【混沌期の中、日本の針路を探る】久保利英明・日比谷パーク法律事務所代表を直撃!

日本は本当に大丈夫か?

 ─ トランプ米政権による関税政策やウクライナ・中東での戦争などによって、世界が混沌としています。今年は戦後80年の節目でもあるわけですが、こうした現状を久保利さんはどのように受け止めていますか。

 久保利 わたしは8月29日で81歳になりますので、81の爺さんが何を言っているのかと思われるかもしれませんが、ここ数年の世界の変化は異質です。過去の常識は一変しました。経験が全く通用しなくなってしまった。そういう世界になっているような気がします。

 トランプ米大統領はハーバード大学等への圧力を強めているし、日本やEU(欧州連合)という最も親密な同盟国に対してもリスペクトは消えたように思われます。しかも、ブラジルには50%の関税を課すと言っているわけですよね。米国の大統領ともあろう人が、なんでこんなディール(取引)ごっこをしているのか。

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 ─ 同感ですね。戦後、われわれは、米国と言えば自由と民主主義の国だと思ってきました。トランプ大統領はそうした根底を覆していますね。

 久保利 トランプ氏の当選前に、『ヒルビリー・エレジー』というヴァンス副大統領の自叙伝を読んだのですが、われわれ日本人は、米国は豊かで世界の平和と人権の擁護者であると信じてきました。その中心にいるのが、WASP(ワスプ=ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)と呼ばれる人たちです。

 ところが、昨年の大統領選挙でトランプ大統領を支持したのは、ワスプではなく貧しい白人労働者階級でした。多くの貧しい人たちにとって、唯一の期待がトランプ大統領だったのではないかと思うんですね。

 つまり、今はしきりに分断、分裂と言われているけど、これは白人と黒人が分断されているわけではなく、白人層の中でリベラルとそうでない人たちの分断が起きている。それが今の米国の姿なのではないかと思います。米国では同じ白人同士であっても、恵まれた白人と恵まれていない白人の間の格差が大きいですよね。

 ─ 中間層がなくなってきていると。

 久保利 そうです。結局、先進国というのは分厚い中間層があるからこそ、バランスが取れている。どの国にも富裕層がいて、貧困層もいるけど、真ん中に中間層がいることによってバランスが取れていた。ところが、その中間層がなくなってしまったから、一部の巨大な富裕層と大多数の貧困層がむき出しの対立をするようになった。それが昨年の大統領選挙だったのではないかと思います。

 そういう視点で考えたら、米国は明らかに変わったし、トランプ大統領の行動も理解できると思います。わたしは皆が言うほどトランプ大統領はバカではないと思うから、彼なりに本気で米国の行く末を心配しているのだと思うんです。民主主義国家なんて綺麗ごと言っていると、本当に中国に負けてしまうぞ、負けてなるものか、という思いが「MAGA(米国を再び偉大に)」になったと思いますし、米国人の深層心理の中にあるんだと思います。

 ─ トランプ大統領の「米国第一主義」(MAGA)を支持する米国国民は半分いるわけですからね。

 久保利 そうなんです。白人といっても皆が皆、ワスプではないし、ハーバードを卒業しているわけでもない。インテリ層と隔絶したラストベルト(錆ついた工業地帯)の労働者が多数いてトランプ支持層の岩盤になっているということですよね。

 そうしたことを考えると、やはり、今は世界が激動期に入ったと思いますし、これは米国だけでなく、日本もEUも同じような状況になっているのではないかと。そして、日本の周辺には中国や北朝鮮やロシアという国があって、世界がぐちゃぐちゃになっている。そういう中で、今回の選挙を見ていても、日本は本当に大丈夫なのか? と思いますね。

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