新しい国際新秩序づくりへ、日本は存在感を発揮する時─  危機の中から 『ソリューション』が 生まれる!

高市政権の対応は迅速と評価されるが…

 

 先行き不透明感の中でレジリエンス(復原力、耐性)のある国づくりへ─。 

 ウクライナ戦争は今なお続き、イラン問題、中東情勢の不安定が世界経済の先行きに不透明さを投げかける。日本国内でも石油備蓄(従来約250日分)の放出が行われ、全体的には平静さを保っているが、石油の川中、川下部門では品不足も顕在化。 

 例えば、シンナー不足による塗料の目詰まり、ヘリウム不足による半導体生産への影響など、組み立て産業領域ではたった一つの原材料・部品不足で全ての生産が止まるという現象が起きつつある。 

 高市早苗政権が発足して約8カ月、イラン戦争が起きて約3カ月が経つ。今のところ、高市政権は迅速に対応し、石油や原材料の供給について積極的に情報発信。 

「石油在庫は二百数十日分もある。他の国と比べても断トツ。これはかつての石油ショック時の体験もあって、先人、先輩たちが努力してきた結果です。それを今、放出して危機に備えている状況」と某政府関係者は語る。 

 ホルムズ海峡封鎖で世界全体で従来の石油の2割が供給削減となっている状況の中で、今のところ高市政権の対応は迅速として評価は高い。 

 ただ、先述したように川中、川下で部分的に目詰まりが起きているのも事実。 

 プラスチック不足で医療用設備、器具の生産に支障をきたすとか、手術用手袋の在庫が逼迫といった話から、菓子大手・カルビーが包装袋のカラー刷りから白黒刷りへ、シンプルにするといった工夫がなされている。 

 燃料不足で漁船が出漁を見合わせたりということで、地域の産業にも影響がある。 

 この5月の連休時も、一般家計の支出は1家庭で約2万円で、「かなりレジャーへの支出も世知辛くなっている」という声も聞かれる。 

 国全体で見た場合に、今年の猛暑に備えて冷房が必要とされるが、電力の供給は大丈夫か?という国民の不安もある。政府としては闇雲なパニックに陥ることを防ぐためにも南米や中央アジアで石油を調達した─といった情報を流し、不安解消に努めている。

 

産業界の対応は

 

 各業界も危機感を持って対応している。 

「エンデバー号がホルムズ海峡を通過して危険区域を脱し、日本へ向けて航海を再開した。安全な通過が実現できたことを喜ばしく思う」

 こう話すのは、国内石油元売り最大手・ENEOSホールディングス社長の宮田知秀氏。 

 ENEOSグループの原油タンカー『エネオス・エンデバー』がホルムズ海峡を通過した。積んでいる原油は190万バレルで、順調にいけば5月末から6月初旬には日本に到着予定。 

 政府と連携しながら原油の確保に動くENEOS。現在は調達先の多様化を進めており、米国やカナダなど、中東以外の国からの調達も急いでいる。 

 ただ、原油も産地によって成分や質が異なる。日本の製油所はほとんどが中東産原油を蒸留しやすい仕様になっており、コスト増加分を誰が負担するかは不透明。単純に米国やカナダから運んでくれば事足りるわけではない。それでもENEOSは、国内最大手のエネルギー供給会社として責任を果たすべく、努力を進める考え。 

 ホルムズ海峡封鎖で厳しい立場に置かれている海運各社。現在は紅海やスエズ運河を通過するルートより距離が長い喜望峰を回るルートを通っている。 

 ホルムズ封鎖で燃料費上昇が続けば業績にも響くため、燃料費の上昇を運賃に転嫁する「燃油サーチャージ」の対象とする船舶の種類の拡大を検討。 

 さらに、例えば、日本郵船は中東向け自動車輸送が滞っていることを踏まえ「別のルートを開拓しようと、すでに動き出している」(曽我貴也社長)。オマーンなどの海峡の手前で船から荷下ろしし、陸上輸送に切り替えることなどを想定。ともあれ運送コストの上昇は避けられない。 

「燃料費はコロナ禍前の1・5~2倍の水準。これまでの運賃では吸収しきれない」とは運送会社関係者。陸運でもヤマトホールディングスが法人向け宅配の運賃に上乗せする燃油サーチャージの導入を検討している他、佐川急便を傘下に持つSGホールディングスも検討中。 

「包装資材が調達できなくなっている。資材メーカーから値上げ要請もあり、7月からは商品の値上げを行う予定。6月分までの在庫は確保しているが、それ以降は不透明」と危機感を訴える某食品メーカー幹部。 

 化学メーカーなど川上側では「ナフサは確保できている」(ある首脳)が、商社など流通段階で「目詰まり」を起こしており、食品メーカーなどではインクの調達が不安定化し、パッケージを変更する例などが出ている。 

 先述の通り、スナック菓子最大手のカルビーでは予防的措置として計14品のパッケージを白黒の2色印刷にすると発表。 

 それ以外にも高知の名物菓子「ミレービスケット」を製造販売する「野村煎豆加工店」では大容量の商品を4月23日から生産停止し、6月から他商品も停止。宅食最大手のワタミではお弁当のフタをシールに切り替えるなどコスト削減を図る。 

 また、製粉業界最大手・日清製粉グループの日清製粉ウェルナは、家庭用の小麦やパスと、パスタソース製品を8月から値上げ。政府売渡価格の改定と、中東情勢の影響を価格に反映する。同社でも、パスタを束ねるテープに茹で時間をインクで記していたが、無地にしてなくすなどコスト削減を進める。 

 一方、国民生活から見れば、6月から電気・ガス代の価格引き上げが予測され、鉄道やバス運賃の値上げも相次ぐ。これも原材料アップ分を製品やサービスの価格へ跳ね返すという流れである。 

 これまで、イラン戦争開始まで原材料アップ分を財やサービスの値上げに結びつけ賃金引き上げ、そして消費増を図る形で成長サイクルを回すという流れが定着しかかっていた。 

 それがインフレ高騰で消費を低減させるという懸念も生まれてきている。景気後退の懸念が生ずる中、この混沌状況をどうしのいでいくかということである。 

 今回、イラン戦争は米国・イスラエルとイランとの間で膠着状態が生じ、長続きするとなればモノ不足、供給不足による景気への悪影響も生まれる。 

 グローバル市場への進出で成長を図ってきた日本企業全体の今後の経営戦略にも影響を及ぼし始めている。「リスクをコストとして織り込む時代が来た」という識者の指摘。不況下のインフレ(スタグフレーション)への懸念もある。

 

企業も個人も厳しい環境下をどう生き抜く? 

 重要な社会インフラである金融の世界では過去のゼロ金利・低金利の時代が終わり、「金利のある世界」へと移行。円安も加わり、輸入コストの上昇という形でインフレは続く。しかも、インフレは世界規模で続いており、このことは各国の通貨当局を悩ませることになる。 

 日本でも長期金利が29年ぶりに2.8%台を付けた。このことは企業の設備投資はもちろんのこと、個人の住宅購入や家賃の支払いといったことにも影響を及ぼす。 

 今後どう対応していくか─。国レベルでは日本は自由・民主主義など同じ価値観を持つEU(欧州連合)や、ASEAN(東南アジア諸国連合、インドネシア、マレーシアなど11カ国)、さらにはオセアニア(豪州、ニュージーランド)などとの連携が必要になってくる。 

 50年前の石油ショックが起きた時は、産油国vs消費国という対立構図で語られたが、今は違う。米中両国の関係の行方で、米国とNATO(北大西洋条約機構)の微妙な対立も気懸りだ。 

 また、産油国の集まりであるOPEC(石油輸出国機構)からUAE(アラブ首長国連邦)が脱退するなどの動きもあり、情勢は流動的。 

「日本は50年前の石油不足の教訓から備蓄に力を入れてきたが、産油国との対話も重ね、産油国備蓄もやっている。中東の産油国も空いているタンクを日本に提供し、その分も約1週間分ある。こうした形で産油国との連携も進めてきている」と政府関係者は話す。新しい秩序づくりの時である。 

 現に、日本は国際的なサプライチェーンでモノづくりの拠点であるASEAN諸国とは、ナフサやシンナーなどの取引で連携を進めている。 

「日本がASEAN内の新興国の石油備蓄や製品供給で協力関係にあり、こうした国々との連携ができるのが50年前の危機とは違う」という声もある。 

 日本は人口減、少子化・高齢化が進み、市場は縮小しつつある。そこで各企業はグローバル化を進め、海外市場の成長を取り込み、自らの成長を図ってきた。 

 そのグローバル市場が安全保障問題も絡み波乱気味。その意味でも、EUやASEANなどとの連携を進めながら経済をどう運営していくかという国家的課題である。 

「日本のGDP(国内総生産)が世界に占める割合は3%と小さいが、日本には技術と人材がそろっている。潜在力はある。ピンチの今こそ、その能力を発揮すべき時」と某識者は指摘する。 

「ピンチこそチャンスとして危機感を持って臨めば活路は開ける」というのは、ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏の言葉である。 

 常在戦場─。混沌とする今、経済人は危機感を持って自らの進路を切り拓く時である。