
主力製品、微粉末「龍角散」のヘビーユーザーが、風邪症状の緩和ではなく、日常的にノドの健康を守るために使っていることは分かりましたが、これをどうやって拡大するかです。社内ではそんなことはできないとの意見が大勢でした。
確かにヘビーユーザーが自慢するほど飲み方が難しい製品です。これでは新規ユーザーの獲得は絶望的です。しかし私はもう一つの主力製品「クララ」に注目しました。
水なしで飲めて口の中で淡雪のように溶ける顆粒剤形の「クララ」は今でも先進的な剤形の医薬品です。しかし発売から40年を経て大きく低迷していたのです。
これにはいくつか問題があり、父の時代には微粉末の「龍角散」と社内競合しないよう、あえて別ブランドにしていたのですが、私に言わせると、それは大企業の戦略です。
当社のように小さな企業には、いくつものブランドを育成する財力はありません。「選択と集中」が必要です。私は何とか「クララ」を止め、主力製品と同じ「龍角散」ブランドにできないかと主張しましたが、社内ではまたも大きな反対に遭ってしまいました。
先代の時代から40年以上も育ててきたブランドを捨てるとは何たる親不孝者、との声も聞こえてきました。しかし40年経ってもブランドになっていないではないかというのが私の主張です。
後年、これが現在の「龍角散ダイレクト」に進化し、大成功を収めるのですが、このときは、まだまだ準備不足でした。
売り上げの低迷を解決すべく、いくつか新製品は出していましたが、そもそも広告費も掛けられないので、いずれも低迷しており、結局は返品の山でした。確かに新製品は大切ですが、高度成長期のように「出せば売れる」時代は、とっくに終わっていたのです。
また、他社事例を参考にして高額の漢方製剤を直接薬局に販売するビジネスも展開していましたが、慣れない直販ビジネスなど当社の社員には到底無理な話で、これも低迷していました。
私は社長就任と同時に営業本部長も兼務していたので、これらの新製品、新規事業を廃止し、持てる経営資源を主力製品に集中すべきだと主張、幹部社員全員の反対を押し切り、強行突破したのです。
後日、幹部社員が私に話があると言うので聞いてみると、この当時、私が社内の反対を押し切り、発売間際の新製品を廃止したり、苦労して育てた直販ビジネスを期の途中で解散させたり、暴れるので、幹部社員が揃って父に進言したそうです。
「若がご乱心です。何とかしてください」。すると父は「今すぐ出ていけ。俺はアイツに任せたんだ。二度とここに来るな」と大いに怒ったそうです。
これは私が父に頼んだのではありません。私は墓に入ったら父には百ほど言いたいことはありますが、音楽を学ばせてくれたことと、このときのことは感謝したいと思います。