
内閣府は2025年度の年次経済財政報告を公表し、賃金と物価が上昇する好循環が「定着しつつある」との認識を示した。
実際、物価は22年以降に2%を超える上昇が継続し、それに伴い賃金も、春闘賃上げ率が2年連続して5%を超えるなど、四半世紀続いたノルムが確かに変わりつつある。
この好循環を確かなものにするには、生活の豊かさを実感できない要因である「マイナスの実質賃金」をプラス化することが必要である。
そのためには、2つの視点がある。1つは、物価上昇率を下げること。これには円安を修正することで日銀の利上げがポイントとなる。もう1つが、賃上げのギアを一段引き上げること。これには、成長力の強化が不可欠になる。
今年は関税の影響にも気を配らなければならない。おそらく企業は、相互関税の15%に対して、当面はディスカウントで臨み、長期戦が見えて来れば、価格の引き上げに動いて来るはずだ。その場合、輸出価格が上昇することで、輸出数量が減少し、企業収益が落ち込みといった影響を避けるため、企業は急激な円高を避けたいとの思いを強くするだろう。
日銀短観の6月調査では、企業の想定為替レートは145.72円。現状対比では、円高な水準にある。ただ、これから米国は利下げに動く可能性が高く、トランプ大統領も選挙を意識して、ドル安誘導の発言を連発する可能性がある。日銀の利上げだけでは、円高に大きく傾くと思わないが、慎重にも慎重であることが求められる。
仮に、金融政策の援護が望めないとすれば、これからの好循環は、賃上げのギアアップがカギとなる。
ここ数年の間に、賃上げや人への投資が進んできたのは間違いない。ただ、企業の財務データを見る限り、まだやれるとしか言えない。実際、企業の内部留保(利益剰余金)は、足元で637兆円と直近3年間で137兆円増えている。
経営者や市場の意識は、13年の市場改革で大きく変わり、株主還元は20年から約20兆円増えてきた。
しかし、投資はまだ弱い。企業は、インフレに対応するための付加価値創出で、研究開発投資や設備投資などを増やしているが、実質ベースでは頭打ちとなっている。
また、人への投資も、言われるほどには伸びていない。少なくともOFF-JTや自己啓発支援に対する企業の費用支出に、劇的な変化は起きていない。
トランプ関税の発動後、国内投資の重要性は高まっている。政策的には、企業による人的投資や設備投資を促す、税制措置などが必要になっている。さらには、株式市場として、自らの生産性を高めるため、1人当たり資本装備率を高める企業や、リスクある領域に投資をして、将来の成長基盤を作ろうとする企業を、従来以上に高く評価することが求められている。