
参院選後の自民党内の騒動は8月末にヤマ場を迎える。参院選惨敗を受けても〝居座り〟を決め込む党総裁で首相の石破茂に対する「石破降ろし」の動きは新たなステージに突入。臨時総裁選の実施も視野に入る。衆参両院で過半数を失った「少数与党」と多党化する野党の動きが相まって、政界の枠組み変更に直結する大政局になりかねない。激動の国際情勢の中で、日本の進路を決める重要な分岐点となりそうだ。
総裁選に現実味
「総裁選を実施すべきかどうか、意見集約を図ってもらう。その方法は総裁選管理委員長のもとで検討してもらう」
8月8日、自民党本部で開かれた両院議員総会で、両院議員総会長の有村治子がそう提案した。大きな反発もなく、党則に基づく臨時総裁選を実施するかどうかの対応を総裁選管理委員会に委ねることが決まり、出席していた幹事長の森山裕は「党則に基づいて対応する」と応じた。
この日の両院議員総会は、7月の参院選惨敗を受けても続投する石破への不満が噴出する中で、臨時総裁選の実施を議決するかが焦点となった。約260人の議員が出席し、30人以上が発言した。石破の退陣論や総裁選実施を求める声が続出した。
党内の「石破降ろし」に先手を打つために党執行部が開いた7月29日の両院議員懇談会でも退陣要求が相次いだが、非公式な意見交換との位置付けにとどまり、不満や反発の動きは収まることはなかった。
党則6条4項は「党所属の国会議員及び都道府県支部連合会代表各一名の総数の過半数の要求があったときは、総裁が任期中に欠けた場合の総裁を公選する選挙の例により、総裁の選挙を行う」と定めている。旧安倍派や旧茂木派、麻生派などを中心に総裁選実施に向けた署名集めが進んだ。
両院議員総会は党の意思決定機関とはいえ、都道府県連側に出席を要請する権限はなく、この日の会合で総裁選実施を議決することはできない。総裁選管理委員会に対応を一任することで、紛糾することを避けた格好となった。
「明らかにステージが変わった」。党政治改革本部長の渡海紀三朗が両院議員総会後に語ったように総裁選実施が現実味を帯びる。
党則6条4項は、いわゆる総裁の「リコール規定」と呼ばれる。内閣支持率が低迷しながらも、当時の首相・森喜朗が居座りを決め込んだことなどから、2002年に党則に加えられた。
現在、自民党所属の国会議員は衆院195人、参院100人の295人。47都道府県連の代表者を含めて、総数342のうち過半数の172が賛成すれば適用される。
窮屈な政治日程
だが、そう簡単ではなさそうだ。過去に適用された例はなく、細かい規則もない。総裁選管理委員長の逢沢一郎は総会後、「どのようにして(賛否の)確認をするかなどの方法論について何の規定もない。自民党の歴史の中で経験がないから、議員、党員に対して公正な総裁選でなくてはならない。きちんとした仕組みを作り上げることが必要だ」と語った。
そもそも総裁選挙管理委員11人のうち欠員が6人おり、メンバーを揃えることから始めないといけない。党内で過半数の署名が集まっても、署名の真偽を確かめる作業も必要だ。賛否を公表することになれば、「棄権」や「賛成でも反対でもない」という議員が増えるかもしれない。
慎重に進めざるを得ず、逢沢は「どういうやり方を決めるか管理委員会のメンバーが揃えば相談する」と語り、一定の時間がかかるとの見方を示した。石破の「時間稼ぎ」に利用される可能性もある。
石破と反石破勢力の溝は深まり、収束する気配はない。党内のゴタゴタが長期化すればするほど、国民の自民党離れが拡大し、政治不信は強まる。今後の政治日程にも影響することになり、「国政の停滞」を招く。それだけに、「総裁は自ら身を引くべきだ。居座れば居座るほど政治空白が長引く」(中堅)などの声が漏れる。
それでも、石破は8月8日の両院議員総会で「米国との関税交渉合意に達したが、それを実行するにあたり、様々な問題を抱えている。我が国の関税よりも投資であるという考え方、そして米国輸出だけでも4318品目ある。それぞれの産業に従事をしている方々に少しでも不安がないよう、全力を尽くす」などと語り、続投する考えを強調した。
これまでも「我が国は今、米国の関税措置、あるいは物価高、明日起こるかもしれない首都直下地震、南海トラフのような自然災害、そして戦後最も厳しく複雑な安全保障環境。国難とも言うべき厳しい状況に直面している。大切なことは国政に停滞を招かないことだ」と続投する理由を訴えてきた。「首都直下地震が起きるまで続けるつもりなのか」などと皮肉られたが、最大の理由は「トランプ関税」への対応といえる。
日米合意を巡り、日本政府は一時35%ともされた相互関税について「従来の税率が15%以上の品目は相互関税が上乗せされず、15%未満の品目は15%になる」と説明した。ところが、米政権が8月7日に発動した日本への相互関税は、既存税率に一律15%を上乗せするものだった。牛肉は既存税率26.4%に15%が上乗せされ、41.4%になる。
日米の食い違いが生じ、混乱したものの、米政権が一律15%を上乗せする大統領令を修正することを受け入れた。交渉担当者の経済再生担当相・赤澤亮正は関税協議のための9度目の訪米から帰国した際、「合意を上回る部分について大統領令を修正し、同じタイミングで自動車と自動車部品も引き下げる大統領令を発出することを確認した」と強調した。
ただ、その時期については明確になっていない。さらに、合意文書を交わさず、「口約束」だったことが日米の認識の違いを生んだとされ、石破政権に対する不信感は根強いままだ。米国と合意した英国や欧州連合(EU)、ベトナムなどは混乱していないから、なおさらだ。
赤澤は「日米合意を誠実かつ速やかに実施していくことが最優先で、合意文書の作成に関する考え方は変わっていない」と述べ、作成しないとの立場を改めて表明。「日米合意に関する共通認識を一つひとつ確認しながら合意の着実な履行に向けて議論を重ね、緊密に連携していく」と語った。
少数与党への圧力
そもそも、日米トップが会談し、合意の握手をしていれば、ここまで大きな齟齬はなかったはずだ。石破は米大統領・トランプとの首脳会談による最終合意に意欲を見せるが、日程は不透明なまま。対米投資などでも日米間の認識の齟齬が指摘される。
しかも、大統領令を修正する時期は不透明。英国への自動車関税の引き下げの実施が米英合意から54日かかったことから、一定程度の時間が必要とされる。臨時総裁選を実施することになれば、日米関税交渉の大詰めの時期と重なりかねない。
関税交渉が最終決着するのを待って総裁選を実施することになれば、秋の臨時国会や26年度予算案の編成作業といった政治日程に大きく影響する。
野党各党は7月の参院選で、物価高対策として消費税減税やガソリン減税などを訴えてきたことから、衆参両院で「少数与党」となった自民、公明両党に圧力をかけることが想定される。
特に、ガソリン1リットルあたり25.1円が上乗せされている暫定税率の廃止を巡っては、与野党が財源確保や地方財政への配慮などの課題を含めて早期に実施することで合意し、実務者で協議していくことを確認した。先の臨時国会には立憲民主、日本維新、国民民主、共産、参政、保守、社民の野党7党が暫定税率廃止法案を国会提出している。
ただ、ガソリン税の減税による税収減は年1兆円規模とされる。自民党内には「恒久的な財源が確保されるかどうかが大事だ」(税調会長の宮沢洋一)などと、慎重に議論すべきだとの意見が根強い。それでも野党側が主導権を握り、年内には暫定税率は廃止される流れが出来上がりそうだ。
さらに、立憲民主党や日本維新の会など野党11党・会派は8月4日、国会内で政策責任者の会合を開き、消費税減税を巡り意見交換した。立憲民主党や日本維新の会は食料品に限って時限的に0%にすることを訴え、国民民主党は一律5%への引き下げを主張。共産党は将来的に0%にするとしている。
それぞれの主張に温度差があり、「それぞれ違いはあるが減税をしていこうということでは一致する。引き続き消費税のあり方について議論をしていく」(立憲民主党政調会長の重徳和彦)という。
新たな枠組み
少数与党の自公両党にとって、掲げる政策を実現させていくには、野党側の協力が不可欠となる。個別の政策ごとに、個別に野党と協議して実現を図る「パーシャル連合(部分連合)」を模索する動きもあったが、与党が参院で過半数を回復するには少なくとも6年はかかるとされ、パーシャル連合では時間と労力がかかりすぎる。
それだけに、臨時総裁選を実施して新しいリーダーを選んだとしても、自公両党が衆参両院で過半数を確保するため、新たな連立相手を模索する可能性が高い。
そうした中で、石破は8月4日の衆院予算委員会で、立憲民主党代表の野田佳彦からガソリン減税に関し「財源、地方への配慮、流通への影響などの課題を、死に物狂いで、与野党で知恵を出し合って、早期に実施することを確約してくれるか」と迫られると、「実施できるように、私どもも努めていきたい」と即答した。石破は企業・団体献金の見直しでも「その通りにしたい」と応じた。
さらに、石破は野田との質疑応答の最後にこう付け加えた。「同時に決して忘れてはない論点は医療、年金、介護であり、子育てだ。少子化が進んでいる中、この内容をどうするかも併せて議論しないと成り立たない。国民の社会保障を併せて議論をさせていただく機会について代表の理解を得たい」
石破はこれまで医療や年金などの制度を持続可能なものにするための社会保障改革を訴えてきたため、首相時代に「社会保障と税の一体改革」を主動した野田との連携を見据えたやり取りとされた。石破と野田は共に財政規律重視の姿勢のため、自民党と立憲民主党との「大連立」構想への布石とも受け止められた。
もっとも、党内で「石破降ろし」が拡大する石破と、先の参院選で議席増を果たせなかった野田の接近には「求心力を失ったリーダーで党内をまとめることは難しい」といった冷ややかな声が聞かれた。
いずれにせよ、既成政党への不信感が膨らみ、単独で政権を担うことができない多数の少数政党が乱立する時代に突入した。多様化する民意の表れだとしても、それを束ねる強力なリーダーシップが求められている。今後の日本の舵取りをどうしていくのか、与野党共に重い責任を背負うことになった。(敬称略)