【 宅急便誕生から50年 】ヤマトホールディングス・長尾裕会長を直撃! 「宅急便」で培った社会インフラを次の事業にどうつなげますか?

株価と実体経済が乖離している

 

 ─ 米トランプ政権に世界が振り回され、先行き不安定な情勢ですが、長尾さんの現状認識を聞かせてください。 

 長尾 我が国に関して言えば、景気は間違いなく良くはありません。株価だけに踊らされており、実体経済とは全く乖離しているように思います。その意味では、決して今の株価が示しているような景気動向ではないと感じますし、そういう認識は何年も前から持っています。 

 コロナ禍で日本中がステイホームとなりました。それまで日本はeコマース化率が欧米と比べても、そこまで高くはなかったのですが、コロナ禍で一気に持ち上がったのは事実です。コロナ禍での体験をしたことによって、もっとeコマース化率の加速は強まると想像していたのですが、どちらかというと、コロナ禍の終息後には反動減のような形になってきています。 

 いわゆるコロナ禍を経てリアルへの回帰が起きていると。ただ、日本は、かつての一億総中流の社会ではありません。その中で、どこにお金を使っているかというと、モノよりはコトに消費するパターンが増えてきているのではないかと思います。 

 ─ 消費者もお金の使いどころを見極めていると? 

 長尾 そうですね。eコマースのセール等を見ても、安くしないと売れないという話が売り手の皆様からは聞こえてきます。そんな中で物流に多くの資金を割きましょうという流れになるかというと、決してそういう状況ではないというのが我々の大前提としての理解です。 

 ─ 一方で中東情勢に伴うナフサ不足など、下流では物資の目詰まりが起こっていると指摘する声もありますが。 

 長尾 ええ。物流業界においては全てのものが足りないというわけではありませんが、部分的に不足気味のものが出てきています。例えばパレットの上に物を積み、荷崩れしないように固定するストレッチフィルムの値上げが大きいという話も聞こえてきています。ただ、こういった課題に対して政府が何もやっていないという話では全くありません。それでも様々な影響が出てきていますね。 

 ─ その中で長尾さんが社員に向けて投げかけている言葉は、どんなものになりますか。 

 長尾 どういう状況であっても、お客様が誰かということをはっきりさせなければならないということです。ヤマトグループは1919年に創業し、50年前に宅急便を始め、今年の創業記念日である11月29日が来ると107周年になります。そういう意味では相当歴史の長い会社であるのは間違いありません。 

 ただ、今の当社のイメージは宅急便が始まって以降の姿です。50年前の1976年に宅急便を始めて、それから全国に進出していきました。そこから全国ネットワークを構築してきているわけです。かつてはBtoBの荷物の路線便をやっていた関東一円のネットワークの会社でした。 

 また、海外進出も比較的早く始めており、1950年代から通運事業や国際航空輸送を始めています。海外事業は早くから始めているのですが、ただ、それがものすごく大きな事業になっているかというと、まだそうでもないという認識です。 

 まだまだ我々はどうしても「宅急便の会社」と言われています。お客様と会話していても、今のヤマトをよくご存じないお客様からは「いや、長尾さん、いつも使っていますよ、『ゴルフ宅急便』」と。「いや、それだけしかやっていない会社ではありませんよ」と、よく言っているんです(笑)。

 

個人発の荷物は全体の約1割に

 

 ─ 個人発の荷物はどのくらいの比率なのですか。 

 長尾 年間約24億個の荷物を取り扱っている中で、個人のお客様から受託している個数は約1割です。我々の宅急便事業では全国に約2700の営業所があり、そこに集配を行っているセールスドライバー(SD)が所属しているのですが、SDは毎日、個人のお客様だけではなく、法人のお客様や生産者、商店の方々ともお付き合いをしています。そこから発送される荷物もお預かりしています。 

 こういった荷物が宅急便のおよそ半分を占めています。では残りの事業は何かというと、当社の倉庫でお客様の在庫を預かりながら付加価値をつける「コントラクト・ロジスティクス」といったビジネスになります。そして全国に260拠点のロジセンターも運営しています。 

 ─ 個人から発送されるよりも、法人から発送される荷物の方が圧倒的に多くなっているということですね。 

 長尾 そうです。そういった環境の変化を踏まえ、私は2021年に「ワンヤマト化」を掲げて顧客セグメント単位の全体最適な組織に変えました。当社がコントラクト・ロジスティクスと呼ぶ3PL(物流業務一括受託)に注力するためです。 

 この3PLの領域は他社さんが強いのですが、それでも、我々も3PLのビジネスを長年やってきていますし、そこに加えて、2年前に買収したナカノ商会も3PLに強みがある企業ですから、当社にも3PLに関わる大きな事業の塊があります。 

 また、我々は全国に約80カ所の物流ターミナルを持っています。宅急便の荷物を輸送するためのものです。宅急便はラストマイルだけでは届きません。全国に荷物を供給しないといけませんから、そのための輸送ネットワークを我々は有しているわけです。 

物流ターミナル「羽田クロノゲート」では医療用器械の洗浄や家電の修理も行っている

 ─ そこが強みだと。 

 長尾 はい。当社の物流ターミナル「羽田クロノゲート」は、その中の最も大規模な施設となります。ただ、この施設は単に倉庫として独立しているわけではありません。我々の全国につながっている宅急便の輸送ネットワークの一部になります。 

 

需要が旺盛な共同輸配送 

 ─ 荷物を運ぶ過程で付加価値をつけるビジネスだと。 

 長尾 ええ。そこに加えて宅急便のラストマイルも使えるわけです。宅急便だけではありません。ラストマイルやミドルマイルもカバーできますし、法人向けの納品でも付加価値をつける力もあります。先ほど申し上げた80のターミナルの中には法人専用の支店もあります。この支店は宅急便の営業所ではありません。いわゆる法人向けのサービスを提供している拠点となり、そこにもドライバーが通っていますし、トラックもある。 

 このトラックも街中を走っているような小さな車両ではありません。もう少し大きな4トンの大型トラックです。こういったトラックを駆使しながら、宅急便の大口のお客様の荷物を集荷したり、宅急便とは違う形の納品に対応したりしています。 

 ちなみに昨今、非常に利用が拡大しているのが「JITBOXチャーター便」です。JITとは「ジャスト・イン・タイム」の意で、ボックス単位の共同輸配送サービスなのですが、このボックスの年間販売本数が昨年111万本を超えました。 

 ─ ドライバー不足の対応にも寄与しそうですね。 

 長尾 そうですね。我々としては、どんどんサービスの中身をブラッシュアップさせています。例えば、真の意味でのジャスト・イン・タイムで届けて欲しいというニーズに対応できるように時間帯指定のオプションサービスがあります。 

 例えば1分単位で時間指定ができ、その指定時間の前の15分以内にお届けができる。お客様が3日後の午前10時に届けて欲しいということであれば、オプションという形で対応することが可能です。他にも中身が重量物なので2人で届けて欲しいというニーズにも対応することができます。

 

課題解決をビジネスモデルに

 

 ─ ジャスト・イン・タイムというと、トヨタ自動車の専売特許でしたが、日本の産業界全体がそうなっているのですね。さて、宅急便のインフラを活用した新たな事業には、どんなものが考えられるのですか。 

 長尾 いま進めているのがグリーン関連のサービスです。いわゆるGX(グリーン・トランスフォーメーション)に関わるビジネスです。当社は昨年、「ヤマトエナジーマネジメント」という電力小売りをはじめとするエネルギー活用・効率化を提供する会社を立ち上げました。 

 当社のお客様である企業や運送で協力してくれているパートナー企業は、これからのビジネスプランとして、サステナビリティ(持続可能性)を掲げています。ただ、サステナビリティというと、どこか上位概念として捉えられがちです。しかし、私がかねてから言っていることは、課題は至るところにあり、それらを解決しなければならないということです。 

 様々なところに課題はあります。日本の中にも地域の課題がありますし、もちろん、日本という国としての課題もあります。そして環境の課題もあれば、社会の課題もある。ビジネスをしている我々は、こういう課題と向き合っていかざるを得ません。ただ、向き合っているだけでは収益を生むことはできません。 

 向き合って解決策を探し出し、その解決策をビジネスモデルにすることが重要です。それによって収益を生むことができるからです。収益を生みながら社会課題の解決にも貢献することこそ、我々が掲げているサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)になります。 

 ─ いわば社会課題の解決と企業活動を融合させたビジネスモデルと言えますね。 

 長尾 そういうことです。ですから宅急便は宅急便で、これからもインフラ事業として伸ばしていきますし、社会インフラ事業として安定したサービス提供を行っていきます。 

 ただ、法人に向けたより良い物流のサプライチェーン(供給網)を提供していくためには、従来通りのやり方では続きません。ですから、先ほど申し上げたJITBOXチャーター便のような、ある程度、法人向けの物流ニーズを標準化したサービスが求められてきます。 

 ─ 高市早苗政権は成長戦略の核として17分野を掲げていますが、その前提には生産性の向上という課題があります。この取り組みは生産性向上にも貢献できるということですね。 

 長尾 はい、貢献できると思います。まさに我々が提供しているサービスは、いわゆる物流サービスを標準化しましょうというものです。これが1番のキーになると思っています。 

 日本ではパレットの大きさですら標準化されていません。しかし、JITBOXチャーター便は、ある意味で標準化されたロールボックスパレット(カゴ車)になります。これから生産性を上げなければならないという時代にあって、こういった標準化という取り組みは欠かすことができないと思いますね。

千代田化工建設会長・榊田雅和「リスク管理を徹底し、エンジニアリング技術を生かして『つなぐ』力を発揮していきたい」