宇宙航空研究開発機構(JAXA)は3月5日、X線分光撮像衛星「XRISM」を用いて、爆発的に星が誕生する合体銀河の中心で超大質量ブラックホール(SMBH)が活発化し始めた天体「IRAS 05189-2524」を観測した結果、SMBH近傍から光速の約7.5%、10%、14%という異なる速度で飛び出す複数の弾丸状の「超高速アウトフロー」を検出したと発表した。

また、この超高速アウトフローが運ぶエネルギーは、銀河全体に広がる低速な分子の風を100倍以上も上回っており、銀河の進化を左右し得る極めて強力な風であることが示されたことも併せて発表された。

  • 合体銀河の中心で、活発化し始めたSMBHのイメージとResolveで観測されたX線スペクトル

    (左・右上)爆発的星形成が続く合体銀河の中心で、活発化し始めたSMBHのイメージ。(右下)Resolveで観測されたX線スペクトル。超高速アウトフロー中の鉄イオン吸収線が、光速の約7.5%(zone 1)、10%(zone 2)、14%(zone 3)という異なる速度に対応して、ドップラー効果により分離して検出された。(c)JAXA(出所:XRISM公式サイト)

同成果は、東北大大学院 理学研究科の野田博文准教授、同・大学 学際科学フロンティア研究所の山田智史助教、JAXA 宇宙科学研究所の小川翔司研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する天体物理学を扱う学術誌の速報版「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

宇宙に存在する大半の銀河の中心には、太陽質量の数百万倍から数十億倍に達するSMBHが存在すると考えられており、銀河とSMBHは互いに影響を及ぼし合う「共進化」を遂げてきたと推定されている。この共進化を理解するための鍵を握るのが、SMBHが周囲から大量の物質を飲み込む際に出現する「活動銀河核」だ。中でも、特に激しく活動するものは「クェーサー」と呼ばれ、母銀河全体の明るさを凌駕するほどの強烈な光を放つ。

さらに一部のクェーサーでは、中心のSMBH近傍から光の速さの数十%という相対論的な速度に達する「超高速アウトフロー」が吹き出していることがわかっている。この風は、銀河内のガスを加熱・飛散させることで星形成を抑制するなど、銀河進化に大きな影響を与えている可能性が指摘されてきた。

しかし、SMBHが成長する過程で、この風がいつ発生し、どの段階から銀河進化に影響を及ぼし始めたのかについては、未解明の点が多い。そこで研究チームは今回、爆発的に星が誕生する合体銀河の中心でSMBHが活発化し始めた段階にある天体「IRAS 05189-2524」を対象に、XRISMによる詳細な観測を行ったという。

巨大な銀河の多くは過去に合体を経験しており、特に合体過程にある銀河では、星間ガスの衝突・圧縮によって爆発的な星形成が引き起こされる。合体銀河内には大量のガスが存在するため、それが中心のSMBHへ流入することで活動銀河核が形成される。その過程で星形成が次第に抑制され、やがてクェーサーへと至り、最終的にはSMBHの活動も終息し、静かな楕円銀河へと進化していくとされる。IRAS 05189-2524は、こうした銀河とSMBHの進化プロセスにおいて、合体後期における爆発的星形成と活動銀河核が共存する、極めて重要な段階にある天体だ。

  • 銀河同士の合体に伴う進化プロセスを示した模式図

    銀河同士の合体に伴う進化プロセスを示した模式図。合体後期には爆発的な星形成とSMBHの活発化が同時に起こり、やがてそのフィードバックにより星形成が抑制され、クエーサーを経て老成した楕円銀河へと至ると考えられている。IRAS 05189-2524は、この爆発的星形成と活動銀河核が共存する合体後期の段階にある。(c)JAXA(出所:XRISM公式サイト)

XRISM搭載の軟X線分光装置「Resolve」による観測の結果、約7~9kevのエネルギー帯において、これまでにない複雑なX線スペクトル構造が検出された。これはSMBH近傍で生成されたX線が、超高速アウトフローに含まれるプラズマ状態の鉄原子と相互作用し、吸収線や輝線として観測されたものと解釈された。

  • XRISMによる観測データ

    XRISMによる観測データ。(上)Xtendが捉えた広帯域X線スペクトル。約1.5keVを境に、低エネルギー側は銀河全体、高エネルギー側はSMBH近傍の活動に由来することがわかる。(下)Resolveによる高分解能X線スペクトル。3つの異なる速度を持つ超高速アウトフローの吸収線に加え、SMBHを取り囲む超高速アウトフロー由来と考えられる幅広い輝線も明瞭に捉えられた。(c)JAXA(出所:XRISM公式サイト)

詳細な分光解析により、SMBH近傍から弾丸状の超高速アウトフローが四方八方に放出されており、うち少なくとも3つの成分が、光速の約7.5%、10%、14%という異なる速度で地球方向に分布していることが判明した。これらの総エネルギーは、銀河スケールで観測される分子の低速な風と比較して100倍以上も大きく、進行中の爆発的な星形成活動を抑制するのに十分な規模だという。超高速アウトフローが銀河進化に強く影響を及ぼす可能性が示唆されたとした。

さらに、軟X線撮像装置「Xtend」を用いた広帯域X線観測では、高エネルギー側と低エネルギー側のX線強度の比率を詳細に調査。その結果、SMBHが理論的限界に近い速度で大量の物質を飲み込んでいることが明らかにされた。この猛烈な物質の流入が、強力な弾丸状超高速アウトフローの生成を促している可能性が高いとしている。

今回の研究は、銀河合体によって爆発的な星形成が進行し、クェーサーへと進化する前駆段階において、銀河進化に強く作用するMBH近傍からの強力な超高速アウトフローを直接捉えた画期的な成果とする。IRAS 05189-2524では今後、SMBHの活動激化に伴い星形成が抑制され、クェーサー段階へと移行していくことが予想されるとした。

今後はXRISMに加え、2037年打ち上げ予定の欧州宇宙機関(ESA)主導の国際X線宇宙望遠鏡「NewAthena」などの次世代計画により、合体初期からクェーサーに至るさまざまな段階での観測が進む見込みとする。これらを系統的に調査することで、SMBHと銀河の共進化における物理メカニズムがより包括的に解明されることが期待されるとしている。