
日本の強さは裾野産業にある
「今でも日本が強いのは、自動車や半導体、電池を支える裾野産業です」─―。
世界が混沌とした状況に包まれ、先行き不透明の中で、日本再生をどう図るかは長年の最重要命題。日本の成長戦略を推し進めていく上で、日本の強みとは何か? という質問に、元経済産業事務次官の北畑隆生氏(1950年=昭和25年1月生まれ)はこう訴える。
【 100年前の過ちを繰り返すな 】BNPパリバ証券チーフエコノミスト・河野 龍太郎
イラン戦争で米国は当事国となり、世界の原油輸送量の2割を占めるホルムズ海峡の〝管理問題〟で今なお、イラン・米国の両国間で駆け引きが続く。
この不安定な中で、石油や、石油化学の粗原料・ナフサが不足し、あらゆる原材料価格が高騰。世界規模でインフレへの懸念が生じている。下手をすれば、世界経済減速・景気後退につながりかねない。こうした緊迫した状況の中で日本の成長戦略をどう描くかという課題。
今、AI(人工知能)の登場で、データセンターなどへの一大投資が世界規模で進む。AI投資の中心はやはり米国。GPU(画像処理装置)の開発で先頭を走るエヌビディア(NVIDIA)の時価総額は5兆1140億ドル(792兆円超)と日本のGDP(約600兆円)を超える規模(5月29日時点)。日本のトップ企業、トヨタ自動車の時価総額48兆483億円の16倍以上だ。
ここ数年、グーグルやアップルなど、〝GAFAM〟と呼ばれる巨大IT企業が米経済、さらには世界経済を牽引してきたが、最近ではエヌビディア、EV(電気自動車)のテスラなどが主役の座に取って代わり、AI投資ブームを引っ張っている。
マイクロソフト、アマゾンなどに少し陰りが見られるともいわれ、最先端テクノロジー分野での競争は実に激烈だ。世界で日々激しい競争が繰り広げられる中、日本が世界で埋没せずに生き抜き、新たな成長をどう図るかという命題である。
国内では、半導体(メモリ)のキオクシアホールディングスが勢いを取り戻し、時価総額ランキング(日本)で、SBG(ソフトバンクグループ、時価総額49兆3046億円)、トヨタ自動車(同49兆円9209億円)に次いで3位(同42兆3631億円)となっている。日本半導体復活の兆しだ。
半導体関連では東京エレクトロンが6位、アドバンテストも11位と健闘しており、関係者の士気も高まる(6月2日現在)。キオクシアHDは、東芝が経営危機に陥り、半導体メモリ事業が分社化されて設立(2017)された。東芝再生のためにファンドに売却され、その後、東芝が再出資するなどの試練を経てきた。
「東芝には本来それだけの力があり、いい人材もいたということです。今日のように地力を発揮できるんですよね」という感想を北畑氏はもらす。
東芝は、この半導体事業以外にも医療機械部門(旧東芝医療機械)をキヤノンに売却。売却先のキヤノンは、キヤノン医療機械として成長部門に位置付け、経営を展開している。
日本は先進国の中でいち早く「高齢化社会」(65歳以上の高齢者人口が社会全体の7%以上を占める)に突入(1970年)、「高齢社会」(同14%以上)を経て、2007年に『超高齢社会』(同21%以上)になった。現在、高齢者の占める割合は全体の約30%で、間もなく40%に達する。
高齢者を社会がどう支えるかは一つの大きな社会課題だが、これからは「高齢者が社会を支える時代」として、フレイル(身体的・精神的脆弱化)を予防することが重要という指摘もある。
65歳以上でも働く意欲のある人は多い。そうした意欲ある人たちの働く場をつくり、高齢者が活躍できる社会を構築していくことも、〝超高齢社会〟日本が抱える社会課題である。そうした社会課題を解決する産業の育成や社会システムの構築と同時に、そこで働く人をどう育成するかという課題もクローズアップされてきた。
中・高一貫の三田学園 理事長・校長に就任
北畑氏は、2006年(平成18年)から2年間、経済産業事務次官を務めた後、丸紅の社外監査役や取締役、神戸製鋼所・社外取締役などを務め、その後、2013年(平成25年)、学校法人三田学園(兵庫県三田市)の理事長・校長を務めた異色の経歴を持つ。
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三田学園は文武両道の中・高一貫校(現在、男女共学)で、現在、関西で有数の進学校として知られている。三田学園の理事長・校長在任中も、北畑氏は産業界とのつながりを維持し、自動車部材関連のセーレンや半導体関連の日本ゼオンの取締役を務めた。
北畑氏が、実社会で活躍する人材をどう育成するか─―という点を重視して教育に携わったということが、氏の歩みを見ても分かる。
私学の中・高一貫教育校で理事長と校長を兼任することは珍しい。経営を担う理事長と教職のトップを担う校長は通常分けられることが一般的。その慣習を超えて、北畑氏が兼職した理由は後述するが、三田学園で6年間、理事長を務めた後、北畑氏は2020年(令和2年)に新設された学校法人新潟総合学院開志専門職大学学長に就任する。
専門職大学は2017年5月の学校教育法改正によって設立された職業大学。修業年限は4年で、卒業すれば一般の大学と同様に『学士(専門職)』の学位が得られる。
情報やアニメなど、近い将来、自分が就職したい分野の知識や理論と併せて実践的なスキルを学ぶことができ、専門分野の職業教育に注力するのが専門職大学の特徴だ。
北畑氏は現在、開志専門職大学(新潟市)の名誉学長を務めるが、同大学の運営について、次のように語る。
「最初から実践で研究をやっています。企業内実習は4年間で600時間に及びます。他の大学、特に文系は企業内実習ってやれないんですよ。学生の人数が多すぎてね。われわれの場合は1クラス40人以下ですからね。経営的には苦しいんだけど、卒業生の出た1年目も2年目も就職率は100%でした」
現在、同専門職大学は文系の事業創造学部、アニメ・マンガ学部と、理系の情報学部の3学部体制。1学年約240人で、学生数は約1000人。決して多くはないが、産業界からは、「即戦力になる」と評判が良い。
アニメや漫画はかつてサブカルチャーとして捉えられていたが、今や日本発の文化として世界中で人気を博し、一大産業化した。映画・映像の領域でも、アニメーション作品はヒット作が相次ぎ、旧来の映画・テレビ放送だけでなく、ネットフリックスやアマゾンプライムなどの配信領域でも重要コンテンツとなるなど、時代は大きく変化している。