
ある東北の都市でお店に入った際「ドアをきちんと閉めてくださいね」と声を掛けられた。理由を聞くと「朝からこの辺りで数件の熊の目撃情報があるんです」とのことだった。半信半疑でネットを調べてみると、今年の熊の出没件数の多さに驚かされた。
熊の出没増加の背景として、人間と野生動物の生活圏を隔てていた里山の緩衝機能の低下が指摘されている。
人口減少によって地域コミュニティーは縮小し、里山や山林を維持・管理する担い手も減った。長い時間をかけて築かれてきた人間と熊との距離感が、ここ数年で急速に変化している。
人間とAIの関係もまた、大きな転換点を迎えようとしている。
最近話題となっている「ミュトス」は、システムの脆弱性を突く能力だけでなく、人間から細かな指示を受けなくても自律的に判断し、行動するエージェントとして設計されている。
これまでのAIは道具として人間の指示に従う存在だったが、自律性の高まりによって、確実に両者の関係性は大きな転換点を迎えている。
最大の懸念は、人間による制御が十分に及ばなくなる可能性が高まっていることだ。
実際、最先端の開発者の間では、AI開発のスピードを意図的に緩めるべきだとか、国際的に一時停止する枠組みを作るべきだとの声も上がり始めている。日本ではAIに関する議論になると、まず倫理などのリスクや規制の話題が前面に出る。
しかし、これでよいのだろうか。
世界を見ると、AIの利用や投資は急速に拡大している。企業経営から研究開発、教育、医療に至るまで、AIを前提とした競争環境が形成されている。株式市場では「AIにあらずば株式にあらず」とまで言われるほど、AI関連企業への期待が集中している。
一方で、日本のAI利用率は主要国と比べて依然として低い水準に留まる。リスクばかりを見て足踏みしている間に、競争力そのものを失うリスクが顕在化している。
もちろんAIの倫理面のリスクを軽視するべきではないし、適切な対応が急がれるべきだ。しかし、これからは「利用するリスク」と同時に「利用しないリスク」にも目を向ける必要がある。技術は使い方次第で脅威にも解決策にもなるからだ。
動画共有サイトでは、世界でAIを搭載したロボットがイノシシを自動的に検知し、追い払う実証実験の映像を見ることができる。もし人間と熊の共存が難しくなっているのなら、そこに技術の力を活用すれば新たな関係性を築けるはずだ。
人口減少が進む日本では、人手で解決できる課題はますます限られていく。だからこそAIをはじめとする新しい技術を積極的に活用しなければならない。日本には、まだまだできることがある。