【 宇宙ベンチャーのパイオニア 】 国産の超小型衛星を開発・運用する アクセルスペースの〝宇宙ソリューション力〟

赤字でも時価総額が600億円

 

 政府が10年で1兆円を投じる「宇宙戦略基金」。宇宙活動法の改正で宇宙領域の活用を進める政府の予算は増え続け、産業界も熱視線を送る。宇宙ビジネスの主戦場はロケットや衛星から、建設、素材、通信などの非宇宙分野にまで拡大。内閣府は2020年に約4兆円だった宇宙産業の市場規模は30年に約8兆円にまで倍増すると見込む。 

「宇宙を新たな社会インフラにしたい」─。こう意気込みを語るのは宇宙ベンチャーのアクセルスペース代表取締役・中村友哉氏。超小型人工衛星の開発製造や超小型衛星を利用したソリューションを提供する。国内に宇宙ベンチャーは100社以上あるが、その中で同社は08年創業のパイオニア。昨年8月に東証グロース市場に上場し、26年5月期の売上高が約36億円で赤字だが、5月下旬の時価総額は600億円を超える。 

 宇宙ビジネスと言っても、その領域は多岐にわたる。6月にも上場が見込まれるとして注目されている米実業家のイーロン・マスク氏が率いる「スペースX」は主にロケットや宇宙船の開発から、宇宙輸送、衛星通信の打ち上げなどを手掛ける。 

 アクセルスペースはそういったロケットに重量100キロ級の超小型衛星を搭載させて高度数百~2000キロ付近の軌道で地球を周回しながら画像データなどを提供する。同社は既に計11機の超小型・小型衛星を開発・運用した実績がある。 

 例えば、ウェザーニューズはアクセルスペースの超小型衛星を所有し、北極海域の海氷観測を行って船舶航行支援や温室効果ガスのデータ取得に活用。他に道路の新設や建物の変化をリアルタイムで把握し、地図に反映させる国土地理院による「電子国土基本図」の整備・更新プロジェクトでも同社のサービスが継続採用されている。 

 アクセルスペースの事業は主に2つ。1つ目が超小型衛星の設計や製造、運用などをワンストップで提供する「アクセルライナー」だ。顧客向けの専用衛星を提供するもので、同社の「国産」の超小型衛星を使い、宇宙空間で顧客の製造品などを実証実験するサービスを展開する。 

 2つ目が衛星によって撮影した地表の画像などのデータを提供する「アクセルグローブ」だ。商用光学衛星として国内最多機数の5機を連携・一体運用し、農作物の生育や森林伐採、水害による浸水範囲の把握など、顧客のニーズに合わせた情報を提供している。その顧客も政府だけではなく、売り上げの約7割は民間企業となっている。

 

ニコンとの協業で 7機打ち上げ 

 今年夏には、このアクセルグローブのステージが一段上がる。7月以降に次世代の地球観測衛星を7機同時に打ち上げる計画だからだ。しかも、この新たな観測衛星「次世代衛星GRUS︱3」にはニコン製の望遠鏡が搭載される。中村氏は「高頻度な〝中分解能〟という強みを生かし、新たな社会インフラとして地球規模の情報収集や企業の意思決定を支えたい」と語る。 

 この7機体制による「衛星コンステレーション」(観測網)が実現すれば、北緯25度以上の地域において、同一地点の観測頻度が「従来の2~3日に1回から1日1回に向上する」(同)。しかも、1日に最大230万平方キロを観測し、「日本の国土のほぼ全域を毎日撮像できる」と中村氏は強調する。 

 これが可能なのはニコンの技術力があるからだ。同社は創業直後の1931年に東京科学博物館に天体望遠鏡の国産化第1号と言われる「2㌢屈折望遠鏡」を納入したことを皮切りに、コア技術である光利用技術を磨いてきた。同社社長の大村泰弘氏は「1971年にアポロ15号に搭載するカメラがNASA(アメリカ航空宇宙局)に採用されて以来、宇宙からの様子を伝えてきた。提供した望遠鏡は、これまでの知見を生かし、高い光学性能を誇る」と話す。 

 宇宙ベンチャーと老舗光学機器メーカーとのコラボレーション─。アクセルスペースの超小型衛星の開発とニコンの持つ宇宙望遠鏡の開発ノウハウが融合することにより、羽田空港に並ぶ航空機の種類も識別できるほどの高精細さを実現する。撮影頻度や撮影範囲が広がることに加えて、画像もより鮮明になるため、国産の人工衛星として国防にも活用予定だ。 

 実際、中村氏は緊迫するホルムズ海峡に代表される中東情勢を念頭に「衛星から見るというニーズが高まっている」と話す。海外の衛星事業者が安全保障向けの「高分解能」に注力する中でも同社はそれとは一線を画した広域を一度に撮影できる「中分解能」に特化。画像撮影などへの制約がかかりにくい中分解能の利点と、国産という強みを生かして事業展開していく。 

 宇宙を普通の場所に─。アクセルスペースのビジョンだ。中村氏は東京大学の大学院で手のひらサイズの超小型衛星の開発に参画。それが起業へとつながる。今回の7機体制によって水中にある藻場や沿岸地形などのモニタリングも可能になり、金融や環境、不動産といった分野への展開も考えている。 

 課題は量産化だ。中村氏も7機同時製造の過程で個体差を調整する「量産化の壁」に直面したと振り返る。宇宙ビジネスは世界規模での激しい競争が始まっているだけに、日本のものづくりの底力を社会実装へつなげる〝コーディネートの力〟が試されることになる。

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