ここ数年、マーケティング業界でファーストパーティデータ活用の戦略が次々と登場しています。これは、プライバシーに関する規制の変化により、意味のある顧客データを取得することが困難になったことへの対応策として生まれたものです。これらの戦略は今後も進化・成長を続けるでしょう。

筆者は、ファーストパーティデータによる体験の提供やプロダクト主導の成長戦略こそが、ユーザーのWeb体験をパーソナライズ・最適化するための自然な進化と考えています。したがって、特定の同意プロンプトなしにGoogleがサードパーティCookieを継続すると決定したことは、もはや無意味な議論です。

GoogleにとってはサードパーティCookieの使用が引き続き行われる一方で、市場の大多数はファーストパーティデータ戦略およびファーストパーティCookieの価値をすでに受け入れています。

この出来事の意義を理解するには、まずサードパーティCookieの成り立ちを振り返る必要があります。

1994年に生まれたCookie

Cookieは、1994年にNetscapeによって、Webサイトを訪問したユーザーを追跡するために開発されました。まもなく、アドテク企業のDoubleClickは、サードパーティCookieを使ってユーザーをWeb全体で追跡できることに気づきます。そしてGoogleは、2008年にDoubleClickを買収しました。

この買収により、サードパーティCookieが一般ユーザーのWeb体験のあらゆる場面に拡大していきました。Googleは、自社のグローバルな影響力と、多くのブランドのデジタル資産とのつながり、そしてそれらのブランドが収集した情報を活用するための技術基盤を組み合わせたのです。

このアプローチは、マーケターたちがGoogleのプラットフォームに依存せざるを得ない状況を作り出しました。というのも、Googleの技術なしには、ユーザーの行動や関心、購買意欲などをインターネット全体にわたって把握することができなかったからです。

GDPRとAppleによる制限がもたらした変化

2018年5月、EUでGDPR(一般データ保護規則)が施行され、ユーザーのデータ権利に関する意識が高まりました。ユーザーの追跡前に同意を得るという概念が確立されたのです。

これに加えて、Appleがデバイスレベルでの制限をかけたことで、マーケターはサードパーティトラッキングに依存できなくなりました。業界全体が、個人を特定し、行動を統合し、信頼できるプロファイルを作成する手段を見直さざるを得なくなったのです。

こうした動きと、より安全で信頼できるインターネットへの世論の高まりに対し、GoogleはサードパーティCookieの廃止を約束しました。この動きは当然とも言えるものでした。なぜなら、ユーザープライバシーの侵害に関する訴訟がGoogleを長年悩ませていたからです。

しかしこの「3度にわたる公約」は反故にされました。Googleは2024年7月、このブログ記事にて、ChromeでサードパーティCookieを継続すると正式に発表。さらに2025年4月のフォローアップ記事では、ユーザーに対してサードパーティCookieの選択を個別に求める新たなプロンプトは導入しないと決定しました。

GoogleのPrivacy Sandboxブログ投稿が投げかけた疑問

GoogleのPrivacy Sandboxに関するブログ記事は、広告業界にとって重要な点が多く、ユーザーに対しては説明が不足していました。ブログでAnthony Chavez氏(GoogleのPrivacy Sandbox担当VP)は、サードパーティCookieの廃止を見送る理由として、「ユーザーにクロスサイトトラッキングの有無を選択する機会を提供する」と述べています。

もちろん、ユーザーの選択肢があることは極めて重要です。ただし、Googleはブログで「この選択肢を本当に提供可能かどうかを、プライバシー規制当局と協議する」とも明言しています。

ここで、マーケティング業界が疑問視されたのは、「すでに多くの消費者がアプリに対するデータ追跡を拒否することに慣れているのに、なぜ今さらブラウザでは違う結果になると考えるのか?」ということです。結局のところ、サードパーティCookieが機能していたのは、ユーザーに選択の余地がなかったからなのです。

今後、ユーザーが選択できるようになれば、同様に「追跡しない」を選ぶ傾向が強まり、結果として企業はファーストパーティ戦略へとますます傾倒することになるでしょう。

ファーストパーティデータ活用戦略はすでに新たな業界標準に

多くの企業が、ファーストパーティデータ活用戦略に多額の投資を行ってきました。これには、従来のCookie依存型の測定やアトリビューション、データ処理方法を補完する新しいAPIの構築も含まれています。また、データ管理体制の整備や、企業側のコンプライアンス確保、消費者のプライバシー保護への対応にも資金を投入しています。

ファーストパーティデータの利活用はまだ発展途上ではあるものの、すでに一定の成果を上げ始めています。この流れは加速しており、サードパーティCookieのアプローチはやがて歴史の中に埋もれていくでしょう。

今後、さらに多くのテクノロジーベンダーが、プライバシー強化技術(PETs)やコンプライアンスを重視した新機能を提供していくことで、ファーストパーティ戦略はより強固なものになると考えています。もはや企業がサードパーティCookieの復活を期待するのは非現実的でしょう。これまで5年間にわたり積み上げてきた基盤を捨てて、データブローカーからデータを再購入するような後戻りをするとは思えません。

ファーストパーティCookieは業界を変えました。マーケターたちは、もう振り返ることはないでしょう。

データが示す、ファーストパーティデータ活用の力

ここ10年で初めて、GoogleとMetaを合わせた広告費シェアが業界全体平均で50%を下回った(出典:eMarketer)というデータがあります。これはつまり、ファーストパーティデータによるマーケティングが勢いを増していることを意味しています。マーケティング予算の大きな部分を勝ち取りつつあるのです。 この動きは、マーケターがサードパーティCookieを見限っていることを示しています。たとえあるブランドが、サードパーティCookieを使うために自社の技術環境を再構築したとしても、市場全体がそれを支援するとは限りません。

ほとんどの人がトラッキングを「拒否」するのであれば、サードパーティデータという通貨の価値は著しく弱くなるのです。そんな手法に、マーケティングチームが時間や労力を費やすとは思えません。

Privacy Sandboxの最新発表があろうと、GoogleがサードパーティCookieを廃止しないと宣言しようと、それらはすでに「過去のもの」なのです。ファーストパーティデータ活用戦略こそが、これからのマーケティングの未来をつくる上でのカギです。

著者プロフィール


Amplitude Field CTO(フィールド最高技術責任者)Ted Sfikas

Ted SfikasはTealium、HP、CAをはじめとする複数のグローバル企業で要職を歴任、デジタルマーケティング、プロダクト、データサイエンス領域の顧客に対し、データドリブンな戦略の立案と実行を支援している。 最新のデータ戦略、デジタルトランスフォーメーション、マーケティングテクノロジー/アドテク分野に精通しており、テクノロジーとメディア・エンターテインメントとの融合領域において高い専門性を発揮している。