『わたしの「対話人生」』国際社会経済研究所理事長・藤沢久美 株主総会は、対話の場になれるか

株主総会の季節が近づくと、経営者と株主の関係を改めて考えさせられる。

 近年、政府でも株主総会の在り方や、企業と株主との意味あるエンゲージメントの促進が議論されている。背景には、株主総会を単なる決議の場にとどめず、企業価値を高める対話の場へと変えていくべきだという問題意識がある。

 実際、多くの企業では、総会当日を迎える前に機関投資家の議決権行使の動向により、議案の成否はおおむね見えている。そうであるなら、総会を「通過すべき手続き」ととらえるのではなく、経営者がどのような株主と向き合い、どのような未来を語るのかを示す場として、建て付けを見直す時期に来ている。

 ただし、一口に機関投資家といっても、その性格は一様ではない。長期安定運用を重視する年金基金、インデックス投資家、成長性を重視するアクティブ投資家、資本効率やガバナンスに強い関心を持つ投資家など、見ている時間軸も重視する論点も異なる。

 だからこそ経営者は、自社がどのような投資家に株を持ってもらいたいのかを明確にする必要がある。すべての投資家に同じ説明をして、同じ理解を得ようとするのは難しい。自社の時間軸、資本政策、事業の成長段階に合った投資家を見定め、その投資家に届く言葉でエクイティストーリーを語らなければならない。

 その前提として、経営者自身が資本の動きや資産の活用状況を深く理解していることが欠かせない。どこに資本を投下し、どこから撤退し、どの資産を未来の成長に結びつけるのか。これはIR部門だけの仕事ではない。企業価値をどう高めるかという、経営そのものの問いである。

 特に歴史ある企業では、蓄積してきたブランド、人材、顧客基盤、技術、土地、データといったアセットを、新しい時代に合わせてどう活用するかが問われる。

 過去の成功の延長線上に未来があるとは限らない。しかし、蓄積された資産を新たな市場機会と結びつけることができれば、それは他社にはまねできない競争力になる。

 経営者に求められるのは、単なる業績説明ではない。未来の市場をどう見ているのか。その市場で自社はどのポジションを取りに行くのか。その実現のために資本と資産をどう使うのか。投資家との対話方針を明確にすることが、これまで以上に重要になっている。

 一方で、メディアでもてはやされる流行や、短期的に声の大きな投資家の主張に振り回されすぎてはならない。耳を傾けることと、迎合することは違う。対話とは、経営の軸を揺らすためではなく、その軸をより強く、より明確にするためにある。

経団連常務理事・岩崎一雄の【 わたしの一冊 】『2075 次世代AIで甦る日本経済』