農林水産大臣・鈴木憲和の「強い経済をつくる!」「第1次産業が稼げるものにならなければ、この国の地方創生というのはあり得ない」

「2024年の夏に、スーパーの棚に米がないという、あってはならない事態になりました。要因はわれわれが需要の見通しを誤ったことにあります」と語る農林水産大臣の鈴木憲和氏。今後、「フードテック」を1つ目の矢とし、最新テクノロジーを駆使した植物工場、陸上養殖で食の分野を日本の稼ぎの柱の1つにする。「第1次産業がきちんと稼げるものにならなければ、この国の地方創生というのはあり得ない。その視点をしっかりと持ち政策をやっていく」と政治家としての矜持を語る。今後の日本の農政は?

 今後の農政の基本方針は

 ─ 高市政権がスタートしてから支持率も高い状態で来ていますが、改めて大臣就任の抱負を語ってくれませんか。

 鈴木 大臣就任日、今シーズン1例目の鳥インフルエンザが北海道で発生しまして、大変な緊張感の中でスタートしました。

 第1次産業の農林水産業の現場というのは、人口減、少子高齢化の中で非常に厳しい現実があります。その中で、国民の皆さんが少しでも納得感のある形の農林水産行政を実現したい。

 また、われわれ農林水産省は「猫の目農政」と言われてきました。方針が1年ごとに変わってきたことについて、自治体の皆さん、政策の対象である生産現場の皆さんには大変違和感を抱かせてしまっているので、そういうことのないようにしたいと思います。

 そして、消費者あっての農林水産業ですから、生産現場の現状をご理解もいただきながらさまざまな方のご意見を聞き進めていく考えです。2024年の夏頃から、スーパーの棚に米がないというあってはならない事態になりました。要因はわれわれが需要の見通しを誤ったことにあります。

 これについてはしっかりと反省し、もう2度とああいう事態は生じさせません。そのために、生産量の把握と需給の見通しを実態にあった精緻な形に変えていきます。それだけでもかなりのことが変わるはずです。

 コメは主食ですから、いざという時の備蓄米の運用方法もこれから変えていきます。この2点によって、わたしが大臣としているうちには棚にコメが並ばないという事態にはさせません。

 ─ 改めてですが、日本の大きな課題でもある地方創生は農政とも絡みます。農水省の政策に対する基本的な姿勢を聞かせてくれませんか。

 鈴木 農林水産業は、日本の良さそのものと言ってもいいと思います。日本は北海道から沖縄まで日本は南北に長く、山がちな地形で標高差もあります。こうした北から南まで気候も含めた多様性が日本の地域そのものですし、観光や食も含めて日本の魅力になっています。

 それをまさに形づくっているのが、農林水産業という産業であるということです。

 ですから、第1次産業がきちんと稼げるものになり元気にならなければ、この国の地方創生というのはあり得ません。その視点をしっかりと持ち政策をやっていきたいと思っています。

 もう1つは、全ての田畑で生産できるような政策をやろうと。

 ─ それは小規模から大規模までという意味ですか。

 鈴木 そうです。これまで農業の条件の良い地域は経営として成り立ちやすく大規模化をすればいいということで、さまざまな政策が講じられてきました。しかし、条件が悪い中山間地域は支援が足りませんでした。人手がかかる場所ですが、そこに対する政策というのは、もう少し充実をさせていきたい。

 高市総理がいつも言っておられるのは、今まではこうだったからこうですという発想ではなくて、本当に現場の皆さんにとって大事だと思ってもらえることを、思い切ってやろうではないか。

 そのための責任ある積極財政ですから、私たちの分野ではその視点をもって取り組みをしたいなと。

 ─ とりわけ中山間地となると生産性がどうしても低くなってしまいますが、それに対する政策、あるいは、いい参考例があればあげてくれませんか。

 鈴木 今まではどういう考え方の政策かというと、生産条件が不利な中山間地域は、不利な部分のコストを埋めますという支払いの仕方をしていました。しかしこれは、経営がやりやすいというところまで行っていなかったと。

 ですから、中山間でやった方が経営として成り立つし、そこに暮らすことができるというところまで持っていくような政策を充実させないといけないと思っています。

 例えば、スマート農業もある程度の基盤整備さえできれば、農地規模の大小に関わらず成立するという世界もつくらないといけないと思います。

 企業の農業参入は青森のリンゴに好事例

 ─ 民間企業がもっと農業に参加しやすくすべきという声もありますが、これについてはどう考えますか。

 鈴木 ええ。現状では農地はリースという形で、どんな方でも農業をやることは可能です。そこで生産した農産物を使って、加工までしていただくというような食品産業の方々が関わっていただく場合、さらに参入しやすい形になっています。

 わたしが最も大切だと思っているのは、上場企業も含めて多くの皆さんに、この農林水産業の分野に入ってきていただくこと。実際参入していただいた際には投資を回収できるところまで、われわれも一緒にやらせていただきたいと思っています。

 例えば、リンゴの産地の青森県では、高密植栽培といって、一列に苗木を細かく間隔を狭めて植えるということをやっている企業があります。

 この方法だと木が真っすぐに伸びるため、剪定もわかりやすいということで、誰でもそこに参入ができますと。生産効率が良いので、10㌃あたりの単収は通常の約2倍です。

 初期投資はかかりますが、こういった生産性が圧倒的に高いというモデルが、今かなり広まってきています。実は、そこに食品企業ではないデベロッパー企業がこのリンゴに着目し参入してくれています。

 彼らとしては、そこに投資をしてもコストの回収も含めてできるとふんだからチャレンジをしてくださった。これはすごく希望が持てる事例だと考えています。

 ─ 生産性が上がれば輸出も含め可能性が拡がってくると。

 鈴木 おっしゃるとおりです。実は日本のリンゴの輸出は明治27年から始まっていて非常に長い歴史がある。ですから、こちらから売り込みに行くのではなく、海外から青森まで買いつけに来てもらっているという、この理想のカタチがもう出来上がっているのです。

 他の果樹は生産面積が減少する中、そういう効率化をはかって生産性が上がることで、青森のリンゴは踏みとどまっているんです。もうけが残るので、新しい参入者も来てくださる。国内で競合せずマーケットは広いという世界が既にできているのがリンゴだと思っています。

 ─ 世界的にも日本の農産物は美味しいという評価がありますね。

 鈴木 ええ。世界最高レベルです。そして大事なのは、なぜ日本産の農産品の評価が高いかです。これは間違いなく、日本の経済を支えてきてくださった自動車産業や、ソニーなど、日本の製造業に対する世界からの信頼があるからです。日本人は安心をして、良い仕事をしてくれると。

 この上に、今、日本産の農林水産品も付加価値を認めてくれているというものがあると思います。

 あとはそれをきちんと日本全体の稼ぎにしていくという観点が大事ですから、わたしたちはこれから植物工場、陸上養殖に注力していきます。この分野でのテクノロジーは、恐らく日本が世界で一番です。

 食の分野は自動車ほどの経済規模までは難しいとしても、日本の稼ぎの柱の1つになっていくことができます。日本成長戦略本部の中で「フードテック」は1つ目の矢になっていますし、そういう未来をつくりたいと考えています。

 そのためには、この分野の人材育成にも今後力を入れていきたいと思います。

 食料自給率38%、国の農業のあり方をどう持っていくか

 ─ 食料自給率が38%と言われ先進国で最低と言われますが、今後の大きな国のビジョンをどう描いていますか。

 鈴木 農林水産省の公式見解とは少し違うかもしれませんが、わたしの意見で言えば、日本の食生活は大変豊かであり、これを楽しめているのは輸入品があるからです。

 これにより日本の今の食文化が成り立っていますが、その結果としての食料自給率が、わたしはこの38%だと思っているんです。

 一方で、国家として考える場合、食料自給率は100%を目指すべきです。そのときに、海外から輸入された小麦に頼るのではなく、国産の米を食べてくださいというのが一番自給率が上がるやり方ですが、今の豊かな食生活とのバーターになってしまうと。

 そうではなくて国産品のマーケットを外につくる、要するに輸出を拡大していくということです。農林水産物・食品の輸出額目標は5兆円を掲げている中、今は1・5兆円です。

 輸出は自給率カウントに含まれますから、これが拡大していくことで自給率も向上します。特にわたしが大事だと思っているのは生産額ベースの自給率でして、目標69%に対して現状64%となっています。

 ─ 基本方針は増産で、非常時には国内に振り向けると。

 鈴木 はい。もう1つ課題意識を強く持っているのは外食産業です。わかりやすく言えば、スターバックス、マクドナルドなどに匹敵するような日本のグローバル外食産業が、そこまで多くは育っていないと。

 もちろん牛丼チェーン各社や丸亀製麺など、挑戦していただいている企業はいくつかありますが、政府はもう少しこの外食産業の皆さんとも連携を固めて、グローバル展開を図っていくことが重要ではないかと。

 その中で日本産の食材を使ってもらうということも大事だと考えます。

 政治家を志すきっかけは

 ─ 大臣は初当選の30歳から5期目ですね。政治家になろうと思った動機はなんですか。

 鈴木 やはり一番大きかったのは、役人としての限界を感じたということです。役人は自分の担当がありますから、担当外はタッチできません。

 もう1つは、民主主義で選ばれた大臣が選挙で問うた公約は、行政機関で執行しなければなりません。しかし、時には民主主義で人気があっても、中長期で見るとその政策は違うのではないかと思うこともあるわけです。

 それでも役所にいたら、それをやらなければいけない。役人として自分が違うと思ってもやらなければいけないのだとすれば、それはわたしの正義ではないと思ったというのが1つです。

 それから農林水産大臣はコロコロ代わりますから、役人の方もやる気がなくなってしまいどんどん辞めてしまいます。給料も安く、これでは霞が関から良い人材が流出してしまいます。そんな国は良くなりませんから、これも変えたいことの1つです。

 生産現場の皆さんは、霞が関で考えられた政策を現場に押しつけられているという感覚が強く、これも変えていきたい。

 例えば、北海道の大規模農家で必要なことと、中国地方の小さな田んぼで求められていることは違いますから、こういうことも、もう少し考えられる国にしたいと。

 ─ それが政治の役割だと。

 鈴木 ええ。最後にもう1つ、これは小選挙区の区割りを見ていただいてもわかりますが、今の日本は人口の多いところに政治の力も数も偏っています。

 しかし本当の意味で、日本という国をどういうふうにして、将来次世代にいい形で残していきたいかを考えた時、それは北海道から沖縄まで地域が豊かであるということだと思います。

 農林行政の場だけに限らず、地方自治の在り方も含めて、わたしは今の交付税措置の在り方で良いのだろうかと思うことが多くあります。いわゆる東京一極集中による地域格差です。このことも考えていきたいと思ったのが、大きな動機です。

 一番問題意識があるのは、例えば道路1つとってみても、東京の道路は穴1つありません。非常に綺麗でメンテナンスコストもかけられています。

 一方、私の地元・山形に行ってみれば、積雪量が多く除雪しますから、道路はすぐ傷んでしまいボロボロです。人は生まれる場所を選べませんから、果たしてこれは公平なのだろうかと。

 そういう面も含めて、フェアな国にしていかないといけないと思っています。

 東京は、もちろん上場企業の本社が多数ありますし、力もあって今後も成長していくことも大事ですが、そろそろ東京に全部の資本が集まるというのは限界なのではないかと考えています。

 これをぜひ、『財界』を読んでいらっしゃる企業の皆さんとも一緒に変えていきたい。その最たる例が、私は第1次産業だと思っています。