SMBC日興証券・吉岡秀二が進める提携戦略「米投資銀行との合弁で攻める」

提携を生かして 「デジタル富裕層」取り込み

「不確実性が高い中にあっても、株価はしっかりした動きをしている。投資家さんからの日本株への期待は強いと感じている。基調としては強い」─こう話すのは、SMBC日興証券社長の吉岡秀二氏。

 日本の株価は高値圏で推移している。2025年10月4日の自民党総裁選で高市早苗氏の就任が決まった後、日経平均株価は急騰。4万8000円台を付けたが、公明党の連立政権離脱で先行き不透明感も漂うなど、予断を許さない状況。

 多くの投資家が同じような投資戦略を取ってきていることもあり、プラスでもマイナスでも、何か大きなイベントがあると、相場が1つの方向に大きく動くというのは、過去にも経験していること。「こうしたことに対する警戒感は常に必要」と吉岡氏。

 リテール(個人向け営業)は、政府の「資産運用立国」の方針、足元の株高などを受けて、これまで投資をしてこなかった人も投資を始めるなど活況。だが、「まだ現預金が多いのが現実。個人金融資産は世界で2位だが、投資信託の保有は8位という状況。我々としては『国の豊かさ』の実現にどう貢献するかが問われる」(吉岡氏)。

「新NISA」スタート後に投資を始めたような層は、まだ資産額が小さく、ネット証券を利用しているケースも多い。こうした層は、なかなか対面証券を選ぶことは少ないが、例えば米国などでは改めて対面証券のアドバイスを求めるニーズが強まっており、日本にもその流れが訪れる可能性もある。

 同時に、40代から60代で一定の資産を持ち、日常的にスマートフォンを使いこなし、通常の取引はネットを活用しているが、時にはリアルでプロのアドバイスを欲する層を「デジタル富裕層」と規定。

 この層に対しては、三井住友フィナンシャルグループ、SBIホールディングスなどと共に新会社を設立。個人向け金融総合アプリ「Olive」の中で最上位に位置する決済・資産運用サービス「Olive Infinite」の提供を26年春から開始する予定。「中長期戦略として、しっかり育てていきたい」

 吉岡氏は改めて自社を「対面サービスが充実している証券会社として選ばれている」と定義。その役割を、さらに高度化することを目指す。

 その1つの施策が、米資産運用会社・ブラックロックが提供するポートフォリオ分析システム「Aladdin Wealth」を活用した「Nikko PRM(ポートフォリオリスクマネジメント)」。17年に導入し、顧客の資産管理を強化。24年6月には、機能をバージョンアップした「Nikko PRM Prime」の提供を開始。

 前述のように、今も日本の個人のコア資産は現預金。だが、金利が付く世界が戻り、インフレ傾向が強まる中、資産運用の必要性は高まっている。例えば年金の世界でもGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が資産を大きく4つに分けて分散投資をしている。

「個人投資家が、機関投資家のような考え方でベンチマーキングを考える時に、『Nikko PRM Prime』は非常にいいツール。このツールによって、お客様の金融資産全体にアクセスでき始めている」と手応えを感じている。

グループ一体で 資産運用を担う人材育成

 個人向け営業の手法についても、SMBC日興証券は22年から、営業スタイルを従来型の、株式などを売買したことによる手数料で利益を得る形から、顧客の資産積み上げを成果として考える「資産管理型営業」に大きくカジを切っている。「お客様の資産を増やす方向に、我々のインセンティブが働くようになっている」  

何と言っても、SMBC日興証券は三井住友FGに属していることもあり、銀行の顧客の中には資産運用を含めた総合金融サービスの提供を受けたい、あるいは受けた方がいいと思われる人もいる。そうした層の人々に、どうサービスを届けるかも問われる。

 大事なのは、そうしたサービスを担う「人」をどう育てるか。そこで三井住友FGは25年入社の新卒採用から、三井住友銀行、SMBC日興証券で個人向け営業に携わる人材を一括採用する「グループリテールコース」という採用コースを設置している。

 グループで資産運用サービスを展開する上では、SMBC日興証券のプラットフォームを使った方がいいケースも多い。そして、証券ビジネスをわかっている人材がいなければ、仕組みがあってもうまく機能させることはできない。その意味で、グループリテールコースでの採用と育成は今後のカギを握る。

 もう1つ大事なのが、企業に務める人の資産運用をサポートする「職域ビジネス」。この分野は各社が注力している。「銀行も職域に向けたサービスを多く持っているので、それを含め、総合的に提供していきたい」(吉岡氏)

 その意味で、従来からある銀行からの紹介に加えて、前述のSBIとの連携によるデジタル富裕層獲得、さらには職域ビジネスの強化で、顧客との接点を総合的に増やしていく戦略。

米投資銀行との合弁で 日本株事業を強化

 23年8月に経済産業省が公正な企業買収のあり方を示した指針、「企業買収における行動指針」を出し、東京証券取引所が「資本コストや株価を意識した経営」を上場企業に要請して以降、企業は買収、資金調達などを活発化しており、SMBC日興証券への相談も増えている。「大多数のお客様が、いろいろな選択肢を考えている」

 25年上半期の国内証券会社のリーグテーブルで、SMBC日興証券は株式引き受け(ECM)、債券引き受け(DCM)、いずれも2位に付けるなど、実績を積んでいる。

 これをさらに強化するため、三井住友FGは、提携関係にある米大手投資銀行・ジェフリーズ・ファイナンシャル・グループに追加出資し、持ち株比率を14.5%から最大20%に引き上げることを決めた。

 そして27年1月には、SMBC日興証券が過半数を出資する形のジェフリーズとの合弁子会社、「SMBC日興ジェフリーズ証券」を設立し、日本株事業を統合する。新会社にはSMBC日興証券から400~500人が移る予定。また海外でも、日本企業に対する国際間のM&A(企業の合併・買収)や、グローバルなIPO(新規株式公開)関連でも協力を深めたい考え。

 三井住友FGにとって、投資銀行業務の強化は積年の課題。1998年には大和証券との合弁で投資銀行業務を手掛ける「大和証券SMBC」を立ち上げ、10年に渡って業務を続けたが、08年に合弁を解消。

 08年には、米シティグループから個人向け証券会社・日興コーディアル証券(現SMBC日興証券)を買収。ただ、法人部門は日興シティグループ証券(現シティグループ証券)という別会社になっていたため、SMBC日興証券単独で投資銀行業務の強化を急いでいた

。  吉岡氏は米シティと旧日興證券との提携の際、日興ソロモン・スミス・バーニー証券の立ち上げに携わった経験を持つ。今回のジェフリーズとの合弁事業の展開では、過去の提携との違いをどう捉えているのか。

 吉岡氏は「シティの時とは建て付けが全く違う」と話す。当時の日興證券は、シティからの出資を受け入れる立場だった。加えて言えば、大和証券SMBCは大和60%、三井住友40%という出資比率で大和が過半を占めていた。今回は、三井住友FGがジェフリーズに出資するという立場であり、合弁会社も過半をSMBC日興証券が持つという形で、立ち位置が違う。

「日本株事業は合弁に切り出すが、三井住友FGの中の証券事業体としての一体感を失わないようにしたい。そのための組織的、人事的運営については、しっかり設計していきたい」

 三井住友FGとしては、SMBC日興証券、SMBC日興ジェフリーズ証券との連携を進めるための「中間持ち株会社」の設立も検討しており、吉岡氏も「選択肢の1つ」と話す。

 吉岡氏は経験上、こうした提携、合弁を成功させるために必要なことは何だと考えているのか。「どちらかに片寄せするのではなく、お互いの文化を認め合う、リスペクトし合うこと」と吉岡氏。

 その意味で、直近の三井住友FGの新たな戦略の打ち出しの中には、ほぼ必ずSMBC日興証券の姿がある。日本において、「資産運用」の重要性がますます高まっていることの表れと言っていいかもしれない。

「証券事業の重要性が高まっているのだと思う。我々がもっと力を発揮できると期待されている表れではないか。銀行と証券との相互理解、連携の熟成も進んでいる」

 その意味で、三井住友FGとして顧客の資産運用ニーズを掴む上で、SMBC日興証券の重要性が増している。吉岡氏に課される責任も重いものがある。

「企業文化」をいかに 醸成していくか

「今年度は中期経営計画の最終年度と仕上げの年にあたる。事案を受けて、これまで経営基盤の強化を進めてきたが、今後は成長戦略を進めていく必要がある」と吉岡氏。

 SMBC日興証券では、22年に起きた「相場操縦問題」を受けて、この3年間、管理体制、企業文化の再構築を進めてきた。管理体制については、取締役会を含めたガバナンス機能の強化を進めてきたが、この企業文化への取り組みについて吉岡氏は「終わりがない」として、その手を緩める考えはない。

 3年前のことだが、時間の経過もあって、事案そのものを知らない社員も当然ながらいる。「人の記憶や意識は時間の中で変化する。定期的に思い出すことが大事。常に危機感、緊張感を持って取り組むという姿勢を続けないといけない」

 健全性を保つためにも、しっかりした企業文化が必要。「世の中の方々に『SMBC日興証券の人はしっかりしているね』と言っていただくようにならなければいけない。文化は自己評価ではなく、他者が評価するもの」

 その一方で、成長に向けた手を打つことも重要。「これまでも進めてきた施策は正しかったと思っている。次期中計ではさらに加速する。今後10年でお客様もテクノロジーも変化する。そこに向けて、ビジネスモデルを変革する」と吉岡氏。次期中計は、今後10年先を見据えた時の試金石となる。

 企業経営は常に、攻めと守りの両睨みではあるが、吉岡氏は24年の就任以来、守りを固めながら攻めを考えるという状況が続いてきた。

 吉岡氏は「こういう局面で経営に携わることはなかなかない。この間、1秒1秒を大切に考える時間だった」と、就任から現在までを振り返る。

 そして、メガバンクグループにあっては、証券としての戦略だけでなく、他のグループ会社とのバランスの中で戦略を打っていく必要にも迫られる。「グループの他の事業の大切さや難しさを実感しながら、世の中での証券業の広がり、AI(人工知能)を含むDXの変化などにもキャッチアップする必要がある。その意味でも1秒1秒が大切だし、今の環境は恵まれている」

 日本は30年以上にわたるデフレから、「金利ある世界」が戻り、緩やかなインフレの時代に入ろうとしている。吉岡氏はこの変化をどう捉えているのか。

「金利があるというのは成長しているということ。成長している世界と、そうでない世界は景色が違う」

 前述のように、資産運用が重要視される中で、既存の大手証券会社、ネット証券会社、さらには銀行なども含めて取り組んでおり、お互いの提携関係も含め、その境界が下がってきているように思われる。

 吉岡氏は「こうした環境下では、経営で差が付いてくるのだと思う。だからこそ、お客様第一という原点に戻ることが大事」と気を引き締める。

 どのサービスも、提携も、全ては顧客のためという原点を踏まえての経営が続く。