
首相の高市早苗6月15~17日にフランス東部エビアンで開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)に出席し、「サミットデビュー」を果たした。米国とイランの戦闘により停滞したエネルギーの安定供給に向けた連携強化や、中国が輸出規制を強めるレアアース(希土類)など重要鉱物の共同備蓄構想を提起し一定の存在感を示した。ただ、国内では最終盤を迎えた特別国会での重要法案が山積しており、足元の経済は物価高と円安が続く。苦難の政権運営が続く。
同志国連携に奔走
「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といったG7が固く共有する基本的な価値や原則に基づき、力強いメッセージを世界に発信できた」。サミット閉会直後の17日、高市は満面の笑みで内外記者会見に臨んだ。
「いじわるな質問」を嫌い、記者会見を避けてきた高市。2月18日以来、実に4カ月ぶりだとなった会見で高市が笑みを絶やさなかったのは、今回の一連の外交で手応えを感じたために他ならない。
高市はサミット出席に先立ち、英国、イタリア両国を相次いで訪問した。英首相・スターマーとは14日にロンドンの首相府で会談したが、スターマーが高市の控室に用意したのが、高市が憧れた「鉄の女」サッチャーら歴代首相が、かつて執務室に使った部屋だった。
粋な計らいに高市は感激。「サッチャー首相の仕事ぶりに思いを馳せ、私自身も強い意志を持って必要な変革を成し遂げるとの決意を新たにした」。高市はこう振り返る。スターマーは8日後に辞任を表明したが、経済安全保障協力に関する日英共同宣言を発出し、安全保障分野での連携強化も確認。関係強化の礎を築いた。
イタリアでは女性政治家として気脈を通じるメローニ首相と経済安全保障分野での連携強化を確認した。メローニは3月、米国のイラン攻撃を批判し、トランプ米大統領の関係が冷え込んでいた。高市は米伊関係の「つなぎ役」を担ったと言える。国際的に影響力を広げる中国を念頭に同志連携を強めると共に、距離が広がる欧州とトランプ米政権の亀裂を防ごうと注力した。
今回のサミット出席を含む高市の欧州歴訪は13~18日の日程で行われた。その間、飛び込んできたのが米・イラン間の戦闘終結の合意というニュースだ。覚書では機雷撤去などを進め、30日以内にホルムズ海峡などペルシア湾の船舶航行を戦闘開始前の水準に戻すことも盛り込まれた。G7も呼応し、首脳声明でホルムズ海峡の安全な通行再開を支援する方針を掲げた。海峡封鎖が解ければ、原油高やナフサ不足といった政権の懸案が解消される可能性が高まる。
中国をけん制
このサミットで高市が力を注いだのは対中けん制だった。米大統領・トランプの訪中をはじめ、同志国が中国への接近を強める中、高市は中国による対日輸出規制を挙げ、「G7や同志国のサプライチェーン(供給網)に深刻な影響を与えかねない。深刻に懸念している」と批判した。この発言に中国は反発。中国外務省副報道局長・林剣は「派閥をつくり、対立をあおる意図がある」と反発した。
高市は7月1日からインドを訪問し、モディ首相と会談した。同志国連携を強化し、サプライチェーン構築など「脱中国」の姿勢を積極的に打ち出した高市について、政府高官は「首相の関心はもっぱら外交に向いていた」と明かす。だが、日中の緊張は依然として続く。今後、どう中国と向き合うのか。今のところ、強気の姿勢を崩さない高市だが、その着地点は見えない。
積極的な外交展開が目立った高市だが、経済財政への対応では調整を委ねる受け身の場面も目立った。
その典型が、2年限定の飲食料品の消費減税だ。17日の超党派の社会保障国民会議で議長を務める自民党税調会長・小野寺五典は2027年4月から税率を1%引き下げ、この1%分を、中低所得者を対象とする給付に充て「実質ゼロ」とする議長案を提示した。税率0%ができなかったのは、レジのシステム改修に最大10カ月から1年を要し、来春の統一地方選前の適用が間に合わないためだ。1%なら最大5~6カ月にとどまり、秋の臨時国会で法案を成立させれば来年4月適用が可能だ。
0%実現を「悲願」と強調してきた高市だが、小野寺との事前の打ち合わせでは0%に固執する姿勢は見せず、対応を委ねた。内外記者会見で議長案について「迅速性と十分性は確保してほしい」と一定の理解を示したが、「中間取りまとめに向けた調整の状況をよく見守りたい」と国民会議と距離を置いた。
利上げを黙認
日銀の政策金利の引き上げも「静観」した。2月の日銀総裁・植田和男との会談でも利上げに難色を示すなど一貫して日銀の利上げに慎重だった高市だが、今回、徹底抗戦は避けた。
高市が利上げに慎重だったのは、景気の減退を危惧したためだ。「責任ある積極財政」を掲げ、企業の収益や国民所得の上昇を図る高市の戦略も、日銀の利上げが長期金利の上昇を誘発して国債発行が難しくなれば、見通しは大きく狂う。
ところが日銀が利上げを見送る中でも長期金利は上昇した。5月18日には東京債券市場で債券価格は下落し、長期金利の指標である新発10年債の利回りが上昇。一時2.8%まで達し、1996年10月以来の高水準となった。この日、高市は補正予算編成を指示したが、この動きが日本の財政不安を高め、債券売りの圧力を強めたとみられる。首相官邸は危機感を強めた。
積極財政を掲げる高市政権の発足後、株式市場では株価は上昇し続け、6月18日には終値で初めて7万円を超える一方、円安、債券安が進んだ。加えて首相官邸を悩ませたのが物価高だ。
米国・イスラエルとイランの戦闘による中東情勢の混乱という「外的要因」も大きいが、日銀も物価安定目標の2%を超える上触れリスクを懸念し、利上げを志向した。円安・ドル高が進む中で米側も日銀による早期の利上げを求める声が強まった。
こうした状況を踏まえ、高市は日銀の利上げ判断を黙認し、日銀は16日の金融政策決定会合で4会合ぶりの政策金利の引き上げを決めた。1.0%程度の政策金利は現行の0.75%と同様に1995年9月以来の高水準となった。
高市はこれまで、与党への根回しを行わないまま衆院解散に踏み切るなど「トップダウン」の政治スタイルが時折、政権内の不協和音につながった。持論を封印するケースが目立ち始めた高市の「変化」について与党内では「柔軟さが出てきた」と評価する声もある。
ただ、ある自民党ベテラン議員は「消費減税や金利も思うようにならず、政策転換の責任を国民会議や日銀に押しつけたのではないか」と解説する。いずれにしても、高市の「変化」からは、シナリオ通りに進まない複雑な経済状況に対する政権の苦悩が透ける。
こうした中、政府は24日、2040年度までに半導体やAIなど戦略17分野に対し、総額370兆円超を投資する成長戦略を発表した。毎年度10兆円の追加投資を想定している。高市は「『強く豊かな日本』投資枠」も創設も表明し、各省庁の予算の概算要求の上限を設けない考えを示した。
日本経済の成長実現に向け、アクセルを踏み込んだ形だが、足元では依然として物価高、円安、債券安が進む。正念場をどう乗り越えるか。内閣支持率は相変わらず高水準を保っているものの、政権発足から8カ月が経過し、「成果」が求められる時期を迎えている。
7月17日の会期末が迫る特別国会の最重要法案となったのが、皇室典範改正案だ。皇族数の確保を巡り、衆参両院は6月10日、「立法府の総意」をとりまとめた。①女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持②旧宮家出身の男系男子を養子縁組で皇族とする─の2案を「了」とするとの内容で、これを受けて政府は皇室典範改正案を策定した。
このとりまとめに当たり、衆院議長の森英介の発言が養子縁組で皇族とした男子について「皇位継承権を持つことになる」と発言した。皇位継承のあり方については今回議論の対象外だったが、森の発言は「男系維持」を求める自民の党内世論を反映したものだが、「女系・女性天皇」を志向する立憲民主党などが反発した。皇室典範の改正は現行憲法下では初めてとなるが、「総意」とは言いがたい溝も生み出した。
続く試練
与党内の不協和音も表面化した。火種となったのが、日本維新の会がこだわる「副首都構想」関連法案だ。法案は大規模災害時に首都機能を代替する副首都を指定する内容だが、維新はこの法案の付則に、大阪市を廃止し、特別区を設置する「大阪都構想」の是非を問う住民投票の対象区域を府域全体に拡大できる規定を盛り込んだ。
構想を巡る市域対象の住民投票は過去2回否決されている。維新は来春の統一地方選に併せて行う3回目の住民投票の対象地域を広げ、賛成多数に持ち込む戦略を描いていた。
ところが都構想に反対してきた自民党大阪府連が猛反発した。府連幹部らはこの規定が「住民自治」を保障した憲法92条に抵触する疑いがあるとの批判し、自民の法案審査は滞った。事態の収拾を図るため、高市は6月22日、維新代表の吉村洋文と会談し、規定の削除を要請。吉村もしぶしぶ応じた。
会談直後、高市は記者団に「都構想を含めた副首都構想は国のレジリエンス(強じん性)を高め、東京圏以外に経済の核を作る極めて大きな意義を有するものだと考えており、高く評価する」と都構想を評価。吉村も高市が会談の中で都構想に「賛成」の意向を示したとアピールした。この高市の「都構想評価発言」に対し、府連内では「はしごを外された」と反発の声が上がった。
高市の維新重視の姿勢はこれまでも一貫しており、衆院議員定数削減では維新の主張に沿って比例代表のみを削減する方向で調整するよう自民党執行部に指示した。自民は選挙制度協議会で定数削減を含めた検討を行い、1年以内に結論が得られない場合は、比例代表定数を45削減する条項を盛り込んだ法案をまとめたが、自民内では異論もくすぶる。自民党内では路線が異なる維新への不信感もあり、国民民主党を加えた連立拡大論は高まりつつある。
高市自身の課題も浮き彫りになった。終盤国会では、週刊文春が報じた、高市の秘書が自民党総裁選で対立候補に対する中傷動画の作成をIT会社社長に依頼したとされる問題が焦点化した。真偽はともかく、野党の批判に油を注いだのは高市の対応だ。
当初、「文春の有料会員になろうとは思わず、確認できなかった」などと答弁。秘書と社長の音声データを示されてもあいまいな説明が続き、いらだった野党は追及を強めた。「最初から丁寧に答えていれば、この問題がここまで焦点化することはなかっただろう」。自民党幹部はこう漏らす。
高市には「いじわるな質問」を避けるばかりではなく、正面から向き合い、丹念に誤解を解く度量も求められている。数々の課題をどう乗り越えていくのか。高市の試練はこれからも続く。(敬称略)