AIエージェントの進化により、業務システムの開発は誰でも担える時代に入りつつある。一方で、作った後の「育てる」「守る」「止める」は誰が担うのか。
サイボウズとアイ・ティ・アール(ITR)は4月16日、都内で「AIエージェントで“つくる人”は増える。では“育てる/守る/止める”は誰が担うのか? - 成果を生む「推進体制」の設計論-」をテーマにした対談を行った。対談は、サイボウズ エンタープライズサクセスフェローの倉林一範氏、ITR プリンシパル・アナリスト甲元宏明氏の2人が市民開発と内製化の現在地を5つの視点から議論した。
今回の対談は、サイボウズがアプリケーション開発に関する調査を実施し、調査結果を踏まえたホワイトペーパー「市民開発のビジネス価値と成果獲得の秘訣 ~推進体制の適性化と『AI × ローコード/ノーコード』の活用~」を公開し、ITRがサイボウズからの依頼にもとづき、客観的な調査・分析を行った結果をまとめたという経緯がある。
サイボウズ エンタープライズ事業本部服本部長の池田陽介氏は「市民開発は単なるツール導入ではなく、組織のケイパビリティを高めることが重要。市民開発の成功は特定のテクノロジーに依存せず、その取り組み自体に価値があります。IT部門では従来のシステムから現場部門を支えるコーチやアーキテクトへの役割転換が必要になります」と述べている。
内製化・市民開発が「進む企業」と「止まる企業」を分ける違い
最初の論点は「内製化や市民開発が“うまくいってる企業”と“止まる企業”の差はどこにある?」だ。以下から対談を見ていこう。
甲元氏(以下、敬称略):ガバナンスや制度を整えて、IT部門だけでなく企業全体でITの価値を理解している企業と、IT部門に頼らずに自律的に活動している企業が該当します。
倉林氏(同):うまくいってる企業は、市民開発を理解して適切なゴールを設定しています。内製化と市民開発は似た言葉ですが、内製化の一部として市民開発の活動を継続していくものです。
市民開発は業務部門が自ら発案してシステムやアプリを作ることから、IT部門やエンジニアリング部門の拡張とは異なり、その違いを意識したうえで会社の中で市民開発を位置付けていくことができるとうまくいきます。自律型であると、課題感がかなりクリアに認識できます。
甲元氏:ローコード/ノーコードのツールを使えば1日でアプリができるものの、IT部門に相談したら意思決定に時間がかかるということがあります。AI時代を迎えているからこそ、スピード感が必要ですがなかなか思うようにいかないことがあります。
市民開発と内製化はどこまで広がる?普及を左右するボトルネックとは
続いての論点は「企業の内製化や市民開発の普及・拡大はどのように進むのか?もしくはボトルネックは?」となる。
甲元:以前から日本の企業は内製化せずに、外部のSIerに任せることが多いです。しかし、当社の調査によると、大企業から中小企業も含めて、約8割の企業が内製化を進めたいと考えており、それは正しいことです。
また、市民開発はIT部門以外の組織が主体的になって開発することを指します。調査において市民開発に使うツールの1位はChatGPT、2位がAzure AIです。そのため、内製化や市民開発が飛躍的に拡大していくことは間違いありません。
ボトルネックに関しては、オーナーシップとガバナンスが過度に強い企業はIT標準が決まっています。そのため、現状の制度や標準に縛られて身動きできなくならないように、最小限のガバナンス、コンプライアンス、セキュリティなどのルールは決めるべきですが、開発の方向性は市民開発の現場に任せるべきです。
倉林:日本の組織風土と市民開発は相性が良いと感じています。製造業におけるQC(品質管理)活動が、その一例ではないでしょうか。チャレンジを推奨・賞賛する風土が重要です。
市民開発に意欲的な企業でも、人材育成や環境を整備したけど実践されないという課題をよく聞きます。組織的にチャレンジを推奨するような風土がなければ、うまくいかないと感じています。そのため、ローコード/ノーコードのツールやAIを活用して、社員の方の自律性を高めていくことがポイントになります。
AIで誰でも作れる時代に問われる「責任の所在」とガバナンス
次の論点は「AIで実装は容易に。では“責任の所在”は?」だ。
甲元:基本的には市民開発に取り組む組織がすべての責任を持つべきです。中途半端にIT部門に頼ると成果が出ないことも調査で明らかになっている一方で、自分たちで責任を持つ組織は成功しています。
そのため、覚悟を持ってセキュリティも含めて運用し、最終的なチェックをIT部門にしてもらう形が望ましいです。
倉林:最近ではAIで簡単に作ることができることから、自分たちで責任を持つ組織が多くなっています。AIのモデル開発や、それを用いたアプリケーションの作成・展開、利用者とそれぞれの階層がありますが、最後は人間が責任を持つことが適切です。
一方で「AIに言われたから」という形で自分たちの考え方に影響を受けている部分もあり、AIの倫理観と人間の責任感を切り分けることができないか?とも思います。
市民開発に話を戻すと、IT部門が提供するツールを使ったら業務がうまくいかないという場合もあり、同様に「AIが言ったから業務をこのようにした」ではなく、AIに相談しつつ自分たちで考えるというリテラシーが必要じゃないかと考えています。
AI時代の開発で重要になる「課題の抽象化」と業務再定義
4つ目の論点は「開発は『“作る”より“課題の抽象化と再定義/業務の分解”が必要になる』ということに対する見立ては?」となる。
甲元:何を変え、どこにイノベーションを求められるのかを考えたうえで、作り変える箇所は作り変えるための業務の分析が必要となります。また、課題についても本質的な部分を見極めることが重要です。
倉林:たとえば、手作業による伝票処理のシステムを構築するときは、伝票の形や入力項目、どの程度の速度で処理するかなどをビジネスロジックに置き換えてプログラミングなどを行います。
最近ではロジックの部分はほぼAIで代替できてしまうため、伝票処理がなぜ必要なのか、時間が短縮されて何が起きるのかということを人間は考え、目的を設定する必要があります。
AI時代にSIerの価値はどう変わる?「人月モデル」からの転換点
最後の論点は「SIerの役割はどう変わる?人月が減るなら何で価値を出す?」だ。
甲元:本当に変わってほしいと心から願っていますね。たとえば、ラーメン屋を始めたオーナーでラーメンが嫌いということはないですが、IT業界でITが好きという人は非常に少ないと感じています。そのため、市民開発やユーザー企業のIT部門は頑張ってほしいです。
うまくAIを使えば100人月のプロジェクトはやらなくなります。というのも100人のSESのエンジニアより1つのAIは指示を聞いてくれますし、AIエンジニアであれば24時間働けます。多くのエンジニアが関わるビジネスが消失していくのは必然であり、日本の企業やビジネスが前に進まないと感じています。
SIer自体が日本固有のものでもあるため、変わってほしいです。ユーザー企業は責任を持って取り組んでほしいです。SIerは素晴らしい人材を多く抱えているので、ユーザー企業の立場になり、業務に踏み込み、さまざまな提案を行い、AIを起点に価値のあるビジネスを生み出してほしいです。
倉林:現在、2021年のDXレポートで触れられていた価値共創を実践する段階を迎えていると肌で感じています。単にユーザーを支援するのではなく、いかに共同で価値を作り上げるかが肝要です。
“作る”部分に関してはテクノロジーが進化してAIで容易に実行できる段階になっているため、SIerやITのプロは実体験を持って、ユーザー側にはない辛い体験や失敗談などを共有すべきと考えています。
以上が対談の内容だ。AIによって開発のハードルが下がる一方で、企業にはこれまで以上に主体性と責任が求められるようになった。市民開発や内製化は単なる効率化の手段ではなく、組織文化やガバナンスの在り方そのものを映し出すだろう。SIerを含めた関係者が「誰が価値を生み、誰が責任を持つのか」を再定義できるかどうかが、AI時代の競争力を左右する分水嶺となりそうだ。







