三井住友海上火災保険社長・海山裕が語る「合併でどんな会社を目指すか?」

「会社を変えるヒントが現場にはあると思います」─こう話すのは三井住友海上火災保険社長の海山裕氏。海山氏は2027年4月のあいおいニッセイ同和損害保険との合併新会社の社長就任も内定している。合併に向けて「知る」、「認める」、「リスペクトする」をキーワードに対話を進める。「両社の強みを掛け合わせて、新たな価値提供をしていく」と話す海山氏が目指すものとは何か─。

 イラン問題など地政学リスクがある中で

 ─ 中東の紛争など地政学リスクの影響を含め、足元の経営環境をどう見ていますか。

 海山 地政学リスク、あるいは自然災害の激甚化・頻発化もあり、損害保険業界が置かれた事業環境は非常に不確実な状況だと考えています。

 その中で、損保事業に対する社会からの期待、我々が果たすべき役割や社会課題を解決するソリューション提供といった役割は、間違いなく高まっているのだろうという認識を強く持っています。

 ─ イラン問題ではホルムズ海峡封鎖で船舶保険料が上昇する事態にもなりました。

 海山 イラン問題では、船舶がホルムズ海峡を通れなくなる中で、おっしゃる通り、戦争危険リスクについて保険提供にご懸念の声がありましたが、英ロイズを中心とした再保険の手配をしっかり行い、補償の提供は滞りなくできたのではないかと考えています。

 価格は確かに高騰していますが、最も大事なのは安心・安全に航行いただけることですから、補償の提供はしっかり行ってきたという自負もあります。今後の先行きは不透明ですが、引き続き動向を注視しながら、安定的な補償の提供を行っていきたいと思います。

 ─ エネルギー価格を始め、諸物価の高騰が続いていますが、この影響は?

 海山 保険会社の経営へのインパクトとして最も注意しなければいけないのが、エネルギーや原材料価格の高騰です。これが高止まりするとボディブローのように効いてきます。

 損害保険の契約は主に1年で、保険料を先にいただきますが、物価高騰に保険料が追いついていかなくなるということもあります。実際、昨年は自動車保険が赤字でしたから、引き続き自動車保険、火災保険の収支の動向を注視しながら進めていきたいと思います。

 ─ 物価上昇によって、一般消費者にとっても保険料の値上がりという形で影響が及びます。契約者とはどのようにコミュニケーションしていきますか。

 海山 特に自動車保険では、当社のみならず他社さんも毎年のように料率改定があり、報道では他社が年に複数回の料率改定を行っているということも認識しています。

 ただ、私どもとしては、短期間で料率改定をすることがご契約者、お客様にとって本当に望ましいかどうかという問題意識があります。

 その観点から、料率改定は適時適切に、プロアクティブ(能動的)、安定的であることに留意しながら進めていきたいと考えています。同時に、料率の引き上げだけでなく、事故データを活用して事故が起きないような仕組みをお客様に提供していかなければならないという思いです。

 ─ 保険料を引き上げるだけでなく、そこに付加価値を付けていくと。

 海山 ええ。例えば我々はグループのあいおいニッセイ同和損害保険(AD)との合併を控えていますが、ADの「テレマティクス保険」(通信技術を活用して取得した顧客の走行データをもとに保険料割引・安全運転アドバイス等事故の未然防止につながる機能・サービスを提供する保険)では約15%の事故の削減、事故解決に要する期間が2週間ほど短縮されるという効果が明らかになっています。

 そこに三井住友海上火災保険(MS)が持っている事故データや防災・減災のノウハウを掛け合わせて、安定的な料率の提供などに注力していきたいと思います。

 ─ 合併新会社になることで、より両社の強みを活かせるということですね。

 海山 そうです。ADとの合併による新会社のメリットとして、保険や事故データだけでなく、リスクヘッジに関するノウハウやスキルなど、両社の強みを掛け合わせて新たな提供価値に変えていくことができることが挙げられます。

 それによって、不確実な時代だからこそ考えられる多様なリスクや課題の解決に活かしていけるということを、私自身楽しみにしています。

 今、全国で挨拶回りをしていますが、私が「ワクワク感を持って合併を進めていきます」という話をすると、社員たちからは今申し上げた、両社の強みを掛け合わせて、地域課題の解決に貢献していきたいという声が多く寄せられます。

 2027年4月の合併に向けて

 ─ 海山さんは26年4月にMSの社長に就任したことに加え、27年には合併新会社・三井住友海上あいおい損害保険社長への就任も内定していますね。改めて抱負を聞かせて下さい。

 海山 26年4月にMSの社長に就任したばかりですが、5月20日には合併新会社の社長に内定しました。27年4月の合併まで1年を切っていますから、私としてはMSの社長、合併新会社の社長という色分けは考えておらず、合併新会社がどれだけいい会社になれるのか、まずはそこを念頭に置いています。

 その中で、ADの新納啓介社長と一枚岩で、いい会社をつくっていくという思い、ベクトルを合わせることが大事だと考えています。

 実際に4月3日、MSの全国部支店長会議があったのですが、そこに新納社長にもお越しいただいて、2人で壇上に上がり、「二人三脚でいい会社をつくっていきます」という話をして握手をしました。

 こうすることで各部長や支店長が合併に向けて、いい会社をつくっていかなければいけないという決意にもつながると思います。4月7日には、私がADの本社に行き、同じ形で話をさせていただきました。

 ─ 合併に向け、新納さんとはどんな会話をしていますか。

 海山 新納社長とも話していて、社員にも伝えているのは、合併に向けた大事なキーワードは「知る」「認める」「リスペクトする」ということです。

 やはり、お互い企業文化や仕事の進め方が違うこともあったりしますが、どちらのやり方が正しいとか優れているとかではなく、大事なのは新会社を主語に、何が新会社にとってベストなのか、何がお客様にとって最適なのかを考えていこうということを、両社長から全社員に向けて発信しています。

 全国での挨拶回りの合間を縫って支店や支社に立ち寄り、社員の話を聞くようにしていますが、「知る」、「認める」、「リスペクトする」はかなり浸透しつつあります。

 私だけでなく社員1人ひとりが合併に向けて、それを理解して、行動に移すということができつつありますから、しっかりやり遂げたいという決意を持っています。

 統合に向けたキーワードは何か?

 ─ 10年の経営統合以来、「機能別再編」という言葉で両社の様々な機能を統一するなど、徐々に両社は近づきつつありましたが、合併にはまた違うハードルがありますか。

 海山 おっしゃる通り、2社は持ち株会社の下で15年間過ごしてきた中で、システムや商品、事故対応など「機能別再編」という形でお互いのやり方を擦り合わせてきました。全く知らない会社同士が合併するわけではありませんから、現時点では大きな問題や課題は発生していません。

 各地域にそれぞれの支店があるわけですが、基本は同じビルに入る、入り切らない場合には新たなビルに入るということが各地域で決まっています。

 現場サイドの交流が始まる中で、先ほどの「知る」、「認める」、「リスペクトする」をキーワードに、そして新会社を主語にという対話が進んでいますから、きっといい企業文化が生まれると期待しています。

 ─ 2社の合併で、売上高にあたる正味収入保険料では国内首位となりますが、このことにはどんな意識を持ちますか。

 海山 数字だけの足し算で正味収入保険料ナンバーワンということを私は言っていませんし、社員にもそういう意識は伝えていません。大事なのは、グループの 2030年度に向けて目指すべき姿「お客さまから最も選ばれる保険・金融グループ」の実現に向けて、全社員が取り組んでいくことです。

 どの領域でナンバーワンになるのかを各々の視点で考えてもらうため、「マーケットナンバーワン戦略」を掲げ、当社の営業推進部門が主体となって発信をしています。

 地域社会への貢献でナンバーワンになることもあるでしょうし、担当企業、担当業種の中で最も評価いただけるナンバーワンもあるでしょう。人や組織それぞれで、いろいろなナンバーワンの考え方、やり方があります。

 それを各地域、各支店で突き詰めて考えています。これを全国で積み重ねていけば、MSの強み、ADの強みが掛け合わさった新たな提供価値を生み出すことができ、その結果、お客さまから最も選ばれる保険会社になる。

 利益も拡大し、企業ブランドや企業価値も向上していく、そして、拡大した利益を地域課題の解決や多様な保険引き受けに再投資していく。このサイクルをつくることができる会社が、持続的に成長できる会社になっていくのだろうと思います。

 「答えはいつも 現場にある」

 ─ この数年、損保業界では企業保険を巡る不祥事などもあり、業界全体として事業や代理店との関係の再構築など、変革が迫られています。国内損害保険事業をどう変えていこうと考えていますか。

 海山 業界にはおっしゃるような問題がありましたが、やはり代理店に過度に依存したビジネスモデルに課題があり、この1年、ビジネスモデルの変革に取り組んできました。

 一方で、代理店とは長年一緒にビジネスパートナーとして仕事をし、お客さまに価値提供をしてきたことは事実で、代理店ビジネスを大切にした取り組みや考え方は変わらないと思います。

 ただ、今はAI(人工知能)などデジタルを使って保険を選択するお客さまの層も若者を中心に増えています。そこに対して、当社は媒介型など新たな募集モデルを提供することで、さらにお客さまから選ばれる保険会社になっていく、代理店もデジタルを活用してお客さまによいサービスを提供していきます。

 一連の不祥事を受けて、代理店自身も募集品質の向上や、体制整備をしっかりやっていかなければいけないとお考えの経営者の方々も多くいますので、その取り組みを保険会社として支援していくことも重要です。お客さまや代理店と対話をしながら丁寧に進めていくことが大事だと考えています。

 ─ 企業向け保険では、企業側のリスクリテラシーを高めることも重要だと思いますが。

 海山 非常に重要です。不確実な時代の中でリスクも多様化しており、企業はリスクヘッジ、リスクマネジメントの能力をますます高めていかなければいけないと思います。

 欧米では「リスクマネージャー」が企業の中で保険の手配、リスクヘッジの手法を考えています。そうした体制づくりを支援するのも、我々の大きな役割なのだと考えています。

 ─ MSとAD、両社の掛け算で事業を強くしていくという意識がますます大事ですね。  

 海山 そうです。強みを掛け合わせて新しい価値提供をしていく。私も社員もワクワク感を持って、アイデアを考えてつくっていく。それが結果として社会課題の解決に貢献して、お客さまから最も選ばれる保険・金融グループになるというサイクルをつくっていくことが大事だと思います。

 ─ これまで仕事をしてきた中で大事にしてきた姿勢は?

 海山 常に現場目線を大切にする、答えはいつも現場にあるということです。

 今も、全国の挨拶回りの中で支店や支社、代理店の皆さんを含めて声を聞くようにしていますが、やはり会社を変えるヒントが現場にはあると思います。その姿勢は私の強みでもあると思いますし、これからも続けていきたいと思っています。 (聞き手 本誌・大浦 秀和)