
「アジアのための仕組みづくりのイニシアチブを取ることが、日本の外交として大事」と話すのは内閣官房参与の細川昌彦氏。今、イラン問題を受けて石油の確保などエネルギーの重要性が高まっているが、高市政権はこれをアジアの国々との連携の機会とすべく動いている。日本とアジア、産油国とアジアという連携、新たな国際秩序づくりで日本は力を発揮できるという細川氏の訴えである。
石油、ナフサの 「目詰まり」の原因は?
─ 今回のイラン問題が日本及び世界経済に与える影響をどう見ていますか。政府としては必要な石油、ナフサを確保していると発表していますが、流通段階での目詰まりも起きていると言われます。
細川 私は1977年に通産省(現経済産業省)に入省しましたが、2年後に起きたのがイランの政変に端を発した第2次オイルショックです。
当時、私は石油部計画課で原油輸入を担当していましたが、私の役人としてのスタートであり、原体験になっています。当時は原油の輸入担当が私しかいませんでしたから、石油会社とタンカーの配船状況を確認したり、始まったばかりの民間備蓄をいつ、どのくらい放出していいかを電卓1つで毎日夜中まで計算していました。
─ 73年の第1次オイルショックの時にはトイレットペーパーの買い占めなどが起き、超インフレにもなりました。
細川 その苦い教訓があり、79年の時はいかに正しい情報を的確に、タイムリーに出していくかが大事だということを、先輩たちから強く言われました。
当時は電卓での計算でしたから10日ごとの公表でしたが、今は毎日公表しています。今、資源エネルギー庁の皆さんは、当時の経験を生かしながら、デジタルの力を活用してタイムリーな公表につなげています。非常によくやってくれていると思います。
逆に、メディアに対して厳しいことを申し上げると、一部に心ない、不安を煽るような発信が目につきました。それに対しては、遠慮なく反論し、訂正を求めるという厳しい姿勢で臨むべきだと思います。大事なのは国民に正しい情報を伝えて、パニックを起こさせないことだったからです。
ナフサ不足で「6月に日本は詰む」という言葉を使ったテレビ局もありましたが、そういう言葉を聞いたら中小零細企業の方々はどうなるか。「今買っておかないと」と多くの方々が動いたらどうなるか。これが今起きている目詰まりの原因です。
─ そこに政府としてきちんと情報発信していると。
細川 難しいながらそうです。早めに手当てしておこうと考えるのが消費者心理、企業心理です。それを一つひとつ、丹念に解きほぐす作業をしています。普段にはない行政が今求められていますが、それに地道に取り組んでいます。
また、もう1つ大事なことは、まだ日本は需要対策を行っていません。これは高市早苗首相の判断でもありますが、日本人は真面目ですから、需要抑制を言った途端に経済が冷え込んでしまう恐れがあるからです。国民性を考えたら、相当慎重にやっていくのは正しい選択ではないかと思います。
もちろん、事態の進展とともに、ある段階で踏み切らざるを得ない局面はあるかもしれません。ただ、それは今ではないということです。
他国と比べても断トツの石油備蓄という、先人の努力の結果による資産、強みを生かしていく必要があります。同時に、価格が高くとも代替原油を買い集めて量を確保し、備蓄放出だけに依存しない取り組みも重要です。
─ 危機管理上、非常に大事な考え方ですね。その時に官民連携は取れているんですね。
細川 官民連携は大事なキーワードです。先ほどお話した第2次オイルショックの時、私も連日連夜、石油会社の方々とやり取りが大事でした。
今はそれをアジアの他の国々と取り組んでいます。例えば軽油がフィリピンで不足して支援の要請があれば民間の取引を活用して対応する。ベトナムから原油調達の要請があれば、あとで触れるように現地の日系企業が調達に奔走するなど、国内も海外も緻密なやり取りを続けているんです。
産油国とアジアをつなぐ新たな仕組みづくり
─ 5月の大型連休期間中に、高市首相がベトナム、オーストラリアを訪問した他、11名の閣僚が21カ国を訪問していましたね。この成果は?
細川 訪問に行かれる前、2026年4月15日にアジアの国々の首脳を集めて、我が国が主催し、高市首相が議長を務めるオンライン首脳会合を行い、「アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ」、通称「パワー・アジア」を立ち上げました。
私自身アジア協力の重要性についてメディアでも発信していましたが、高市首相はアジアの国々との会合開催を指示されて、4月15日に実施されました。すごいスピード感でアクションを起こしておられます。
今、一部のアジアの国では原油を買う資金がないところもありますから、その資金を融資するといったことも、この枠組みの1つです。また、アジアでは日系企業が活動していますが、それらの国が困ると、その活動の支障が出ます。相手の国への支援は、結果的に日系企業への支援になるということです。
例えば、出光興産はベトナムに製油所を持っていますが、ここに原油が来ないのでベトナムが困っています。そこで出光興産が調達した原油を供給することで製油所が動き出し、そこでできた製品の一部は日本が引き取ることができます。
そして、この材料を使って、日本で一部不足している医療関連機材を、アジアで生産するということもできます。アジアの国々への支援が、巡り巡って日本のためになるということです。
─ お互いにWIN―WINの関係だということですね。
細川 そうです。さらに、産油国の共同備蓄という取り組みもあります。サウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)の原油を日本のタンクに保有させてあげているんです。
日本の民間企業は石油タンクを多く保有していますが、この数十年間で日本の石油消費量は減少していて、余るタンクも出てきています。これを産油国が使用し、平時は彼らがアジアで原油販売する際の拠点にしてもらっていますが、今のような緊急時には日本が優先的に調達できます。
さらに今後はアジアの国々にも一部使ってもらったらいいのではないかと思うんです。
元々、産油国備蓄という仕組みがあり、日本が活用しているわけですが「パワー・アジア」の中で、日本はアジアワイドで発展型に取り組むべきではないかということで検討していますし、石油製品の融通システムのアイデアも出てきています。
─ アジア全体のためになる取り組みをしていくと。
細川 アジアのための仕組みづくりのイニシアチブを取ることが、日本の外交として大事です。先日、赤澤亮正・経済産業大臣がサウジアラビアとUAEを訪問し、日本への原油供給についての対話をしてきましたが、その時にサウジが「パワー・アジアはいいアイデアだ」と言ったのです。
これは、彼らにとってもパワー・アジアという仕組みにはメリットがあるということだと思います。
日本のアジアでのイニシアチブが、産油国のサウジ、UAEにまで影響を及ぼし、日本が、こうした国々とアジアをつなぐ結節点になることができるということです。そうして、日本が新しい国際秩序をつくる過程において重要なプレイヤーになるという視点が大事です。
─ これが「パワー・アジア」の本質だということですね。
細川 本質だと思います。今、イラン問題を受けて、国際秩序が変わろうとしています。だからこそ、新しい秩序が必要です。これまで石油の世界では産油国対消費国という構図でしたが、先程お話した内容は、こうした伝統的な国際秩序の固定観念を完全に崩しています。
産油国とアジアをつなぐ新しい国際秩序づくりで日本は大事なプレイヤーになっていく可能性を秘めているということです。
─ こうした取り組みにアメリカも賛同してくれますか。
細川 重要な視点です。先ほどの産油国備蓄という時には、アメリカも産油国です。3月に高市首相が訪米した際、アメリカ産原油の調達を増やすという話をしてきましたが、この貯蔵に日本のタンクを使い、アジアへの販売の拠点にしてもらうこともできるでしょう。
大事なことは、トランプ政権がアジアに関与する仕組みを、日本がつくるということです。これは日本にとって重要な外交ではないかと思います。
─ 日本は国と国、地域と国をつなぐ役割を担うんですね。
細川 はい。特に今は中国の存在感、アジアへの影響力は、私が役所にいた時代とは全く違います。その中で日本ができることは何か、不可欠な存在になるために何が必要かを考えなければいけません。
─ GDP(国内総生産)で世界の3・6%しかない日本がもう一度、存在感を示す機会でもありますね。
細川 それには知恵が必要です。今、アジアの国々の中にはアメリカに対する不信感、中国に対する警戒感があり、これに対して日本への信頼感があります。これは我々の先人たちがつくってきた財産、資産です。これを生かさなければいけないと思います。
経営者は「自立性」と 「不可欠性」を意識して
─ その意味で、日本は中国にどう対応していく必要があると考えますか。
細川 経済安全保障を見ている立場からすると、レアアース輸出の規制など、様々な形で経済的威圧を受けているのは確かですし、日本企業の虎の子の技術が狙われています。
経済安全保障推進法は、特定国を念頭に置いたものではないというのが政府の立場ですが、私が申し上げたようなことが起きているとすれば、日本の経済安保のあり様として、中国の動きにも的確に対応できるものでなければいけないというのも事実だと思うんです。
中国の動きを念頭に置いた上で、アメリカのような同盟国の他、同志国との連携をどう取っていくかは非常に大事です。
同時に、日本企業にとって中国マーケットの魅力があるということは否定できません。その時に大事なのは、事業や技術をどの程度出していくかについて線引きをしておかないと、将来の自分たちの首を絞めることになりかねないという認識を1人ひとりの経営者が持っていなければいけないと思います。
─ 市場として、過度に依存することは避けなければなりませんね。
細川 市場だけでなく、例えばレアアースにしても、価格が安いから中国に依存する面があったと思います。それを彼らの外交上の武器として使われてしまっている。そうした事態を招かないためには、企業は自社のためにも、多少高くても他から調達する必要があります。
企業が経済合理性で経営をするのは当然です。今の事態を受けて、経済合理性とは別の要素が必要だという人がいますが、私は今まで経済合理性を狭く考えすぎていたのではないかと考えています。今回のイラン問題でホルムズ海峡が封鎖されたことも、この問題の1つの表れです。
コストを安くつくるのが経済合理性ではなく、リスクが顕在化して供給が途絶する恐れもコスト化して、そのリスク対応も含めての経済合理性があるのではないかと思います。特に重要鉱物とエネルギーは供給の多角化のためにリスクをコスト化する仕組みづくりが共通のテーマです。
こうした取り組みをすることで、日本の自立性が高まる。また何か危機が起きた際に日本は不可欠な存在であることによって、相手国から叩かれにくくなる。この自立性と不可欠性の2つを持つことが、経営者自身が考えなければいけない大事なポイントではないかと思います。
─ アメリカとの関係も同じかもしれませんね。
細川 私はそう思っています。アメリカの経済安全保障にとって、日本は不可欠な存在だと思わせなければいけません。これが「米国第一を掲げる」トランプ政権との向き合い方だと思うんです。
半導体も造船も、日本の技術がなければできないという具体例を積み上げた上で、日本は不可欠な存在になるという仕掛けをつくることが大事です。