『わたしの「対話人生」』国際社会経済研究所理事長・藤沢久美 株主総会に映る会社の器

今年6月、トヨタ自動車の株主総会に社外取締役として臨席し、改めて株主と会社の関係を考えた。

 本社内の複数会場と名古屋市内のホテルを合わせ、参加株主は総勢9千人を超えた。10時開始の総会に、朝5時過ぎから並ぶ人もおり、7時にはすでに長蛇の列ができていた。その列に豊田章男会長が立ち寄り、写真撮影やステッカーのプレゼントをしながら、30分ほど株主と交流した。

 もはや恒例行事のように語られる光景である。

 今回の総会では、3年ぶりに豊田会長が議長を務めた。4月に近健太氏が社長に就任し、この総会で新たに取締役に選任されたという節目でもあった。多くの企業の株主総会に見られる、予定調和的な儀式の場とは異なり、そこには株主と経営者が人間同士として向き合う空気があった。

 質問を受けた取締役たちも、用意された言葉を読むのではなく、自分の経験に裏打ちされた思いを語った。総会前の控室で確認されたのは、どれほど言葉を繕っても、自分の経験以上のことは出てこない、だから自分の言葉で語ろうということだった。

 今回、取締役を退任する佐藤恒治副会長の言葉も印象深かった。自動車産業の未来を切り拓く覚悟を語る中で、後継となる近社長について触れ、「豊田はクルマを運転するのが好きな人、私はクルマをつくるのが好きな人、そして近は、クルマをつくる人が好きな人」と表現した。

 経営が一人のカリスマによってではなく、チームとして受け継がれていることを実感する瞬間だった。

 そして、近社長は、リーダーの役割は決断と責任だと述べたうえで、自分はまだ会長のように責任を背負い切れる存在ではない、会長から責任を任せられるよう精進したいと率直に語った。株主から大きな拍手が起こると、豊田会長は「これは株主さんからの応援だよ」と近社長に言葉をかけた。

 外から見れば、会長や社長が経営のすべてを握っているように見えるかもしれない。しかし、トヨタは、チームで経営することに本気で向き合っている。

 株主総会も、会社を磨き、経営者を育てる場になっている。取締役会でよく使われる「ワンチーム」という言葉のチームメンバーは、取締役だけではない。株主、従業員、販売店、仕入先、地域、そしてクルマを愛する人々まで含まれる。

 どこまで視野を広く持ち、どこまでの人を巻き込み、チームにできるか。それが会社の器なのだと思う。そして、その器を広げ、維持するものは、制度や形式だけではなく、人間としての誠実さと、経営に向き合う哲学なのではないだろうか。

【 著者に聞く 】日本共創プラットフォーム会長・冨山和彦『日本経済AI成長戦略』