スコープ社長・横山 繁のデジタル化時代の販促最前線は?

「地上戦は絶対に負けない。いまだにその自負はあります」と話すスコープ社長の横山繁氏。イトーヨーカドーやセブン‐イレブンが全国出店を加速した時期に、折込チラシ制作を担い、全国の輪転機の6~7割を押さえた第1創業期。その後、オフィス統合移転と働き方改革による第2創業期を経て、2024年にはパーパス「発想力と実現力で、未来からほめられる仕事を。」と3つのマテリアリティを掲げ、AI・DXサービス「ロボットマイケル」「エクスパイリー・マネジメント」「SCOOOPY」を軸とした第3創業期に入った。セールスプロモーションから総合企画会社へと進化する同社の現在地と戦略を聞いた。

 昔との対比で見えてくること

 ─ 社長就任から18年が経ちました。この間を振り返るとどのような変化を感じますか。

 横山 日々変化が激しいというのが率直な実感です。当社はお客さまがあっての商売ですから、世の中の変化はダイレクトに伝わってきます。リーマンショックもコロナ禍も経験し、日本全体の意識が大きく変わったと感じています。 

 一方で、1989年の創業当時は本当に「豊かな時代」でした。イトーヨーカドー様やセブン‐イレブン様が全国出店を一気に加速していた時期で、当社はその折込チラシをほぼ一手に担っていました。

 媒体としての折込チラシの力は非常に強く、競合の情報を取り合い、印刷所には「もう少しだけ待ってください」と頭を下げながら、最後の一秒まで原稿を詰める毎日でした。

 ─ 第1創業期のスコープを支えたのは、どのような強みだったのでしょうか。

 横山 創業来の強みは、「地上戦は絶対に負けない」という現場起点の姿勢です。大手総合代理店さんがテレビCMなどの〝空中戦〟で大きな花火を上げるとすれば、私たちは「花火が上がってからが本番」と考えてきました。

 実際の売場で、翌日のデイリー、ウィークリー、マンスリーの数字を見ながら、「明日できることはないか」「来週変えられることはないか」と、クライアントと一緒にPDCAを回し続ける。まず現場に行き、五感で感じて、数字で検証する。この「現場主義のDNA」が、第1創業期で徹底的に鍛えられました。

 ─ 当時のオフィスの雰囲気も、今とはずいぶん変わりましたか。

 横山 はい。一言でいえば「騒がしいオフィス」でした(笑)。こちらで怒鳴り声、あちらでお客さまに褒められている声、別のところでは問い合わせ対応の電話が鳴っている。その雑多な環境の中で、自分に必要な情報を取捨選択しながら集中して仕事をする。

 今のように欲しい情報だけが画面に並ぶ環境ではありませんでしたが、その分、社員一人ひとりの五感や第六感が鍛えられたように思います。

 第2創業期ネット社会とリアル社会の融合

 ─ その後、第2創業として大きな転換を図られました。このきっかけは何でしたか。

 横山 2018年が創業30周年の節目でしたが、その頃には折込チラシの部数は最盛期の感覚で半分ほどに減り、生活者の情報接点はSNSやアプリなどへ一気に広がっていました。

 創業者である父の座右の銘に「変わらずに『残る』ためには、変わらなければならない」という言葉があります。成功体験に頼るのではなく、変わり続ける社会の中で自らも変わり続けることが、会社の発展につながる。その精神をスローガンに掲げ、「第2創業」と位置付けたのが2018年です。

 東京都千代田区飯田橋へのオフィス統合移転と同時に、企業ビジョンやロゴなどのCIを全社員参加型プロジェクトで刷新しました。その際、社員から提案されたオフィスコンセプトが「BASE CAMP」です。

 安住の地ではなく、常に外へ出ていくための出発点としてのオフィス。社内にこもっていても新しい価値は生まれない、という発想です。

 ─ 働き方も大きく変えたのですね。

 横山 そうですね。専用デスクをなくしフリーアドレスにし、プロジェクトごとに部署横断で集まれるようにしました。PCはすべてノート型に、電話もスマートフォンに切り替え、場所に縛られない働き方を前提に設計し直しました。

 結果的に2020年のコロナ禍でリモートワークに一気に移行した際も、土台となる環境が整っていたことでスムーズに対応できたと感じています。

 同時に、社会全体が不安に包まれる中で、「#STAY HOPE」というメッセージを掲げ、外したマスクを一時保管できる抗菌ケース「マスクスタンド&マスクスリーブ」を開発しました。

 レストランや美容院、クリニックなどさまざまな現場で使っていただき、マナーとビジネスチャンスとコミュニケーションを兼ね備えたアイテムとしてご評価いただきましたが、根底にあったのは「生活者の不安を少しでも和らげたい」という想いです。

 ─ 社内コミュニケーションの面ではどうですか。

 横山 社内のコミュニケーションツールは紙やメールからビジネスSNSが中心になり、2021年にはWeb社内報も立ち上げました。

 一方で、創業以来大切にしてきた全体朝礼や企画情報会議など「顔を合わせる場」は、一度も止めていません。オンラインという形に変えながらも、絶やさずに続けてきました。

 私は、ビジネスマナーやコミュニケーションの本質は、デジタル化・オンライン化で変わらないと考えています。マナーとは、自分のありようや振る舞いを、相手がどう受け取るかを想像し、思いやること。

 これはリアルでもオンラインでも同じです。大事なのはツールではなく、「相手を思う心」をどう表現するか。その視点さえぶれなければ、ネット社会とリアル社会がどれだけ変化しても、ビジネスコミュニケーションの軸は失われないと思っています。

 第3創業期パーパスと3つのマテリアリティ

 ─ 2024年には、第3創業としてパーパスを定めました。その内容と背景を教えてくれませんか。

 横山 2024年6月、グループ全体でパーパス「発想力と実現力で、未来からほめられる仕事を。」を制定しました。経営陣だけで決めたのではなく、推進委員会や有志メンバーも交えて、かなり時間をかけて議論しました。

 私たちの仕事は、企業と生活者の「接点」をつくることです。その瞬間の売上や来店数だけでなく、10年後、20年後に誰かが「あの体験があったから今の自分がある」と振り返ってくれるような価値を生み出せているかどうか。

 未来から見たときに「よくやったね」と言ってもらえる仕事をしていきたい。その想いを言葉にしたのがこのパーパスです。

 ─ パーパスを具体的な行動に落とすために、マテリアリティ(重要課題)も策定されましたね。

 横山 はい。パーパスを「旗印」にするだけでなく、未来に向けて何に集中していくのかを定めるために、3つのマテリアリティを掲げました。

 1つ目が「廃棄物を減らし資源が巡る未来へ」です。食品ロスや販促物、パッケージや包装など、〝買い物〟や〝販促〟に紐づく廃棄物を減らし、資源として循環させ続ける未来を目指しています。

 2つ目が「誰もがワクワク暮らせる地域を日本中に」。企業や自治体、地域のプレイヤーと共に、地域の魅力を再編集し、新しい人やお金の流れを生み出すことで、地方創生や観光振興にも貢献していくテーマです。

 3つ目が「ウェルビーイングな社会を当たり前に」。誰もが自分らしく、心身ともに健やかに働き、暮らしていける状態を〝当たり前〟にしていく。そのために、学び方・働き方・生き方を応援し、それをまっとうできる環境を社会全体に広げていくことを掲げています。

 AIとDXで現場を変える

  ─ 第3創業期の中で、御社はAIやDXのサービスにも注力していますが、具体的にどういったものなのか説明してくれませんか。

 横山 3つあります。1つは「ロボットマイケル」というサービスです。これは「ウェルビーイングな社会を当たり前に。」というマテリアリティ(重要課題)とも直結しています。

 社員が行っているPC上の定型業務をソフトウェアロボットに置き換える次世代型RPAサービスです。単なるツール提供ではなく、「ロボットを派遣する」というコンセプトで、業務設計から導入、運用まで伴走するのが特徴です。

 受発注や在庫登録、マスターデータのメンテナンス、実績データの集計など、これまで人が黙々とこなしていた業務を、「ロボットマイケル」が24時間365日代行します。料金的には派遣社員1人を雇うのと同程度ですが、年中無休で、働いてくれる〝デジタル同僚〟のような存在です(笑)。

 ─ AIと人との関係が問われていますね。

 横山 そうですね。パーパスやマテリアリティを実現していくうえで、「人が本来やるべき仕事」に時間とエネルギーを振り向けることが極めて重要だと考えています。そのためには、定型業務をどれだけロボットに任せられるかが鍵になります。

 「ロボットマイケル」を導入する際は、お客さまの業務を一度すべて棚卸しし、頭の中にあるノウハウを可視化していきます。そのプロセスで、「人でなければできない仕事」と「ロボットに任せるべき仕事」が自然と浮かび上がってくる。

 結果として、社員は企画や判断、コミュニケーションといった、より価値の高い仕事に集中できるようになります。

 ─ 業務の棚卸しをして分別する作業は、地道な作業で結構な労力になりそうですね。

 横山 2つ目は「エクスパイリー・マネジメント」です。例えば食品スーパーなどで賞味・消費期限の近い商品を効率的に見つけ、値引きや販促対応を支援するアプリケーションです。いわば、食品ロス削減と現場の業務効率化を両立するソリューションです。

 従来はスタッフが自分の目と経験に頼って売場を回っていましたが、「エクスパイリー・マネジメント」を導入すると、有効期限が迫った商品をリストアップしてくれるので、無駄な見回り時間を減らし、的確に値引きや展開ができます。

 結果として、廃棄ロスが減り、利益率が改善される。これはまさに「廃棄物を減らし資源が巡る未来へ」というマテリアリティを象徴するサービスだと思っています。

 ─ 現場の負担軽減と、環境への配慮にもつながると。

 横山 はい。3つ目は「SCOOPY」です。これは生成AIを活用したAI売場診断サービスです。

 スコープが創業以来30年以上にわたり蓄積してきた 「売れる売場づくり」の膨大なノウハウと、Polaris.AIが持つ最新の画像認識技術・プロンプトエンジニアリング技術を融合することで、店舗空間を多角的に分析し、具体的な改善アクションまで提案するシステムの構築を実現しました。

 ユーザーは店舗の売場写真をアップロードし、簡単な質問に答えるだけで、POPのフォントサイズ、背景とのコントラスト、情報量が適切かを判定したりします。また、色彩の調和、ブランドカラーの使用率、売場のトーン&マナーまで評価し、改善につなげます。

 ─ わかりました。最後に今後の展望について聞かせてください。

 横山 第三創業期である現在、企業パーパスで宣言した「未来からほめられる仕事」を推進していきます。

 スコープという社名は万華鏡(カレイドスコープ)から来ているのですが、万華鏡は動かすと景色が変わりますよね。まさにこれからどんなコミュニティで自分たちが働いていきたいのか、自分たちで考えていこう、時代を自分たちで変えていこうという意味があります。

 ─ 時代の風景は自分たちで変えていくと。あくまでもわれわれが主体ですね

 横山 はい。今まではお客さんや世の中が主体でしたが、自分たちがどうしていきたいのかをまず意思表示して、社会全体を見て俯瞰的に判断していくと。

 その中で自分たちのアクションが「今現在正しい」かよりも、そのパーパスに従って成立しているのかを、日々検証して、未来に向かっていきたいと考えています。