≪ 日本の匠の技を世界へ ≫ 産業用冷凍機の前川製作所が食品加工機械に参入し成果

冷凍機だけでなく食品加工機械にも強み

 

 1924年から100年余、日本の近代化を支える「冷凍」の技術をコアに持つ前川製作所。世界の冷凍運搬船の約9割が同社の冷却システムを利用している。世界中の食材が海を渡り各国を行き来する食のグローバル化時代には、なくてはならない存在だ。同社は産業機械メーカーとして産業用冷凍機だけでなく、ヒートポンプや食品加工機械の製造と販売、食品・物流等のプラント設計から施工、メンテナンスまでを一気通貫で請負う。日本並びに各国の食品産業を裏方で支える縁の下の力持ち的役割を担っている。 

 同社は未上場でありながら国内に54拠点、海外に44カ国105拠点を構えるグローバル企業。2025年12月期の売上高は2584億円、うち海外関連会社の総売上は1547億円と全売上の約6割を占める。社員は国内に2106名、海外グループ会社に3306名を抱える。 

 産業用冷凍機が大部分を占める同社だが、今、世界中から注目を集めているのが、同社が1994年に初めて開発した食品加工機械のチキン骨付きもも肉全自動脱骨ロボット「トリダス」だ。ロボットの製造現場に27年間携わってきた同社のモノつくり事業本部・ロボットプロダクツ部門長の菅原亮太氏は次のように語る。 

「世界中から(トリダスの)引き合いが増えている。当社の販売実績では現在33カ国約3000台。今年後半にはインドにも出荷予定。現在ブラジルが最大市場だが、タイやフィリピン、インドネシアなどアジア地域からも引き合いが増えている。今後さらに世界市場を積極的に開拓していく」 

 背景には、国内外で物価高により比較的低コストで生産・購入可能な鶏肉へのニーズが急速に高まっていることが挙げられる。農林水産省が公表している5月の食品価格動向調査によると、鶏肉(もも肉)の5月11日~13日の全国平均小売価格は100㌘あたり154円で過去最高を記録。物価高に加え、需要に対して供給が追い付いていないため価格が高騰している。 

 鶏肉は牛・豚と違い宗教の垣根がなく多くの国でニーズが高い。また鶏は成育スピードが速くわずか42日で出荷可能なため、大量生産でき、かつ消費者も牛・豚に比べて低価格で購入することができる食材。そのため世界的に牛・豚から消費者の需要シフトが起きている。そのニーズを汲み、世界中の鶏肉の加工業者がロボットの導入に意欲的な動きをみせている。 

 同ロボットは進化を続けており、これまでまだ人の手でないと処理が難しかった鶏の膝軟骨の自動処理化も実現をした(特許取得)。今後導入が増えれば、食品工場の省人化は急速に進むと考えられる。

  

日本の「匠の技」VS量産 

 同ロボットの開発は1980年代から開始された。当時取引先の食品工場現場では鶏肉解体ラインに人がたくさん張り付き、職人技で解体を行っていた。人手に頼った労働集約型の生産ラインを、何とか効率化したいという取引先からの要望で開発がスタートした。 

「当時の若き開発者がお客様の生産現場に入り込み、自ら鶏の解体(手ばらし)を習得し、その作業、工程を機械に置き換えていった。開発にはかなりの時間がかかったが、モノになるまで改善改良を継続し、逃げない企業風土がある」(同) 

 初期の商品は1980年代から開発が始まり1994年に販売開始された。今日まで改良を重ね続け、国内では他の追随を許さず競合なしという立ち位置を築いた。今でも1台生産するのに原料の調達に3カ月、組み立てに2カ月、計5カ月の時間を要す。 

 22年に改良された『トリダスマークⅢ』は、人手処理と同等の歩留まり、品質を維持しつつ1時間当たり1200本の処理が可能で、人と比較すると5倍の処理能力を持ち約20人分の仕事をこなす。 

 緻密な職人技が盛り込まれたロボットは、人の手と遜色ないレベルの処理が可能。現在国内においては、年間処理羽数が30万羽を超える大規模処理場において、「トリダス」の導入率は77%(2019年時点)と、大半の大規模工場で同ロボットが利用されている状況だ。 

 しかし、世界市場に目を転じると競合は数社いる。主な競合はオランダ企業のFoodmate社。Foodmate社の強みは処理スピードと初期コスト。質より量を重視する文化がある海外において支持が厚い。 

 対して、前川の機械の強みは丁寧な仕事による歩留まりの良さである。また、競合にはない鶏肉の個体差への対応が可能という点も日本の丁寧なモノづくりが反映されている。カット後の肉の形状の綺麗さも重視しているため、処理後が高品質である点が評される。 

「当社を選んでもらうためには、品質・コスト・納期の改善がポイントとなる。コストを上げずに、高歩留まりを維持し処理能力を向上すること。先進技術の取込とコストのバランスや受注から納入までのリードタイムを短くすることを主に取り組んでいく。サービス体制も当社の強みの1つ。海外展開においても、製品とサービス体制の両面の強化が課題」と菅原氏。 

 冷凍機以外の食品加工機械開発に挑戦してきた同社。長期間にわたり、逃げず、諦めず開発を続け成果を出すことができたのは、オーナー企業ならではの強みでもある。この世界的な需要の高まりにいかにスピードを高めて対応できるか。世界シェア拡大に向けて、日本の匠の技が世界で試されることになる。