
「トランプとAIという2つの大きなうねりが起きている」─亀澤氏はこう話す。米トランプ大統領の政策で世界が揺れ、AIなど新技術の登場が企業経営を変えようとしている。その中で三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)も自らのビジネスモデルから変化させている。「今の経済秩序が変わっていく中で、金融としてどういうソリューションが提供できるか」と意気込む亀澤氏の考えは─。
アメリカが示した世界経済秩序を変える意志
─ 米トランプ大統領の発言、政策で世界が大きく揺れる今ですが、現状をどう見ますか。
亀澤 今、2つのディスラプター(破壊者)がいると考えています。それが米トランプ大統領とAI(人工知能)です。この2つの要素は、既存秩序を崩壊させる力だと思っています。
今、トランプ大統領、アメリカは、この80年間続いた戦後経済秩序を見直そうとしています。他の国がどんどんモノを売りつけて、アメリカはそれを消費し続けたことで赤字を抱える国になりました。
今の自由貿易体制の中では、この形は崩れませんから、大きく元から変えなければならないということで、その1つのツールとして相互関税を使っているのだと思います。
ベースに、今の世界経済秩序を変えたいという強い意志があると思いますから、これはトランプ大統領がいなくなったとしても続く流れだと思います。
─ AIは、今や企業経営を大きく左右する存在になっていますが。
亀澤 ええ。デジタル化がどんどん進んでいますが、今までと違うのは、昔のITは人の作業をシステムが代替する世界でした。ところが、AIというのは我々の中に入り込んできて、思考を代替するような世界に入っていきます。
これまでは基本的に人がシステムを使っていましたが、AIは人と一緒のネットワークの輪に入ってきて、その一員となります。これは今までとは全く違う世界です。
トランプとAIという2つの大きなうねりが起きていると思っています。
その中で金融は、お金の流れはもちろんのこと、人、サービス、リスクの流れもつくっていく役目があります。その意味では、今の経済秩序が変わっていく中で、金融としてどういうソリューションが提供できるか。これは1つの大きなポイントです。
─ 金融業も変化をしていかなければならないと。
亀澤 そうです。もう1つ、AIに関して言えば、お客様の行動が変わるのに合わせて、我々もビジネスモデルを変えていかなければなりませんが、金融だけに閉じていてはいけません。
その一方で、金融としてしっかりした力を持っていないと選ばれなくなる時代が来るとも思っています。
MUFGは日本で最も大きな金融機関ですから、大きな変化の中で、日本の経済、日本の成長をつくっていく使命がありますし、グローバルな会社ですから、その変化潮流にはきちんとついていって我々としての役目を果たすことも求められています。
新事業領域を開拓する中で
─ 今「つくる」と言われましたが、銀行の中で新たな事業を起こすことも考えているということですか。
亀澤 そうですね。一緒につくっていくという意味で「事業共創投資」に取り組んでいます。その中では宇宙開発を手掛ける企業や、次世代半導体の国産化を目指す会社・ラピダスにも投資をしています。
我々の基本的な機能である融資もありますが、それ以上に投資や、お客様を紹介するといった形で、できることがたくさんあります。金融、特に銀行はネットワークが強いですから、そのネットワーク力を使って、様々なサポートをしています。
─ 新事業領域の開拓ということになろうかと思いますが、この領域はどこまで広がると見ていますか。
亀澤 分野としては宇宙や量子、AI、場合によっては医療、広告といった世界に対して今、様々な議論をしていますし、投資もしています。また、海外という意味ではアジアとアメリカ。ここはやはり強いマーケットですから逆輸入もできます。
例えばアメリカで先進的な取り組みをしているようなものを、日本のビジネスに生かすこともできるということです。その意味で、我々としてはウイングを広げています。
─ 亀澤さんは海外でも勤務された経験がありますが、新しい経済秩序の中での国と企業の関係をどう考えますか。
亀澤 日本の成長においては、国と官民の連携は、極めて重要だと思います。やはり同じ方向を向いていないといけません。
ただ、日本の場合は官と民との間で人の行き来があまりありません。一方でアメリカは、ものすごく官と民で行き来がある。個人的には、その人の行き来をもっとつくった方がいいのではないかと思っています。
そうしないと、官は民の考えがわかりませんし、民もどうしても官との距離ができてしまいます。ですから、政府にも民から入っていくような人材交流があってもいいのではないかと思います。
AIと人が共存する新たな働き方を模索
─ 先ほど、AIの重要性について話してもらいましたが、これからのAIと人の関係をどう展望していますか。
亀澤 先ほどお話したように、人がAIを使うのではなく、AIと人が一緒に仕事をするという世界が来ます。ですから、いま我々は会社を「AIネイティブ」な会社に変えようという取り組みを進めています。
具体的にはまず、人間の社員が働きやすい会社を一生懸命つくっているんです。働きがいがあり、一方で休みがきちんと取れたり、子育てができたりという環境づくりをしています。
同じように、「AI社員」が働きやすい環境もつくらなければなりません。それはどういう状態かというと、AIはデータの上でしか動けません。データがきちんとつながった状態にするためにデータベースを整理しているんです。
かつ、人がAIと一緒に働くメンタリティを持っていなければいけませんから、人にAIを理解する力を持たせようとしています。
─ その時に必要な力とはどういうものですか。
亀澤 AIと一緒に仕事をする時の指示の出し方や受け方といったことです。そのためには、会社の中の意思決定メカニズムを、それに合うように変えておかなければなりません。
その取り組みを、今やっと始めています。10年後には先ほど申し上げたような世界になっていなければいけませんから、今からそこに向けて準備しています。
それを担う部署として「デジタル戦略統括部」をつくっていて、そこがAIとデータの両方を手掛けています。AIとデータを別の部で扱うとうまくいきませんから、一緒にやるということです。
新たな総合金融サービス「エムット」をスタート
─ ところで、2025年6月から、新たな個人向け総合金融サービス「エムット」をスタートさせましたね。この狙いを聞かせて下さい。
亀澤 「エムット」は、マスリテール(不特定多数の個人顧客向け事業)の世界に、我々の新しい考え方を導入したサービスです。
デジタル以前は、様々な機能がバラバラでした。ですから、お客様の方も住宅ローンを借りようと思ったら銀行に行くし、投資をしようと思ったら証券会社に行くしという形でした。お客様自らが分けて対応していただいていたのですが、今は全てアプリで、ネット上でできます。
そうすると例えば、証券で投資をする時に銀行からの振り替えが自動でできる「オートスイープ」のような機能もあって、どんどん「横」でつながるようになってきました。
我々もお客様に「縦」でバラバラに対応するのではなく、「横」につなげた1つのパッケージでお伝えしたい。このサービスを「エムット」と呼んでいるんです。
─ MUFGが発足して、2025年で20周年ですね。改めて、この20年を振り返った思いと、これからのビジョンを聞かせて下さい。
亀澤 MUFGは、他にない、唯一無二の金融グループになっていると思います。それは何かというと、グループ力が強くて、グローバルも強くて、ということです。ユニークなポートフォリオを持ち、日本では圧倒的に強い力を持つことができています。
さらにアジアでもナンバーワンの金融機関になっていて、アメリカに関しては大手投資銀行・モルガン・スタンレーとの提携があります。これによってアメリカのマーケットでも一定のプレゼンスがある。こういう状況をつくることができている金融機関は他にはありません。
─ 今、亀澤さんは社内に向けて、どんな言葉で訴えかけていますか。
亀澤 特に最近は「先義後利」(まず道徳や人としての正しい道理(義)を優先し、利益(利)は後からついてくるものと考えるという意味の言葉)と言っています。
元々、私が社長に就任した際に、我々が何のために存在しているかと考えた時に、やはり社会課題があるから存在しているはずだと考えたのです。
─ まず、最初に「義」ありきだと。
亀澤 そうです。まず「義」がある。ですから「先義後利」であり、先ほど申し上げた「AIネイティブ」な組織であり、パーパスである「世界が進むチカラになる。」を体現していく会社になっていくことができるのだと思います。
これだけ変化の激しい時代に、上意下達ではもう無理ではないかと思うんです。ですから、いろいろな意見をいろいろな人が発信して、それをしっかり議論できるような組織でなければなりません。
そうした組織づくりに取り組んできましたが、正直申し上げて、会社が変化してきたという手応えはあります。