせて新しい社員寮をつくりました。コンビニエンスストアに近く、敷地内にバスケットコートやゴルフの練習レンジを設置、各部屋で動画配信サービスを使える環境もあります。しかも、立地が地元の中高生の通学路にあり、バスケットコートは中高生に解放しています。
─ この狙いは何ですか。
庄野 将来への〝種まき〟です。彼らの記憶に「あのバスケットコートにお世話になったな」ということが残れば、その中から当社に入ろうという子も出てくるかもしれませんから。
日本は「気」の文化
─ 改めて、庄野さんは日本の強さをどう考えますか。
庄野 日本は「気」の文化だと思います。「気が済む」、「気に入った」、「気に入らない」など外国語には訳せない「気」で始まる言葉が多いんです。難訳語というのは、その国の文化だと思うんです。日本独自の心の引っかかり、情緒性を競争力にすることが、今後ますます大事だと思います。
当社は08年の北京オリンピックのメインスタジアムとなった「鳥の巣」(北京国家体育場)の天井の膜材を手掛けました。その交渉の時の話を思い出します。当時は米国とドイツの企業と競っていたんですが、私はその時「オリンピックの開会式に納品が間に合わなかったら、他社は遅延損害金を支払うだろうけれども、我々の工場長は責任を取って海に飛び込むだろう」と言ったんです。
それを聞いて、中国の人たちは大笑いをして「そうだろうな」と言いました。迷惑をかけた時、お金を払うだけでは済まないのが日本人だと。そうして「オリンピックみたいな大事なイベントを任せられるのは日本、中興化成しかいない」と言って契約できたのです。
ただオチもあって、中国人は「3社の中で一番安くしろ」というわけです。「それは任せたとは言わないだろう」と思わず笑ってしまいました(笑)。笑い合って交渉できたのはよかったですね。
─ 日本に対する信頼を表すエピソードですね。
庄野 先日、米国の原料メーカーの方が来て、いろいろな話をしたのですが、私は「原料メーカーが、最高の原料という〝食材〟をつくっても、加工という〝調理場〟が汚れていたら終わりですよ」と言いました。加工は日本に任せなさい、最高の調理場で調理をするからと伝えたのです。我々だけでなく、これは日本の産業界に共通する強さだと思います。
会社の業績が上がれば社員に「分け前」
─ 最近、庄野さんが社内に訴えていることはありますか。
庄野 今年から、新たなキャッチフレーズとして「高機能ロマンティック樹脂」を掲げています。これまでフッ素樹脂についてお話をしてきましたが、実は我々はフッ素樹脂にこだわる必要はないんです。
フッ素樹脂には溶けない、熱に強いという特徴がありますが、裏返せば非常に加工がしにくいということです。そうした素材を手掛けてきた経験を生かして、他の難加工、加工が難しい、ロマンを感じさせる樹脂をどんどんやっていこうということを言っています。
例えば「PEEK」というスーパーエンジニアリングプラスチックに分類されるプラスチックがありますが、これはフッ素樹脂以上に熱に強く、硬いのですが、これも加工が難しい素材です。こうしたものを加工する技術を開発しています。
─ 将来に向けた布石を打ち続けているわけですね。
庄野 やはり、企業は上げた利益を従業員や設備に投資して、次のドライビングフォースを生み出すことが大事です。
当社は2030年までのターゲットラインを引いており、そのために利益、投資を含めた計画を立てています。その中で計画以上の数字が出た場合、上場企業であれば配当を増やしたりすると思いますが、当社では今年から「ディビデンド」(dividend=配当、分け前)という名前で従業員に分配しています。ターゲットを上回った分はみんなで分けようということです。
夏、冬の賞与はこれまでの満額くらいの水準で固定化し、全社とビジネスユニットの業績を超過達成した内の一定分を従業員に還元します。今後、更にメッシュを細かくするなど、やり方は適宜変えていこうとしています。
─ 従業員に対する評価は含まれるんですか。
庄野 ディビデンドには含みません。個人評価は昇格や昇給の方に集中させました。社内ではいろいろな議論がありましたが、ディビデンドはあくまで、組織の分け前としています。
この制度も、様々な議論を重ねた結果導入しましたが、人事というのは納得性との戦いです。大多数を納得させ、いかに「腹落ち」させるかの勝負です。
私は社長として経営する中で、経営というのは「片思い」だと感じています。「こうしたら、社員のみんなは喜ぶんじゃないか」と思っても、みんなの反応が悪いということがあるかもしれません。
例えば、「バースデイギフト制度」といって、社員のご家族の誕生日に日頃の感謝を込めて、お米またはお花のギフトを贈っています。これによって、社員のやる気を引き出せればという思いですが、こうした制度も「片思い」かもしれません。様々な施策を講じる時も、決して独りよがりにならないように、常にモニタリングをしています。