
「経営トップは、自分が社長、会長を務めている期間だけいいという考えではいけない」─ヒューリック会長の西浦氏はこう強調する。今期も増益増配を見込むなど業績は堅調だが、西浦氏の視線は常に「10年後」を見据えている。従来のビル事業にとどまらず、国際航空物流拠点やデータセンター、新たな子育て拠点、アリーナ事業、さらには宇宙産業にまで、会社の「次」を考える経営とは─。
労働人口が減少する中で企業はどう生きるべきか
─ 今期も増益増配の見通しを出すなど業績は堅調ですが、今経営をする上で意識しているのはどういうことですか。
西浦 利益の絶対額、格付け、PBR(株価純資産倍率)、SDGs(持続可能な開発目標)に関する指標などをバランスさせることを意識しています。ただ、最近は本当にバランスが取れていることがいいことなのか、そろそろ崩す必要があるのかといったことも考え始めています。
また、今後を考えると、従来の流れを踏襲して経営をしていたのでは会社は危機を迎えかねません。今後10年、15年で生産年齢人口は1000万人以上減少すると見込まれています。現在の東京都の人口が約1300万人ですから、そのくらいの働き手がいなくなると。
その中をどう生きていくかというのは、どの会社も抱えている課題です。その解決に向けて、海外展開をするというのは1つの方策ですが、これは我々と違って自己資本が大きい会社が主に取る手法ですが、それでも様々なリスクがあります。
当社も少しずつ海外への投資金額を増やしていますが、それだけで先々の国内のマイナスをカバーできるかといえば足りない。やはり新しい事業を考えていかなければならないと考えています。
─ 国内で新しい事業は開拓できると。
西浦 そう思っていますし、そうしなければ会社はもたないのではないかと思うんです。先程お話したように、この10年で考えても労働人口が減ってきますし、2035年プラスマイナス5年で南海トラフ地震が起きる恐れもあります。
また、異常気象が続く中で脱炭素を目指す必要もある。そうしたことに取り組みながら、次のことを考えていかなければいけないというのが難しいところです。
単に収益のことをだけを考えていたら、もっと上げることはできると思います。しかし、我々は先々を考えて、当社は2029年までに、約250棟の保有物件のうち、約100棟を再開発、建て替えを進めるという方針を打ち出しています。全てのビルを震度7に耐えられるようにしようということです。
また、南海トラフ地震に関連して富士山噴火の可能性も言われ始めています。東日本大震災以降、津波の恐れからビルの電力系統を屋上に持っていくケースが増えていますが、噴火による火山灰が電気系統に入ったら、動かなくなってしまいますから、その対応を準備しています。
─ ヒューリックは脱炭素に向けた取り組みも手を付けるのが早かったですね。
西浦 ええ。当社は事業活動で消費するエネルギーを再生可能エネルギー100%にすることを目標とする国際的なイニシアチブ「RE100」の目標をすでに達成していますが、2029年には全てのビルの電力を自然エネルギー由来にするべく取り組みを進めています。
当社は旅館やホテル、ショッピングセンターを保有しており、夜間に電力を必要としていますから、今年から蓄電池への投資を始めています。蓄電池からの電力を自社で使用しながら再エネ化を実現し、今後は電力市場との取引を行う収益事業にしていく方針です。
「不動産業の商社化」を1つのキーワードに
─ 電力の確保は今後の日本にとって重要な課題ですね。
西浦 そう思います。当社では日本のことを考えて、データセンターも手掛けています。データセンターは、人が減っても賃料をいただける、唯一の不動産事業です。25年9月には東京都日本橋に都心型データセンター「ヒューリック日本橋センター」を竣工しました。
今他社が注力しているような大型のものではなく、いざと言う時にお客様がすぐに行ける都内の立地で、かつインターネットエクスチェンジのある大手町へも至近ということを1つの目安にしました。すでに当社は4カ所の土地を確保しています。
─ データセンターの稼働には電力が不可欠ですね。
西浦 電力会社からすると電力供給、特に通電の部分には時間とお金がかかるようですが、データセンターを広げていこうとすると、これが大きな課題となります。
今、経済安全保障が言われていますが、その中でデータセンター、電力確保はプライオリティを置くべき問題だと考えます。
選挙があると、国民に給付金を配るというようなバラまきの話になりますが、そうではなく、10年後に日本がどういう形で強くなるのか、その時に企業をどうサポートするのかという観点で議論をしていただきたいと思います。
─ 事業の姿がどんどん変わってきていますね。
西浦 表現として正しいかはわかりませんが、今考えているのは「不動産業の商社化」です。
例えば、当社は24年に個別指導塾を展開するリソー教育を子会社化しました。
当初は「人口が減少する中で、なぜ塾に投資するのか」などと言われましたが、今、リソー教育、コナミスポーツと東京都中野区や神奈川県横浜市で展開している学習塾や幼児教室、小児科クリニックなど、子育てに必要な施設を集約した「こどもでぱーと」は非常に人気となっており、子育ての新たな拠点という評価を得ています。
様々なところから出店して欲しいというお声がけをいただいているほどです。まだ正式には決めていませんが、「こどもでぱーと」は今後、20カ所ほどの展開を考えており、すでにその半分ほどの出店は目処がついています。
今後、子供が減る中で塾の自然淘汰が進むと見ていますから、さらに塾をグループ入りさせることも視野に入れています。
─ M&A(企業の合併・買収)が奏功した事例ですね。
西浦 他にも、不動産販売を手掛けるレーサムを子会社化しましたが、すでに収益への貢献が始まっていますし、掘削工事を手掛ける鉱研工業を子会社化していますが、この会社は掘る技術と機械では日本有数の企業として評価されており、当社が展開している温泉旅館「ふふ」の温泉掘削を手掛けています。
また、25年10月には高齢者施設向け冷凍食品を手掛けるクックデリを子会社化するという発表をしました。
─ 食品事業の会社への投資を決めたと。この理由は?
西浦 高齢者施設では、食べることが1つの楽しみになってきます。
ただ、施設にとっては人手不足もあって調理の負担も大きい。その中でクックデリは、盛り付けや解凍のみで提供できる「完全調理済み食品」に特化して、全国約7000カ所の高齢者施設に提供している企業です。今後も需要が強いと判断しました。
当社が食品事業に投資するのは初めてのケースです。今回は株式を51%取得しました。
今後は先程の「こどもでぱーと」で出す子供向けの食事にも展開できると考えています。さらに今後視野に入れているのが病院です。病院でも朝昼晩の食事提供は大きな負担となっていますから、その解消に向けて、大きく需要が伸びる可能性があると見ています。
─ これまでのヒューリックになかった事業ですが、既存事業とのシナジーがありますね。
西浦 そうした視点で、複数のM&A案件を検討しています。
また、今着目しているのがリノベーションです。先程お話したように、現在当社では震度7に耐えられるビルへの移行を進めていますが、その基準をクリアするようなリノベーションを行える会社をM&Aする、あるいはそういった会社と共同でリノベーションを行うことが考えられます。
古いビルを取得して、それを完全にリフォームして売却する、あるいは自社運営するといった選択肢を持つことができます。
「10年後のヒューリック」を考え続けて……
─ ところで、これまで都心から離れた場所で展開してきた高級温泉旅館の「ふふ」ですが、25年11月には東京・銀座で「ふふ 東京 銀座」を開業しましたね。
西浦 この狙いは「ふふ」の入口にしようということです。日本のお客様、海外からのお客様、いずれにせよ、まず銀座の「ふふ」に泊まってもらい、その後日光や軽井沢、京都、奈良の「ふふ」にまた泊まっていただくことを目指しています。
日本料理店、鮨店を併設しており、宴席でも活用していただくことができます。また、来年3月には神奈川県三浦市に「ふふ 城ヶ島 海風のしらべ」を開業します。京急電鉄さんが所有する旧城ヶ島京急ホテル跡地を活用したものです。
─ プロバスケットボールチーム「アルティーリ千葉」の筆頭株主にもなっていますね。
西浦 スポーツを含むエンターテインメントの可能性を感じています。バスケチームに出資するだけでなく、25年7月には、千葉県立幕張海浜公園に2万人規模のアリーナを建設する計画を発表しました。
当社の資金で建設したアリーナを千葉市に寄付し、市の指定管理者として運営権を得る「負担付き寄付」という手法を検討します。これによって固定資産税が免除され、建設費高騰の中でもコストが削減できますし、営業権は当社が持って、収益事業にしていきます。
─ 千葉県成田市で日本航空と組んで国際航空物流拠点を建設するそうですが、この狙いは?
西浦 当社が成田空港から約10キロの立地に約45万平方メートルの土地を取得しました。輸出入の手続きが済んでいない貨物を関税なしで保管できる「保税倉庫」を始め、成田空港の一部機能を代替する物流拠点になります。総事業費は1000億円を超えると見ています。
─ いかに先を読むか、経営を担う上で欠かせない要素ですね。
西浦 それしかないですよね。ですから私は「10年後のヒューリック」をずっと作り続けてきました。私が社長に就任して以降、3回お示ししていますが、この17年間で30年間分の目標数字を達成しました。
今後重要なのは、どこまで事業としての広がりを持つことができるかです。今は、通常の執行に関しては多くを社長に担ってもらい、私は10年後のヒューリックを考えることを中心にしています。やはり経営トップは、自分が社長、会長を務めている期間だけいいという考えではいけません。
今は、先程お話したM&Aが少しずつ成果を出してきていますから、順調に進んでいるという手応えがあります。
宇宙産業にも目を向けて
─ 手掛ける領域が不動産にとどまらなくなっていますね。
西浦 ええ。さらにもう少し先のこととして、宇宙産業にも目を向けています。今、日本で宇宙産業で上場しているのは4社です。そのうち、宇宙ゴミの問題解決を目指すアストロスケール、小型衛星を開発・運用し、衛星データの活用を進めるシンスペクティブに出資しています。
宇宙産業に限らず、M&Aや出資を検討するにあたって、その企業の経営者との関係性を構築するのも、私の重要な仕事になっています。
─ 新卒、中途を問わず、入社を希望する人は増えているのではないですか。
西浦 ありがたいことに、入りたいという方は増えています。給与水準は高いと自負していますし、1人当たりのオフィス面積も広く、働きやすい環境を整えています。
そして何よりも、常に彼ら彼女らに新しい仕事を与えていくことが大事だと考えています。従来のトレンドだけで仕事をすることには意味がありませんから。
─ 男女の比率は今、どうなっていますか。
西浦 40歳以下だと五分五分です。新卒採用の際には、男女五分五分になるように採っています。ただ、40歳以上は新卒採用を始める以前の社員ですから、不動産業は男性が手掛けるものという時代の人たちです。その意味で、これから10年、15年で業界も大きく変わっていくのだと思います。