
日本興業銀行(現みずほ銀行)次長時代、カタールLNG(液化天然ガス)第1号案件を担当した。諸々の折衝後、資金計画概要・合意書調印の為、カタール・ドーハを訪問したのは1993年12月のことだ。
サウジアラビアの北辺、ペルシャ湾に小さく棘のように突き出ているカタール。国土は極小、原油生産量も小さい。当時、クウェートやアブダビ等と比し中近東内で格落ちの小国だった。サッチャー自伝にあるように「構造ガス保有国として世界最大級」だが、海外販売出来ず眠れる資産だった。
しかし、LNG1号案件が成功し、事態は一変。仏トタール石油らと共に三井物産・丸紅が事業出資者、中部電力がLNG年間400万トン全量を輸入、邦銀団が融資する日本のナショプロがカタールを大国に押し上げた。
第1号案件以降、眠れるガス資産を急速に継続開発、今やカタールは毎年8000万トンを輸出する世界3大LNG大国の一角だ。中近東を代表する放送網・アルジャジーラを擁し、イスラエル戦争で仲裁を試みる国際外交への参加野心も隠さない。トランプに航空機を贈与もする。
第1号案件は我が国にとっても意義深かった。我が国はLNGをブルネイ、インドネシア、豪州、アラスカ等、主に環太平洋圏から調達していたが、新たに中近東が加わる。
また、シェル石油主導案件が多かったが、他の事業出資者案件が現れた。案件成功のため、電力・商社・銀行等、民間は知恵を尽くしたが、国家も支援を強化した。
「地下資源の有無を探るのは石油公団(現エネルギー・金属鉱物支援機構)、存在が確認された資源を開発するのが輸銀(日本輸出入銀行、現国際協力銀行)」という棲み分けルールが一般的にあるのだが、経産省の英断で本件では輸銀のみならず石油公団も動員された。案件成立のため、官民でさまざま知恵を絞った記憶がある。
トランプ大統領がアラスカLNG案件にご執心と聞く。我が国は既に1969年からアラスカLNGを輸入しているが、トランプ案件はそれらとは異なる。ガス田はサハリンを凌ぐ凍冷地・アラスカ最北端にあり、液化プラント建設と1年間自由な積み出しが出来ない。
プラントと積み出し可能な港のある南部まで、北部からガス輸送のパイプラインを敷く必要がある。通常案件に比し膨大な費用を要する由だ。
LNG調達先が拡がる、かつ同盟国だという訳で、意義は理解出来るが経済性が難問。本件立ち上げの為には30年前のカタール1号案件に劣らぬ官民の知恵が必須だ。関係者の冷静な検討を期待している。