
企業の農業参入、続々つづく
「今までの調達ルートだと必ず限界が来る。自給力を上げていかなければ安定調達は難しくなるだろう」─。こう話すのは、ONODERAファーム(農業法人)社長の畑裕之氏。この強い危機感から、外食事業や給食大手LEOCを傘下に持つオノデラグループは、4月、同法人を通じ、新潟県関川村でコメの自社生産に乗り出した。
畑氏は、もともとLEOCで給食の食材調達を担当し、日本各地の生産者と関わり話を聞く中で、今後食材の安定調達に強い不安を感じていた。
日本の農家の平均年齢は67.7歳(令和7年)で、主業経営体の平均年収は404.2万円(令和)と、離農も進みつつあり、後継者問題は深刻だ。
「元気な生産者もいるが、そこに農地が集まっていき、広大な土地に対して人手不足で対応しきれないという問題も起こっている」と畑氏。
この日本の農業の課題に加えて、昨今の異常気象、生産減少により令和6年から起きた令和の米騒動。消費者や外食企業などにも影響は大きく、日本の農業を根本的に考え直す時がきている。
同社グループ内で消費するコメは年間約9000トン。初年度は2%にあたる200トンを目標に生産に励む予定で、将来的には500トンまで増やしていく。
「生産者は高齢化や跡継ぎ問題など、全国どの地域でも同じ課題を抱えている。自分たちでも少量でも作っていかないと、食材の調達自体が難しくなる時代がくると、米騒動以前から強く危機感を持っていた」と畑氏。
同社と同様の理由から、外食・宅食を手掛けるワタミでも稲作に本格参入を表明。年間約1200トンを消費するうち、北海道のワタミファームと千葉県香取市でのコメ事業で、年間消費の約半分の500トンを自前で賄う予定。将来的には100%を目指していき、「ワタミ米」として市場供給も視野に入れる。
同社会長兼社長CEOの渡邉美樹氏は、「参院議員時代から政府や農協の価格コントロールや減反政策には反対してきた。減反政策、また円安でコメ価格は上がっていくだろう。外食企業として米をしっかり作っていきたい」と5月中旬に開かれた決算説明会で意欲を見せた。
また、米菓大手の亀田製菓(新潟県)も、25年に地元農業者5名と共同出資し農業法人を設立し、原料の自社生産を開始した。通販大手のアイリスオーヤマ(宮城県)も、自社製品のパックご飯に使用するコメの自社生産を決めた。外食・食品企業以外でも、21年には南都銀行(奈良)が、地域の課題解決を目的にコメ作りを始めている。
いずれも民間人が日本の農業に危機感を持ち、国の法律等で実質的な縛りが強い企業の農業参入という大きな壁を越え、企業が課題解決に乗り出す動きが活発化している。
コメの安定調達に必要なことは
一般的に、企業の農業参入はハードルが高いと言われる。この背景には、農地取得が困難で、リースの場合は資産にできず、事業の利幅も小さいということから、参入メリットが少ないということが挙げられる。
企業参入は地元の人たちからすればネガティブなイメージがあるのも事実。全く別の地域から新しい人たちが来るということと、せっかく企業が来てくれても、うまくいかなかった場合に将来撤退していなくなる可能性もある。企業参入の壁は、地域の方々の不安心理も大きいのである。
「生産者の方々は地元の農地を守りたいという方々が多い。農地リース部分での同意が非常に大事だと考えており、地権者約50名に一人ひとり丁寧に対話を重ねた。当社は農地をしっかり管理し守っていくことと、地域の活性につなげていきたいという思いを伝えていった」と畑氏。今回同社は全国でも珍しい正社員雇用で、従来その農地で働いていた人を雇用した。
「生産者にとって安定収入があることは、仕事をする上での安心感につながり生産意欲が増すことにもつながる。また1年に1作なので、生産者はこれまで新しい事にチャレンジすることがしづらかった。そこをわれわれと一緒になることで、作り方や品種など新しい試みにチャレンジできるようになる。全国の生産者とのネットワークから、生産ノウハウも共有し、技術力向上も今後期待できる」
同社はドローンを使ったスマート農業で生産者と一緒に知恵を出し合い効率化を模索中。稲作では一番大事な苗を作る作業と田植えが最も労力が大きい。ドローンを使用すれば、タネを直接撒くことも可能で、衛星で地点登録をすれば自動で動き、操縦する必要もないという。ある生産者は、田植えがなくなれば7割くらいの労働削減になるのではと期待する。
「今回の参入でわれわれにノウハウができれば、全国生産者の作業受託が可能となるし、地域全体の作業軽減に貢献できる可能性がある。まずは初年度しっかりお米を作り、地元の人に貢献したい」と畑氏は力を込める。
作った米は、地域消費と自社消費に充てる他、ふるさと納税も開始して地域活性化につなげる意向を示す。
同グループ全体の売上高は1707億円(26年3月期)。資本力の大きい企業が農業に参入し、日本の農業危機を救う新たなノウハウや取り組みが生まれてくることを期待したい。