はじめに

 生成AIを使えば、技術的な説明はもっとわかりやすくなります。これまで多くの技術者を悩ませてきた「複雑な概念の図解」という課題も、今やAIとの「対話」を通じて、誰でも直感的で「伝わる」ビジュアルに仕上げることが可能です。
 この記事では、そのための実践的なノウハウを、具体的な手順に沿って詳しくご紹介します。

最適な画像生成AIツールの選び方

 技術的なアイデアを形にするイラストや概念図を作成したい時、どのAIツールを選べばよいのでしょうか。画像を生成するAIツールには、画像生成に特化したAIと、ChatGPTのような対話型AIがあります。結論から言うと、概念図、イメージイラストやビジネス資料向けの図解・イラスト作成では、多くの場合、ChatGPTやCopilotといった汎用的な対話型AIが最適です。これは、対話の文脈を深く理解し、テキストベースの要件と矛盾しない論理的なビジュアルを作る能力に優れているためです。
 ただし、より専門的で芸術性の高いビジュアルが必要な場合は、特化型ツールが強みを発揮します。目的に応じてツールを戦略的に使い分けることが、質の高い成果物を生むカギとなります。

各ツールの特徴と最適な用途

 画像生成という側面から、それぞれのツールの特徴を具体的に見ていきましょう。

1. 汎用的な対話型AI(ChatGPT, Google Geminiなど)
 自然な対話形式で手軽に指示を出せるのが最大の魅力です。概念図、メリット・デメリットの比較図、シンプルな説明イラストなど、ロジックが重視されるビジュアル作成を得意とします。企画書や技術プレゼン資料のように、テキストが主体となるドキュメント内の図を作成する場合に最も適しています。  主なツール: ChatGPT、Microsoft Copilot、Google Gemini、Grok、Genspark

2.画像生成特化型AI(Midjourneyなど)
 Webサイトのキービジュアルや広告クリエイティブなど、人の心を動かす高品質で独創的なイメージが求められる場面で真価を発揮します。正確な図解よりも、アイデアのイメージを共有したり、アーティスティックな表現を追求したりするのに向いています。
 主なツール: Midjourney、Stable Diffusion

3.デザインプラットフォーム (Canvaなど)
 豊富なテンプレートとAIによる画像生成機能を組み合わせ、プレゼン資料やレポートのデザインを調整しながら、必要なイラストを追加できます。技術的な正確さよりも、視覚的なわかりやすさやデザインの一貫性を優先したい場合に有効です。
 主なツール: Canva (Magic Design)

 この記事では、多くの技術者やビジネスパーソンが直面するシーンで役立つ「汎用的な対話型AI」の活用方法に焦点を当てて、具体的なテクニックを解説していきます 。

生成AI利用の基本的な注意点

 生成AIをビジネスで安全に活用するにあたって、はじめに以下の2つのポイントは、必ず押さえておきましょう。

1.機密情報の取り扱い
 画像生成を指示するプロンプト(AIへの指示文)に社外秘情報(例:具体的な製品名、顧客名、技術仕様)を含めないこと。代わりに、抽象的な表現を使いましょう。

 ×:「A社向けの新製品『SmartSensor X200』の機能説明図」
 ○:「顧客向けの新型センサー製品の機能説明図」

 このように抽象化することで、情報漏洩のリスクを減らしつつ、AIの創造性を活用できます。

2.データ保存と学習利用
 入力したプロンプトや生成データがAIの学習に使われる場合があります。各ツールのデータ利用ポリシーを確認し、ビジネス利用ではデータ保護機能のある企業向けプラン(例:Microsoft 365 Copilot、ChatGPT Enterprise)を検討してください。無料プランでは機密性の高い情報を扱わないよう注意が必要です。

 後編では、より実務的な活用に向けた注意点をまとめています。

プロンプト作成の3ステップ

 それでは、具体的な手順を解説していきましょう。
 画像生成AIの品質は、入力されるプロンプトの質に大きく左右されます。そこで有効なのは、プロンプトを3つのステップで作成、改善する方法です。

(ステップ 1)プロンプトの下準備
 作成したい図について、ごくかんたんなプロンプトを作成します。そのうえで、AIに次のように指示して分析と質問を促します。

「作成したプロンプトを分析して、不明点があれば質問して」

 これにより、AIは指示に含まれる曖昧な点(例:「わかりやすい図」の「わかりやすい」とは具体的に何を指すか)や解釈の余地がある部分を特定し、明確化のための質問を返してきます。人間がそれに答えることで、指示の精度が格段に向上します。

(ステップ 2)プロンプトの改善
 明確化されたプロンプトに対して、さらなる改善案を要求します。

「より良い画像を生成するための改善点を具体的に3つ以上挙げて」

 AIは、以下のような観点から具体的な改善案を提示します。

  • 構図(例:要素を円形に配置してはどうか)
  • スタイル(例:アイコンを線画スタイルに統一する)
  • 要素の追加(例:各ステップの関連性を示すために背景に薄い矢印を追加する)
 人間はその提案を判断し、選択して採用、修正することで、プロンプトをより洗練させていくことができます。

(ステップ 3)プロンプトの適用
 最適化したプロンプトを用いて画像を生成します。ここで満足できないようであれば、プロンプトを修正して、再度作成します。必要に応じて、ステップ1、2を繰り返します。プロンプトをファイルに保存しておけば、複数のAIで試すのも容易です。

このアプローチが有効な理由

 では、なぜいきなり画像作成の指示をするのではなく、プロンプトを作成し、それを「評価」して「生成」というフェーズに分けるのか。その理由を、より実践的な視点から5つにまとめました。

1. AIの思考プロセスを分離できる
 一度に「考えて」と「作る」をやろうとすると、どちらも中途半端になりがちです。「まず考える(評価)」「次に作る(生成)」と分けることで、それぞれのタスクの質が上がります。これは料理に例えると実感できるでしょう。献立の考案と実際の調理を同時に行うより、別々にこなす方が効率的です。

2.自己批判の精度が上がる
 「もっと良くして」だけだと曖昧ですが、「改善点を3つ挙げて」と具体的に聞くと、AIは「配色が統一されていない」や「矢印の向きが不明確」といった具体的な提案をしてくれます。これは、AIを「批評モード」に切り替えることで、弱点の抽出に専念させているからです。

3.人間が主導権を握れる
 AIの改善提案リストから、人間が取捨選択できます。たとえば、AIが「背景を青にする」と提案しても、企業のブランドカラーが赤なら却下できます。これにより、意図しない改変を防ぎ、クリエイティブの主導権を握りながら、納得感のある結果を得られます。

4.段階的な改善ループを作れる
 「改善点の指摘→修正」を1サイクルとして繰り返すことで、品質管理がしやすくなります。大幅な修正をまとめて行うと、どこが良くなったか、悪くなったかがわかりにくくなります。少しずつ改善することで、変化を追跡できます。これは、プログラミングで小さな単位でテストを繰り返すのと同じ考え方です。

5.AIの創造性を引き出せる
 AI自身に改善案を考えさせることで、ユーザーが思いつかないような潜在的なアイデアを引き出せます。たとえば「時系列を表現するために時計のアイコンを追加してはどうか」や「対比を強調するために左右で色温度を変えてはどうか」といった提案は、AIならではの視点です。

 この3ステップのアプローチは経験則ではなく、認知科学における「メタ認知(自分の思考プロセスを客観的に見る能力)」の概念や、ソフトウェア開発における「リファクタリング(段階的な改善)」の手法と共通する、実証済みの効果的な方法です。

概念図・イメージイラストの作成

 ここからは、ここまでの技術的な概念をわかりやすく伝えるために、実践例を見ていきましょう。

実践例1:アプリに新機能を追加する際のメリット訴求イラスト

 企業が新機能を導入する際、その効果をビジュアルで訴求したい場面があります。たとえば、営業部門に「データ入力自動化機能」を導入したとき、これまで手作業で行っていた日報や顧客情報の入力が一瞬で完了するようになります。ここでは、こうした業務改善をBefore/After形式のイラストでわかりやすく伝える図を生成してみます。  そのために、まず以下のシンプルなプロンプトを作成します。

新機能による業務改善を表現する、Before/After形式のイラスト作成プロンプトを作成して。

 すると、AIが考えた汎用的なプロンプトが提示されます。なおこの記事では、おもにChatGPTやCopilot での回答を想定していますが、回答や質問文が長い場合があるので、適宜、要点を抜き出して編集しています。

「オフィスで働くビジネスマンのBefore/After比較。Beforeのシーンでは、社員が大量の書類に囲まれ、ストレスを感じながら手作業で業務をしている。混乱したデスク、困った表情、時計を気にしている様子が描かれている。一方、Afterのシーンでは、新しいITシステムを活用し、パソコン画面に効率的な管理ツールが表示され、社員が笑顔でリラックスして働いている。デスクは整理整頓され、周囲は明るく清潔な雰囲気。両シーンが左右に分割されている対比構図。」

 場合によっては複数や、日本語版と英語版が混じったプロンプトもあるでしょう。ここでは、単にベースとなるプロンプトを作成するだけなので、このまま次の指示を行います。

作成したプロンプトを分析して、不明点があれば質問して

 これに対して、AIは以下のような質問を返してきました。

1. 新機能は具体的にどのようなものですか?(例:自動化ツール、AI、業務システムなど)
2. 業務の種類や業種は?(例:営業事務、倉庫管理、医療事務など)
3. 主に誰の業務が改善されるのか?(例:一般社員、マネージャー、エンジニアなど)
4. どのような表現スタイルを希望しますか?(例:リアル調、フラットデザイン、漫画風、ビジネスアイコン風)
5. イラストの利用目的や場面は?(例:社内資料、外部向けプレゼン、Web掲載など)

 すべてを回答する必要はありませんが、次のように重要なポイントは回答しておきます。

プロンプトを修正して。営業部門における業務アプリで、日報や顧客情報の入力の改善(新UI導入、AIによる入力補助)を訴求したい。社内説明用のPowerPoint資料向け、ビジネス風イラスト、1枚の形式で。

 この回答を踏まえてAIが改善したプロンプトは以下です(ステップ1の完了)。

1枚のビジネス風イラストで、営業部門における業務アプリの改善をBefore/After形式で表現。
左側(Before)には、旧式のUIで日報や顧客情報を手入力している営業担当者が、時間をかけて疲れた表情で作業している様子。画面は複雑で入力欄が多く、紙のメモや電話対応も散らばっている。
右側(After)には、新しいUIとAI入力補助機能により、営業担当者が短時間でスムーズに入力を完了し、笑顔で次の業務に移っている様子。画面はシンプルで、音声入力や自動補完が表示されている。
背景はオフィス内で統一し、Beforeはやや暗めの色調、Afterは明るく爽やかな色調で対比を強調。
全体は左右分割レイアウトで、PowerPoint資料に適した横長構図。スタイルはビジネス向けのアイソメトリックまたはフラットデザイン。

 次に、ステップ2として、このプロンプトに対してさらなる改善点を要求します。

より良い画像を生成するための改善点を具体的に3つ以上挙げて

 すると、AIは以下のような改善点と、修正例(ここでは省略)を提示しました(ステップ2の完了)。

1.UI画面の具体的な描写
2.営業担当者の業務状況の違いを明確に
3.視線・表情・姿勢による感情の演出を強化
4.UI改善のキーワードを吹き出しや注釈で補足
5.背景の時間感覚や空間演出を工夫する

 これに対して、今回は修正点の1、4、5で提示されていた、3つの案のテキストをそのままコピーして、次のように入力しました。

プロンプトを修正して。
「After側の画面には、音声入力ボタン、顧客名の自動補完候補、シンプルな3項目の入力フォームが表示されている」
「After画面の横に『入力時間50%削減』『AIが顧客名を予測』などのラベルを配置」
「Beforeは暗い照明と時計が18時、Afterは明るい照明と時計が10時」

 するとこれらに対応した最終的なプロンプトは、以下になります(ステップ3)。

営業部門における業務アプリの改善を、1枚のビジネス風イラストでBefore/After形式で表現。
左側(Before)には、旧式のUIで日報や顧客情報を手入力している営業担当者が、疲れた表情で作業している様子。画面は複雑で入力欄が多く、紙のメモや電話対応が散乱している。照明は暗く、壁の時計は18時を指している。
右側(After)には、新しいUIとAI入力補助機能により、営業担当者が短時間でスムーズに入力を完了し、笑顔で次の業務に移っている様子。画面には音声入力ボタン、顧客名の自動補完候補、シンプルな3項目の入力フォームが表示されている。照明は明るく、時計は10時を指している。
After画面の横には「入力時間50%削減」「AIが顧客名を予測」といった改善ポイントをラベルや吹き出しで表示。
全体は左右分割レイアウトで、PowerPoint資料に適した横長構図。スタイルはビジネス向けのアイソメトリックまたはフラットデザイン。

 このプロンプトをChatGPTで使って生成した画像が以下です。

  • 対比されたイラスト(ChatGPTで生成)

    対比されたイラスト(ChatGPTで生成)

 初期のシンプルな指示に、具体的な要素が追加され、視覚化されています。ただし、時計表示が少しおかしく、一部の漢字に文字化けがあります。日本語の文字表記については、ChatGPTやCopilotの画像生成モデルでは、以前よりも正確に表示されるようになっていますが、まだ文字化けする場合があります。この対処方法については後編で詳しく解説します。
 他のAIツール(Copilot、Gemini)では、次のような結果となりました。同じプロンプトでも、AIツールによってこのような違いがあります。Copilotでは、日本語ラベルではなく、英語となっています。日本語で表示したい場合は、明示的に「日本語ラベルで」という指示が必要だとわかります。
 後編では、さらに別のAIツールでの例を解説します。

  • 対比されたイラスト(Copilotで生成)

    対比されたイラスト(Copilotで生成)

  • 対比されたイラスト(Geminiで生成)

    対比されたイラスト(Geminiで生成)

まとめ

 前編はここまでです。後編では、さらに技術的な概念を説明するための実践例、AIごとの生成結果の比較、そして料金プラン、日本語ラベルの対処法など、実務で活用するためのポイントを解説します。

WINGSプロジェクト 髙江 賢(著)山田祥寛(監修)
有限会社 WINGSプロジェクトが運営する、テクニカル執筆コミュニティ(代表山田祥寛)。主にWeb開発分野の書籍/記事執筆、翻訳、講演等を幅広く手がける。現在も執筆メンバーを募集中。興味のある方は、どしどし応募頂きたい。著書、記事多数。
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<著者について>
パソコン黎明期からプログラミングの進化を追い、Web・モバイル・IoT・AIまで多様な開発現場を駆け抜ける。
現在、株式会社気象工学研究所で気象×ITの最前線に立ちつつ、執筆コミュニティ『WINGSプロジェクト』のメンバーとして活動中。